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32話 対抗色

「あの不思議な盾のようなものが光と闇の融合か……」


 リーシャは唸っていた。

 アルによく見ておくよう言われて、アルの動き、魔術を隈無く観察したが、よく分からなかった。

 それが自身が研究していた光と闇の融合が行われたものであるということには気づけたが、それだけだった。


「私も気になりますわ」


 少し休んで顔色が良くなったフィデリア。

 彼女も月蝕(ジ・イクリプス)の効果を解き明かすには至らなかったため、気になっている。


「アルくん、仕組みを教えてくれないだろうか? どんな術式を用いたんだい?」


「カイさんの手紙に書いてませんでしたか? 僕にそれを説明することは出来ません」


「どういうことだ?」


 アルはリーシャに近寄り、リーシャにだけ聞こえる声で理由を話した。


「そうだった。手紙にも書いてあったがすっかり忘れていた。無茶を言って悪かったね」


 アルの魔術には術式も詠唱もない。

 故に説明も出来なければ、伝授することも出来ない。

 カイがアルに頼んだのは見せることだけ。

 あとはリーシャが感じ取るしかないのだ。


「この魔術は月蝕(ジ・イクリプス)。リーシャさんが言ったように光と闇の融合です。効果は衝撃吸収と魔力吸収。フィデリアさんの魔術をガードしていたのは魔力吸収によるものです」


 アルは実際に目の前で魔術を使い、説明する。


「では私のウインドブラストを吸収しなかったのはなぜですの? やはり容量のようなものがありますの?」


「はい。完全吸収出来るのは初級、中級くらいですね。フィデリアさんのウインドブラストは明らかに吸収しきれないのが見てわかりましたので回避に専念させて頂きました」


「そうでしたの……でも最後は止められてしまいましたわ」


「フィデリアさんがウインドブラスト一辺倒になったのは明らかだったので、それに合わせて防御をしたまでです」


「私はてっきりウインドブラストは受けられないのではと思い、連発してしまいました」


 フィデリアの勘違い。

 それはアルがウインドブラストを受けられないと思い込んだこと。


 しないと出来ないでは雲泥の差がある。

 今回フィデリアはアルが防御しないのを出来ないと勘違いし、魔力消費を早めたのが良くなかった。


「話を戻しますが、この光と闇の融合に僕が注ぎ込んだイメージは消滅です」


「消滅?」


「ではお聞きしますが、光と闇の共通点は何があると思いますか?」


「なんでしょうか?」

「分からない」


「互いが弱点であること、とかか?」


 フィデリアとレイチェルはお手上げだったが、リーシャはアルが求める答えを捻り出した。


「そうです。光は闇を払い、闇は光を飲み込む。互いが互いを打ち消し合う性質。僕はそこに目をつけました」


「なるほど……」


「あとはその打ち消すという性質を少し弱めて吸収、要は弱体化やデバフのように使えたらと思って調整しました」


「共通か……その発想には驚かされた。アルくんはいつもそんなことを考えているのか?」


「そうですね。僕の場合、そういった融合、いわゆる複合魔術を考える時は色に置き換えて考えてますね」


「色?」


「火や炎は赤、水や氷は青、風は緑で雷は黄色。土や岩は茶色で光や神聖が白、闇や暗黒が黒と言ったように対応する色を当てはめるんです」


 アルは自分の考えを説明する。


「例えばですが、赤と青。これらの色の相性はいいと思いますか?それとも悪いと思いますか?」


「悪い」

「悪いと思いますわ」

「悪いと思う」


「ではこれを火と水に戻して考えてみましょう。火は水で消えてしまいますよね。このようにどちらかに不利益を働くような色の関係のことを僕は対抗色と呼んでいます」


 対抗色。

 それは火と水。

 赤と青のように相性の悪い色の組み合わせ。


「しかし、相性が悪いからと言って融合が出来ない訳ではありません。水は火で温めるとお湯になりやがて蒸発します。火は火として使えなくても熱という性質も持っているからです」


「なるほど。属性全てを見るのではなくその中から必要な性質を取り出すことが大切ということか」


「そういうことです。同様に白と黒。光と闇も対抗色ですが、先程僕が言ったような性質の使い方も出来ます。ですがそれは一例に過ぎません」


 あくまでもそれはアルの考え方だ。

 詰め込む性質が変われば、魔術も変わる。

 複合魔術も人の数だけ生まれる可能性を秘めている。


「僕は互いに打ち消し合う性質に目をつけましたが、リーシャさんは違うことができるかもしれません。僕の真似をするのが正解になるとは限りませんよ」


 アルが与えるのはヒント。

 答えに辿り着くのはリーシャの仕事である。


「中々参考になる意見だった。それにしても色か……。そんなこと私は思いつかなかったよ」


「あくまでも僕の考え方なので参考程度にお願いします。リーシャさんはリーシャさんが望む形で光と闇の融合を成し遂げてくださいね」


「ああ。ありがとう。さてそろそろ戻ろうか。アルくんの歓迎会もしないといけないしな」


「あら、それは盛大にやらなければいけませんわね」


「豪華な料理、じゅるり」


「えっ、居候の身でそこまでして頂くなんて……何だか申し訳ないですよ」


「気にするな。これを機に皆と親睦を深めてくれ」


「……ありがとうございます」


 何を言っても無駄そうだったのでアルは大人しく受け入れることにした。


 ◇


 アルの歓迎会は盛大に行われていた。

 豪華な料理が並び、みんなでワイワイ楽しんでいる。


「アルくん、楽しんでますか?」


「フィデリア、楽しんでるよ」


 フィデリアとはフランクに話す仲になった。

 アルはフィデリアを呼び捨てで敬語なし、フィデリアはアルをくん付けするようになった。

 負けた相手に敬語で話されるのは嫌だとフィデリアがごねた結果、アルが折れる形でまとまった。

 ちなみにレイチェルとは互いに呼び捨てする関係になった。


「アルくんは強いですわね。私もそこそこ強いとは思ってましたが……。まさかリーシャ様以外に敗れるとは思いもしませんでしたわ」


「僕なんてまだまだだよ。上には上がいる。もっと強くならないと」


「私も頑張らなくてはなりませんわ」


「そう言えばリーシャさんがフィデリアとレイチェルはユニーク持ちって言ってたけどフィデリアは何なの?」


「私は雷ですわ」

「私は神聖」


「うわっ、レイチェルか。驚かさないでくれよ」


 突然後ろから声が聞こえ驚くアル。

 それを見てフィデリアはくすくすと笑っている。


「どうして僕との戦いで使わなかったの?」


「お恥ずかしい話なのですが、雷は風とはまた違ったもので、初級のものしか上手くコントロール出来ないのです」


「それなら使えば良かったんじゃない?」


「確かに雷は珍しいですが、それが強いとは限りませんの。普段から使い慣れている風の方が最適であると判断しましたので」


 一理ある。

 雷は火が炎になるのとは違い、風との扱いも変わってくる。

 経験値を引き継ぐ形ではなく、一からコツを掴む必要があるのだ。


「レイチェルは戦わなかったけどなんで?」


「私は支援回復が専門。攻撃特化のフィデリアが崩せなかった防御を私が崩せるわけがない」


「防御といえば、アルくん私に一度も攻撃してませんわね」

「そういえばそう。フィデリアの自滅で終わった」


 思い返すとアルはフィデリアに1度も攻撃をしていない。

 フィデリアの攻撃を防ぎ切り、フィデリアの魔力枯渇によるギブアップで勝利した。


「二人は冒険者でしょ? 今度一緒に依頼でも受けようよ。そうすれば僕も遠慮なく攻撃出来るし」


「いいですわね」

「やりたい」


 アルは2人と依頼を受ける約束を取り付ける。

 そこに酒を飲んで酔っ払ったリディアがやってきた。


「やあ、アルくん。飲んでるかーい」


「リディアさん、飲み過ぎですよ」


 リディアは呂律も回っておらず顔も赤い。

 かなりの量を飲んでいることを伺える。


「ちょっと、すいませんエレンさーん。この酔っ払い何とかしてください」


「あ、はーい。すぐ行きます」


 エレンを呼びつけるとすぐにリディアを回収して去っていった。


「リディアさんて、いつもあんななの?」


 エレンの1件で頼れるお姉さん的なイメージが定着しつつあったアルだが、たった今その幻想はガラガラと音を立てて崩れてしまった。


「酒を飲むとダメ人間になりますわね」

「絡まれるとめんどう」


 フィデリアもレイチェルもなんとも言いがたい表情をしている。


「逆にエレンさんは意外としっかり者だったりする?」


「仕事は出来ますわね。ただ融通は効きませんが」

「口うるさいお母さんみたい」


 アルに向かって土下座をし、命乞いをしながら泣きわめいていた者の評価とは思えない。


 リーシャの言った通り、親睦を深めるというのは意味のあることだった。

 アルはリディアやエレンのまだ見ぬ一面を見ることが出来て、嬉しいと思っている。


 ◇


 歓迎会も終わり、アルは与えられた自室のベッドに横になっていた。

 歓迎会を思い起こし、余韻に浸っている。


「楽しかったな」


 改めてここに住むように提案し、歓迎会まで開いてくれたリーシャに感謝する。


 こんな施設にも人にも恵まれた環境は中々ない。

 ここで自身の能力の向上を図りつつ、ソフィアのことも調べる。

 そういった今後の活動方針をざっくりと立て、眠りについたアルだった。


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