閑話 叡智の女神の悩み
叡智の女神。
アルが迷宮に置き去りにされ、命の危機に陥った際に偶然作り出された魔術。
それは知識を備え、自我を持つ、インテリジェンスマジックだ。
アルの問にはだいたい速やかに答えることが可能で、また献身的にアルのサポートを行い、相棒の座を獲得した。
ソフィアは肉体を持たないため性別などは存在しないが、本人は女を主張している。
彼女が女性であることを示すものかは定かではないが、アルがディアナやフィデリア、アイラなどと仲睦まじく話していると不機嫌になる傾向がある。
恐らく嫉妬であると見受けられる。
そんな彼女は今悩みを抱えていた。
アルに女が寄ってくるだのと言った生ぬるいものでは無い。
そんな彼女の切実な悩み。
「どんな身体にしてもらいましょうか?」
それは自身の身体についてだった。
以前アルはソフィアに身体を用意することを約束した。
ソフィアはもしそうなったら嬉しい程度のつもりで答えたが、アルは真に受けソフィアの身体を作るために努力している。
特に王都に来て、リーシャのところに居候するようになってからは、その充実した書庫に入り浸り、ゴーレムやホムンクルスに関する書物を読み漁るなんてことも多々あった。
アルはなんだかんだで有言実行する男だ。
やると言ったらやる。
だからソフィアの身体を用意するところまでは辿り着くだろう。
問題はその後だ。
ソフィアは魔術である以前に1人の女のつもりだ。
容姿にはそれなりに拘りたい。
故にどんな身長、どんな顔、胸や尻の大きさなどの悩みは尽きない。
「ご主人はどんな容姿が好みでしょうか?」
身長、体型、髪の長さや顔のパーツ。
ソフィアはアルの好みを想像するが、はっきり言ってよく分からなかった。
「ではご主人と親しい方の容姿を参考にしてみましょうか」
まずはディアナ。
ナビルスのギルドにて働く受付嬢だ。
赤みのある長い髪が特徴的だ。
身長は大きくなく、比較的小柄な体型をしているが、胸はそこそこある。
次にフィデリア。
アルと戦ってから親しげに話すようになった女だ。
銀髪のストレートヘアーが特徴的で、女性の平均的な身長で、スレンダーな体型をしている。
ちなみに胸も尻も控えめである。
最後にアイラ。
アイラに関しては冒険者と受付嬢という仕事での付き合いだが、アルの力を見抜いた彼女をソフィアは一方的に認めていた。
茶髪のショートヘアが特徴。
彼女も身長は平均的で、体型も至って普通。
ただし、出るところは出ている。
「うーん。皆さんバラバラですね。強いて言うなら身長は大き過ぎない方がいいということでしょうか?」
この3人のデータを参考にするならば、切り取れる情報は今のところそれしかない。
「むむむ…しかし、ご主人が実は身長の大きい女性が好みだったらどうしましょう」
一般的に男性は自身の身長より小さい女を好むと言われている。
だがアルもその一般的な考えをしているかは、叡智の名を冠するソフィアを持ってしても分からない。
そもそもそれを言い出してしまうと、ディアナ達を参考にする必要は無くなるのだが、アルの好みを探るのに必至なソフィアはその事実に気付いていない。
「髪は長い方が好みでしょうか?それとも短い方?色や髪型はどうしましょうか?」
悩みは尽きない。
とにかくアルに好かれるために思考を巡らせる。
しかし、突然その思考を放棄した。
「やめましょう。こんなこと考えていても時間の無駄です。ご主人に全てを任せておけばご主人の趣味嗜好を兼ね備えた肉体が得られるはずです」
ソフィアはあれこれ考えるのをやめた。
結局アルに全てを委ねることにしたのだ。
「そうです。ご主人が作ってくれるのですから、そこにはご主人の希望が詰め込まれているに違いありません」
アルの希望。
それこそがアルの好みであることを確信したソフィアは、晴れやかな笑顔を浮かべた気分になった。
「早くご主人の隣を歩きたいですね」
その願いはきっと叶うだろう。
ソフィアの主はアルなのだから。
そんな願いを込めて、ソフィアは今日も動き出す。
アルを支える第2の頭脳として。




