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33話 太陽を司る者

 アルはギルドに来ていた。

 同伴者はフィデリア。

 ちなみにレイチェルは誘ったが気分が乗らないからまた今度にしてと断られたため今日はいない。


「なんの依頼を受けますの?」


「討伐系は確定だよね」


「ではこれなんていかがでしょうか?」


 フィデリアが取ったのはオーク討伐。

 Cランクの依頼だ。


「あ、ごめん。僕まだEランクだからもう少しランク下げてもらえる?」


「…………冗談ですよね?」


 事実である。

 しかし、実際にアルと戦ったフィデリアは納得がいかない。


「嘘って言って欲しいですわ」


「残念ながら本当だよ」


 アルは鞄からギルドカードを取り出してフィデリアに見せる。


「本当ですわ」


 アルのギルドカードを見て口をあんぐりと開けるフィデリア。

 証拠を見せたのにも関わらず、何度も目を擦り見直している。


「アルくーん」


 そこに第三者の声が入る。

 受付嬢アイラの声だ。

 声のした方を向くとカウンターから身を乗り出して手を振っている。


「やっほー。アルくんがいたから声かけちゃった。それにしても王都に来たばかりで女連れとは中々やるね。彼女さん?」


「ち、違いますわ。アルくんとは付き合っていません。ただ、住んでるところが同じなだけですわ」


「えっ、一緒に住んでるの? それって同棲?」


 彼女という言葉に反応し、顔を赤らめて反論を述べたフィデリアだが、口走ったことはさらなる悲劇を呼んだ。


 何故か疑惑が交際から同棲に繰り上がってしまった。

 その事に気付いたフィデリアはさらに顔を赤くしてアワアワしている。


「からかわないでください。リーシャさんのところにお世話になっているだけです。それにフィデリアとはつい先日顔を合わせたばかりですよ。付き合っているわけがないでしょう?」


 アルは落ち着いてアイラを諭す。

 彼女も分かった上だったのか、舌を出して可愛らしく笑う。


「むぅ」


 付き合っていることを真っ向から否定されたフィデリアはむくれている。

 交際しているかと言われれば否定はするものの、こうもキッパリと否定されるとまるで自分に魅力がないかのように思えてしまう。

 女心とは難しいものである。


「僕でも受けられる討伐依頼で何かいいのありませんか?」


 アルは本題を切り出す。


「そうねー。アルくんは今Eランクだから、これとかどう?」


 アイラは1枚の依頼書をアルの前に置いた。


「えっと、鉱山地帯のメタルスライム討伐ですか。大繁殖って書いてますけどそんなに沢山いるんですか?」


「うん。入口付近の浅いところの鉱石がそろそろ取れなくなるくらいにはいるかな」


「「うわあ」」


 アルとフィデリアの声が重なる。

 アイラの説明で鉱山の惨劇を想像出来たためげんなりしている。


 メタルスライムは名前の通り鉱物を主食とするスライムなのだが、繁殖力はそれほど高くない。

 こまめに駆除していれば滅多に繁殖はしないのだが、鉱山の鉱石を食い潰す程の数となるとそれはもう大変な数である。


「分かりました。お願いします」


「え?受けるんですの?」


「魔術の練習と思えばちょうどいいかなと思って。ほら、動く的が沢山みたいな」


「なるほど……確かに動く的が沢山ですわね」


 面倒だから他の依頼にしようとアルを説得しようとしたフィデリアだが、アルのポジティブシンキングに納得してしまう。


「はーい。じゃあ頑張ってねー」


 そうこうしているうちに受注が完了してしまう。

 こうしてアルとフィデリアはメタルスライム討伐の依頼を受け、鉱山地帯へと向かった。


 ◇


 ◇


「うわあ」


 鉱山地帯についたアルは絶句した。

 目の前に広がるスライム。

 右を見ても左を見てもスライム。

 鉱石が尽きるのも必至なスライムの数だ。


「なんかどこに打ち込んでも当たりそうだよね」


「ええ、そうですわね」


 適当に、それこそ目を瞑って魔術を使っても命中しそうな程、的がそこら中に散らばっている。


「とりあえず倒すしかないよね」


「そうですわね」


「じゃあいこうか」


 フィデリアは詠唱を開始する。

 しかし、詠唱がないアルの方が魔術の完成は早い。


灼熱の翼(ヒート・ウイング)


 アルは炎の翼を広げ、舞い上がる。

 フィデリアはその姿を見て詠唱を途中でやめてしまう。

 見とれているのだ。

 凛と煌めく炎を纏い、優雅に空をかけるアルの姿に。


 アルは空中から爆炎を放ち、スライムを倒していく。

 フィデリアはしばらくその姿を眺めていた。

 まるで初めて絵本を開いた子供のように目を輝かせて。


「フィデリアー。やらないのー?」


 空中から聞こえたアルの声ではっと我に返ったフィデリアは、負けじとスライムに攻撃する。


「――――サンダーアロー!」


 雷の矢がスライムの核を寸分の狂いもなく穿つ。

 バチバチと迸る紫電がメタルスライムの柔らかい体を溶かしていく。


「サンダーアロー! サンダーアロー!」


 フィデリアはアルに目を奪われそうになりながらも、魔術を連発する。

 幸いにも的は沢山ある。

 練習だと思って何度も雷の矢を放つ。


紅蓮の手(ボルケイノ・ハンド)


 アルは炎の手でプチプチとスライムを握りつぶしていく。

 アルも自身の鍛錬だと思い、コントロールを意識しながら、炎の手を操作する。

 しかし、その膨大な数のスライムは一向に底を突く気配はない。


「キリがないな」


 アルはフィデリアの様子を見て少し悩む素振りを見せた。

 アルはフィデリアの魔力枯渇を心配していた。

 もちろんフィデリアも自身の魔力残量を把握して、配分しながら使っているだろうが、如何せんスライムが多い。

 燃費のいい初級魔術でちまちま倒していても、魔力が枯渇する方が早いだろう。


「フィデリアー、魔力残量あとどれくらい?」


「三割切りましたわ」


 アルはフィデリアに魔力残量の確認をする。

 それを聞いたアルは、急降下、そしてフィデリアを抱き上げ、空へと攫った。


「な、な、何してますの?」


 突然景色が変わり、気付いたらアルの腕の中にいたフィデリアはじたばたと暴れる。


「いきなりごめんね。でもスライムに囲まれていたから」


 先程までフィデリアが立っていた場所には無数のメタルスライムが集まっていた。


「あ、ありがとうございます」


「うん。それで纏めて倒しちゃおうと思うんだけどいいかな?」


「構いませんわ。まだこんなに居るのですもの……」


 視点が切り替わったことでメタルスライムの数がよく分かる。

 結構な数を倒してきたつもりだが、それが実感できなくなるほどにはまだまだいる。


水獄の堅牢(ブルー・ジェイル)


 アルは視界内にいるメタルスライムを全て水の檻に閉じ込めていく。

 メタルスライムは水の中で合体を繰り返し、徐々に巨大化する。

 やがて全てのメタルスライムを閉じ込め終えた時、檻ははち切れそうなほど膨れ上がり、メタルスライムの巨体は檻からはみ出しそうになっていた。


「解除」


 アルが水獄の堅牢(ブルー・ジェイル)を解除するとそこに1匹のビッグメタルスライムが姿を見せる。


「うわっ、デカイな」


 普通の一軒家並の大きさまでになったそれを見て感嘆の声を漏らす。


「あれをどうやって倒しますの?」


「ちゃんと手段は用意してあるよ」


 アルがそう言うと、アルの頭上に炎が渦巻き出す。

 そこに神聖属性の力が混ざり、螺旋を描く。

 ある一点に集まるように収束していくそれらは、やがて球の形へと変化していく。

 だがアルはまだ魔力を込め続ける。


 そして完成したのはビッグメタルスライムにも劣らない大きさの輝く炎球。


「日輪!」


 それをのそのそと移動しようとしているビッグメタルスライムに投下する。


 日輪。

 炎と神聖の複合魔術。

 神々しい光を纏った炎の球がビッグメタルスライムに迫る。


 そして着弾する。

 刹那――浄化の炎がビッグメタルスライムの巨体を、溶かすように焼いていく。

 舞い上がる爆炎と共に光の輝きも強くなる。


「……綺麗ですわ」


 フィデリアは燃え行くスライムの姿を見て、恍惚の表情を浮かべる。

 スライムを焼く炎、煌めく光、自身を抱き上げているアル、全てに目を奪われていた。


 やがて炎が消え、光も収束するとそこには何も無かった。

 あれだけ大きな炎の塊を落としたにも関わらず、地面へのダメージは見受けられない。


「依頼完了だね」


 地上に降り立つとアルはフィデリアを優しく地面に下ろす。

 フィデリアはアルの腕が離れて、しばらくすると、今まで密着していたという事実が頭をよぎり、鼓動が早まるのを感じた。


 そして脳裏をチラつくのはアルが扱っていた美しい炎。

 フィデリアはリーシャが扱う力強い炎とは一味違ったアルの炎に憧れを抱いた。


 自身もそんな炎を、アルと同じ力を手に入れたいと願ったフィデリアが、火魔術の特訓に着手し始めたのは、彼女だけの秘密である。



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