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31話 イージス

「あららら、また派手に散らかしましたね」


 アルとリディアはリーシャがぶちまけた紙を拾っていた。

 その紙には魔術案のメモや術式の構成がビッシリと書かれている。

 そんな紙が山になるほどある。


「凄いですね。この量……」


「これでも少ないほうよ。リーシャ様が本気を出した暁には部屋が埋まるもの」


 リーシャはアルが待ち遠しくて、何かを書く手も止まっていた。

 そのため、この程度で済んでいるのだ。


「私は片付けがどうにも苦手でね。気付くと溜まっているんだよ」


「そりゃ引きこもってずっと書いていれば部屋も埋まりますよ」


 どうやら日常茶飯事のようだ。


 リディアは慣れた手つきで素早く片付けをする。

 アルもちょこちょこと整理整頓をし、ある程度片付いたところで三人は腰を下ろした。


「すまないね。慌ただしくしてしまって。カイから手紙を貰ってから君が来るのを楽しみにしていたんだ」


「手紙にはなんと?」


「君の魔術が私の研究のヒントになるかもしれないと書いてあったよ。見せてくれるか?」


「いいですよ」


「ありがとう。それと君に会わせたい人が2人いるんだが呼んでもいいだろうか?」


「構いませんよ」


「リディア」


「はーい」


 リディアは部屋を出ていった。

 恐らく会わせたい2人とやらを呼びに行ったのだろう。


「君に一つ提案がある」


「提案? なんですか?」


「ここに住まないか?」


「はい?」


 いきなりの提案に驚く。

 そんなことを突然言われて困るのも無理はない。


「今リディアに呼びに行かせてるのは私の弟子だ。しかもユニークマジック持ちの。そのせいか周囲の者と実力が合わず鍛錬も一人でするしかないし、中々パーティも組めない」


 確かに実力差があるとおいそれと試合も出来ないし、パーティも上手いこと機能しないだろう。


「だが君ならどうだ? こう言ってしまっては私の弟子達には申し訳ないが、君が弟子に劣っているとは思わない。むしろ私の弟子が君から得ることの方が多いだろう」


「つまり、そのお弟子さんの成長を促すために僕に残って欲しいということですか?」


「それだけじゃない。私も君から何かヒントが得られるだろう。それに君にもメリットはある。家賃も取らないし、ここにある施設は使い放題だ。これから向かう結界が張ってある修練場や書物庫なんかもだ」


 アルにとってのメリットが大きかった。

 まず、結界付きの修練場。

 アルとしても本気で魔術を使える環境は非常に魅力的だ。

 それに書物庫。

 リーシャ程の名が知れた者の書物庫だ。

 さぞ有用な本が置かれていることだろう。

 ソフィアの身体を作るヒントが眠っているかもしれない。


「ぜひお願いします」


 ここまでの好条件。

 断る理由はない。


 アルは有難く居候させてもらうことにした。


「リーシャ様ー、フィデリアさんとレイチェルさんをお連れしましたよー」


 タイミングよくリディアが戻ってくる。

 後ろにはアルと同年代くらいの少女が二人いた。


「おお、フィデリア、レイチェル。彼がアルくんだ。今日からここに住むことになった。仲良くしてやってくれ」


「初めまして。アルと申します。今日からお世話になります。よろしくお願いします」


「ご丁寧にどうも。私はフィデリアと申します。以後お見知りおきを」

「レイチェル、よろしく」


 アルは自己紹介をする。

 それに2人は自己紹介を返してくれたが、フィデリアは気品溢れる挨拶を返す一方でレイチェルは特に表情も変えず一言喋っただけである。


「今からアルくんに魔術を見せてもらうために修練場に行くのだが、君達も来なさい。一戦相手してもらうといい」


「あら、それではまるでアルさんの方が強いと言っているように聞こえますが」


「事実だ」


(事実です。ご主人の方が強いに決まってます)


 リーシャ、並びにソフィアは即答した。


「ふ、ふふ。面白いわね。リーシャ様にそこまで言わせる貴方のお力、見せてもらいますわ」

「私は、どっちでもいい」


「では行こうか」


 ◇


 アル達がやってきたのは修練場――ではなく、黒い石版が敷き詰められた不気味な部屋だ。

 しかし、アルはその石版に術式が組み込まれていることを見逃さない。


「これは……転移ですか」


「ほう……分かるか」


 リーシャが足を載せると石版は光出した。

 人が乗ることをスイッチに発動するのだろう。


 全員が石版に乗ると浮遊感を感じ、景色が変わった。


「ここが……」


 ギルドの闘技場ほどある広い空間。

 対人用スペースもあり、個人練習用の的もある。


「ではさっそく、相手してもらいますわよ」


 フィデリアは戦う気満々である。


「アルくん頼むよ」


「リーシャさん、手紙にあった魔術を使うのでよく見ておいて下さい」


 リーシャの耳打ちにそう答えるとアルはフィデリアの待つ舞台へ上がる。

 アルとフィデリアは向かい合って、合図を待つ。


「はじめ!」


 リーシャの掛け声で戦いの火蓋は切って落とされた。

 先に動いたのはフィデリア。

 一瞬で詠唱を終わらせ、無数の風の矢を放つ。


「へえ……」


(ご主人に真正面から撃ち合いを挑む胆力は認めましょう)


 アルはリーシャをチラリと見ると、口を開く。


月蝕(ジ・イクリプス)


 アルは手元に光と闇の回転球を用意する。

 それを粘土を捏ねるかのように引き伸ばし、盾のような形にした。


 アルは自身に当たるはずだった矢をその盾で受け止める。

 魔力で形成させた矢は盾に吸い込まれて消えていった。


「なっ、何をしましたの?」


 フィデリアも驚いている。

 風の矢は小手調べで放ったものだが、手加減はしていない。

 それが消されたのだ。


 何が起きたか、何をされたか分からないフィデリアは混乱するが、大きく息を吐き落ち着きを取り戻した。


「――――ウインドブラスト」


 風属性上級魔術。

 風の塊をぶつけるというシンプルな技だがその威力は絶大。

 烈風が音を立ててアルに迫る。


(これは吸収しきれないかな)


 受け止めきれないと判断を下したアルは回避を選択した。

 射線から外れるように横に逃げるが、フィデリアはそれを見越していたのか、風の矢の追撃を放っていた。


月蝕(ジ・イクリプス)


 再び盾を形成し、風の矢を受け止める。

 横に飛ぶように回避したためバランスを崩していたが、転がるように受身をとり、すぐに立ち上がる。


「やりますわね」


「そっちこそ凄いじゃないですか」


「無傷のあなたに言われても嬉しくありませんわ」


 フィデリアは必死に攻略法を探るが、月蝕(ジ・イクリプス)の効果を測りかねているため、有効な策は出ない。


(アルさんはウインドアローはあの訳の分からない盾で受け止めましたが、ウインドブラストは避けましたわ)


 アルが取った行動の違い。

 そこにヒントが隠されている。


(もしかしてウインドブラストは受けられないのではないでしょうか?)


 まだ仮説だ。

 だがフィデリアは試してみることにした。


「――――ウインドブラスト」


 烈風がアルを襲う。

 ここでアルが取ったのは――回避行動だ。


 フィデリアは続けざまにウインドブラストを放つ。

 アルは避けるのに精一杯だ。


(あちらは大技に絞ってきましたね)


月蝕(ジ・イクリプス)がウインドブラストを吸収しきれないのがバレたかな)


 アルもここまであからさまに攻撃が偏ると察しがつく。


(じゃあ受け止めてみようか)


 フィデリアは一つ勘違いをしていた。

 アルはウインドブラストを受けられないのでは無く、受け止めきれないから回避をしていたのだ。

 目の前に迫るウインドブラストを見て、アルは不敵に微笑む。


 ウインドブラストに月蝕(ジ・イクリプス)をぶつけてその勢いを削ぎ落とす。

 しかし、ウインドブラストの全てを吸収しきれないため許容量(キャパシティ)を超え、破裂する。


天使の翼(エンジェル・ウイング)


 純白の翼の繭のように構え、受け止める準備をする。

 月蝕(ジ・イクリプス)で多少勢いを落としたとはいえ、その威力は馬鹿にならない。

 しかし、アルは翼を羽に変換させることで勢いを散らしていく。

 そして翼は再生する。

 アルの防御体制は万全だった。


 風によって無数の羽が舞い上がる。

 やがて魔力による羽が全て霧散した時、そこに立っているのは無傷のアルだった。


「ふふ、参りましたの」


 フィデリアはそれを見て笑った。

 自分の全力を尽くしても通用しなかったのだ。

 悔しいよりも清々しい気分が勝っていた。


 フィデリアはレイチェルに支えられフラフラと舞台を降りる。


「どうだ? アルくんは強かっただろ」


「はい。上には上がいるのを改めて実感しましたわ」


「レイチェルもやるかい?」


「無理。私は攻撃向きじゃないし、フィデリアが無理だったなら私もあの守りは崩せない」


「はは、そうか。また気が向いたら相手してもらうといい」


 リーシャは笑いながら、弟子の頭を撫でていた。



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