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29話 奔走

 アルはターニャ達と出会わない事を祈りながらギルドにやってきた。

 ギルドに彼女達の姿が見えないのを確認すると、アルはホッと胸を撫で下ろす。


 王都までの護衛依頼達成の報告をするためにカウンターに行く。


「すみません。これお願いします」


 ターニャのサインが入った依頼書を出す。

 対応してくれた受付嬢はテキパキと確認を終え、手続きを済ませる。


「ねえ、あなたここ来るの初めてでしょ? 私はアイラ、よろしくね」


 アイラと名乗る受付嬢はアルが初めて来たことを見抜き、自己紹介した上で手を差し出す。


 アルはその手を握り返すと自己紹介を返す。


「アルと申します。確かに初めてですがどうして分かったんですか?」


「私、記憶力には自信あるの。ここに来る冒険者の顔はだいたい覚えるけど、アルくんは初めて見る顔だから声かけさせて貰ったわ」


 冒険者ギルド。

 毎日毎日数えきれない程の冒険者が訪れる。

 特に王都本部ともなると各地から人が集まる。

 それらの人を記憶できるとは大した力であるとアルは関心した。


「えっアルくんFランクなの? 実はAランクくらいの実力持ってるでしょ?」


 アルのギルドカードを見ていたアイラが驚きの声を上げる。


(そうです! 分かりますか?ご主人、このアイラとかいう女、中々見る目ありますよ。いや、凄いです)


 ソフィアがアイラを褒め称える。


「……なぜ、そうお思いで?」


「何となくよ。私の勘は結構当たるから」


(やはりご主人から滲み出る強者のオーラを!? この女ッ、できる!)


 アルはソフィアがヒートアップしているのを聞き流す。


「買いかぶりですよ。それより僕でも出来る依頼何かありませんか?」


「うーん、そうね。トレント討伐とかどう? あと、ハニービーの蜂蜜採取とかもオススメよ」


「トレントとハニービーの生息地は近いですか?」


「ええ。ハニービーの巣に向かう道にトレントはいるわ」


「分かりました。両方受けます」


 トレントとハニービーの生息地を聞いて、アルはどちらも受注することを決める。


「あっ、そうだ。君のこと気に入ったから次来た時も私の所に並んでね」


「分かりました。では行ってきます」


 アイラは手を振ってアルを見送る。

 その顔は新しい玩具を手に入れた子供の顔だが、後悔するのもそう遠くない。


 ◇


 トレント討伐とハニービーの蜂蜜採取の依頼を受けたアルは森にやって来ていた。


 ハニービーは森の奥に巣があり、トレントはその森に生息している。


 アルは歩きながら出てきた魔物を倒していた。


月蝕の手(イクリプス・ハンド)


 アルのお気に入りハンドシリーズの第4弾。

 以前に編み出した月蝕(ジ・イクリプス)の効果を持つ手だ。


 衝撃と魔力を吸収する手。

 それは攻撃に使えばデバフ、防御に使えば吸収による物理魔術共に軽減と幅広く使える。


 直接的な攻撃力はないが、アルは気にいっていた。


「主に弱体化か。使えるね」


 物理も魔術も受け止められる。

 掴めば相手を弱体化させる。

 まさに理想的なものだった。


 今は試運転で魔物相手に戦っているが、特に不便には思わない。


「おっ、トレント見っけ」


 お目当てのトレントがいた。

 気付かれぬようそっと近づいて、月蝕の手でガッチリ掴む。


「グギャ、グギャギャ?」


 突然掴まれ、力を奪い取られるトレントは戸惑いの声をあげる。

 抵抗はしているものの徐々にその力は弱まり、静かになる。


 魔力を奪われ弱体化したトレントを翼でへし折る。


 トレントは倒してしまえばただの木材だ。

 討伐証明の枝をとって残りは無限収納にしまう。


 トレントは意外と使い道が多くあり、家具に加工したり、薪にしたりとその需要は高い。


 アルも料理の際に利用したりしているので、ここで手に入れられるだけ手に入れておきたい。


「もう3匹くらい倒そうか」


 アルはハニービーの巣に向かいつつもトレントを探し、森の中を散策する。


 ◇


 ◇


 ◇


 無事に目標数のトレントを倒したアルはハニービーの巣に来ていた。

 大樹の枝に出来ている巣はかなり大きい。

 そしてその周りには巣を守るようにハニービーが飛び回っている。


 アルはゆっくりと近づく。

 ハニービーも反応するが、アルに敵意がない事が分かったため特に何もしない。


「ごめんね、蜂蜜少し分けてもらうよ」


 アルは小型ナイフでハニービーの巣に傷をつける。

 そこからしみ出てきた蜂蜜を瓶に入れていく。


「いい匂い。それに濃厚だね」


 アルは蜂蜜の状態を評価する。

 ハニービーもアルの言葉が分かっているのか、作った蜂蜜を褒めてもらえて嬉しいというのをアルの周りを飛び回り表現している。


「ありがとう。使わせてもらうね」


 必要量を取り終わったアルはハニービーにお礼を言い、来た道を戻っていく。


「何でかな?」


 アルは不思議だった。

 何故ハニービーの蜂蜜採取の依頼が危険と言われるのか分からなかった。

 ハニービーは基本的には人畜無害なのだが、明確な敵意を持つものには手痛く攻撃をする。

 ハニービー無くして蜂蜜は手に入らないのに、ハニービーに攻撃を仕掛ける人がいることが、アルにはどうにも理解出来なかった。


「ハニービー、可愛いのにな」


 そんなことを呟くが、誰かの耳に届くことはないだろう。


 ◇


 ◇


 ◇


 時は遡ってアルが依頼を受け、ギルドを後にした数十分後。

 1人の女性がバタバタとギルドに入り込んでくる。


 急いできたのか肩で息をしている。

 落ち着いたところで受け付けに向かう。


「あれー、エレンじゃん。どうしたの?また何かやらかしたの?」


 受付嬢アイラは旧知の仲であるエレンにからかうように口にする。


「うん。やらかしちゃった。ここにアルという冒険者は来てない?」


 アル。

 それはアイラも興味を持った、謎多い少年の名だ。


「来たけど、どうかしたの?」


「実は……」


 エレンはぽつぽつと事情を話し出す。

 アルが魔術研究所の所長であるリーシャの客であること。

 自身はそれを知らずわざわざ足を運んでくれたアルを門前払いで帰してしまったこと。

 リーシャ曰く、アルは炎の魔女と名高いリーシャと同等かそれ以上の力を持っており、アルが暴れたら王都アウロラが永久凍土と化すこと。


 エレンは包み隠さず説明した。

 それを聞いたアイラは自身の親友の所業に苦笑いしながらも震えが止まらない。


(え、Aランク程度に納まる器じゃないってこと? もし、彼の機嫌を損ねてたら私死んでた?)


 エレンは実際にリーシャの元で働いているため話はリーシャから聞ける。

 そしてリーシャが言ったこととなるとその話の信憑性も非常に高い。


「エレン、あんたなんてことしてくれたのよ。昔からそそっかしいけどこれは酷いわ」


「だって、知らなかったんだもん。彼がリーシャ様のお客様だと知っていればあんな対応はしていないわ」


 アイラは知らぬ間に王都を危機に陥れたエレンを諌めるが、もはや時すでに遅し。


「それで、アルくん探してどうするの?」


「彼がいたら謝罪してリーシャ様の元へお連れしようと思ったんだけど……」


「アルくんなら依頼を受けて森に行ったわ」


「そんな……」


 エレンはがっくりと膝をつく。


「彼が来たら事情は話して、そっちに行くように行っておくわ。だからあとは自分で何とかしなさい」


「…………お願いね」


 アイラは親友が今にも自殺しそうな顔でギルドを出ていくのを見送った。


(アルくんを怒らせないようにしないと)


 なるべく、アルを刺激しないように、それでもってエレンを許して貰えるように。


(あ、胃が痛い)


 親友から引き受けた仕事にちょっぴり後悔するアイラだった。


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