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3話 信じる心

「皆さんはアルさんが死んだなんて思ってないですよね?」


 ディアナはギルドの冒険者に問いかける。

 ディアナはアルにそれなりの信頼を寄せている。

 だからこそデリックの言ったことは到底信じられないものだった。


「ディアナちゃん、俺達もあいつには世話になってるからあのクソ野郎の話なんて信じたくねえ。でも……」


 1人の冒険者が悔しそうに言い出す。


「デリックのクソ野郎ならやりかねん。あいつら秘密裏にアルをパーティから追放する計画を立ててやがった」


「そんなっ! 本当ですか?」


「ああ。俺はアルがあいつらから解放される、ようやく自由になれると思ってたが……まさかこんなことになるとはな……」


 パーティの追放。

 それはアルにとっても喜ばしいものになるはずだった。


 アルを知り、デリックの計画を知る者は誰もがそう思っていた。

 だがそうはならなかった。

 デリックの強硬手段。

 誰が迷宮で気絶させ置き去りにしてくると予想出来ただろうか。


「アルが一緒に戻ってこなかったって事は恐らくまだ迷宮の中か……最悪もう死んでるかもな」


「嘘です!  アルさんは生きてます!」


 ディアナはアルの死を認めない。認めたくないのだ。


「そうだ。皆さんにアルさんの捜索の依頼を出します。受けてくれますよね?」


 アルの捜索。

 ギルドからの依頼という名目で出されたものなら同じようにアルを思う者なら受けてくれるだろう。そんな望みや願いに近い戯言が彼女の口からこぼれ落ちる。

 そして案の定ディアナの縋るようなその言葉で動こうとする者はいない。


「無理だディアナちゃん。迷宮に入るのには準備が必要だ。だがこの時間、どこの店も開いてねえよ」


 時刻は夜の8時過ぎ。

 どこの店も店仕舞いしてる時間だ。


「それに難易度がな……ここにいる冒険者かき集めても安全に進めるか怪しいぞ」


 腐ってもBランクパーティ。

 デリック達が潜る迷宮の難易度はそれなりに高い。

 そして不運なことに今このギルドに実力者と言える者はいなかった。


「もし、依頼を出すにしても明日の朝だろうな。そのほうが可能性はある」


「……そうですか」


 ディアナの顔は絶望に染まり切っている。

 何とかしたい。

 でも何も出来ない。

 そんな無力さがグルグルとまわり、気持ち悪くなる。


「私が、私が探してきます!」


「ディアナちゃん!?」


 パタパタと走り、ギルドを飛び出そうとするディアナ。

 それを慌てて止める受付嬢。


「誰も行かないなら、私が、私が探して来ます」


「無茶よ!」


 何とか静止を振り切ろうとじたばたするものの、結果虚しく、ディアナはその場にへたりこんでしまう。


「どうしてですか? なんで止めるんですか?」


 ディアナはその嘆きがただの八つ当たりだと分かっている。

 分かっていても誰かにぶつけずにはいられなかった。


 ディアナを止めた受付嬢はそんな無力さに苛まれてすすり泣くディアナをぎゅっと抱きしめる。


「あなたにはやるべき事があるの。大丈夫。アルさんはきっと生きて戻ってくるわ。あなたは帰ってきたアルさんをそんな顔で迎えるつもり?」


 ディアナの顔は酷いものだった。

 だが言葉の意味を理解すると顔つきが変わる。


「そう……ですよね。アルさんは絶対に生きてます。それなのに私が、こんな顔で迎える訳にはいかないですね」


 その顔には決意が現れていた。

 アルは生きている。

 だからそれを笑顔で迎えてやろうと。


「私、今日はこのままギルドを開けてアルさんを待ちます。ひょっこり帰ってきても大丈夫なように待ってます」


「そういうことなら俺達も残るぜ。ディアナちゃんを1人にはしておけねえ。それにアルを叱ってやらねえとな。こんな可愛い子泣かせんなってな」


 ギルドの空気が一気に明るくなる。

 もはやこの場にアルの生還を信じぬものは1人もいなかった。



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