28話 またいつか
最終日。
無事王都アウロラに入る門を目の前にした。
依頼もこれで終了。
報酬も既に貰ってある。
検査を終えて門を潜ったら、別れになる。
それを少し寂しく感じているとターニャがが話しかけてくる。
「アルさん。少し聞いてもらってもいいですか?」
「なんですか?」
「あの後みんなで話し合ったんです。アルさんが言っていたように殺さないと殺されてたというのも分かりました。でも納得はいきませんでした」
「でも話してる内に気付いた。盗賊を殺さなければならなかったのは、私達が弱かったからだと。私達が強ければ殺さずに捕らえることも出来たはずだと」
「だから三人で話し合って決めたんです。殺さなくても済むように強くなろうって。アルさんよりも強くなろう」
ターニャ達は悩んだ。
その答えをアルに求めたものの解決には至らなかった。
だがヒントは得た。
それをもとに皆で話し合い、一つの結論に辿り着いた。
弱かったから殺すという選択肢しか選べなかった。
だが強ければ、殺さないという選択肢を選ぶことが出来ると。
アルはターニャ達が、自分なりの答えを見つけたことを嬉しく思う。
(中々言いますね。ご主人に勝とうなんて千年早いですよ)
(いや、分からないよ? 僕もうかうかしてられない)
(いーえ、ご主人はもっと強くなるので彼女達が追いつくのは厳しいですよ)
ソフィアもターニャ達をそこそこ認めている。
アルに追いつくのは無理ではなく厳しいと言っているのが何よりの証拠である。
「そうですか。では僕も負けないように頑張らないといけませんね」
審査の列が進み、アル達の番がやってくる。
特に問題もなく通され、王都アウロラに足を踏み入れる。
「本当にお世話になりました。アルさんのおかげでこれからもやっていけそうです」
「私達強くなるから、また今度戦ってくれ」
「次はアルさんを負かしてみせます」
ターニャ達は口々に思いの丈を述べる。
「はい、楽しみしてます」
アルも強くなった彼女に再戦を挑まれるのは楽しみだ。
「「「またいつか」」」
「はい、どこかで会いましょう」
ターニャ達の背中をアルは笑顔で見送った。
(この感動の別れ方してすぐに鉢合わせたらめちゃくちゃ恥ずかしいですね)
「あっ」
◇
◇
アルは先にリーシャの研究所を訪れることにした。
ソフィアが言ったようにターニャ達に鉢合わせるのは恥ずかしい。
ターニャ達もギルドに向かった可能性が高いので、依頼達成の報告は後回しにする。
カイから場所は聞いていたので、特に迷うことなもなく辿り着いた。
「結構大きいな」
アルは研究所の見た目の感想を口にする。
その建物は施設と言うよりは屋敷というのがしっくりくるたたずまいだ。
アルは入ってすぐの受け付けらしきところに行く。
「すみません、リーシャさんに用があってきたのですがいらっしゃいますか?」
リーシャに用があることを伝える。
「失礼ですがお名前をお聞きしても?」
「はい、アルと申します」
「少々お待ちください……申し訳ありませんがアポイントをおとりではないようなのでお引き取り下さい」
「えっ」
「リーシャ様はお忙しいため、ご自身が認めた方しかお会いになりません。アポイントがないということは会う資格がないということです」
どうやらリーシャには会わせて貰えないようだ。
アルは何度か確認するように頼んだが彼女は聞く耳を持たなかった。
彼女の話はまあありえなくはない話だが、それならばカイが知ってなければおかしいだろう。
ともあれ不満を言っていても仕方がないので今回は引き下がることにした。
「仕方ない、ギルドに行くか」
どの道来ようと思えばいつでも来れる。
アルは気持ちを切り替えてギルドへと向かった。
◇
◇
◇
「おかしい」
研究所の自室でリーシャは呟いた。
「いくらなんでも遅すぎる」
リーシャはアルが訪ねてくるのを楽しみにしていた。
カイからアルが王都に行く、研究所に行くように言っておいたと手紙が来てから楽しみにしていたのだ。
アルが依頼を受けながらアウロラに来るのは知っていたため、遅くても今日までには来るだろうと踏んでいたが、待てども待てどもアルがやってくる気配はない。
「カイの手紙からしてアルくんは私の研究を進める手助けになるかもしれん。待ち遠しいものだ」
リーシャは椅子に寄りかかり足をブラブラさせて嘆いている。
そこにノックの音が響く。
「どうぞ」
「失礼します。先程アポイントをお持ちでない方が尋ねて来ましたので報告を」
「名は?」
「アルと言っておりました」
リーシャの目が輝く。
「やっと来たか! いや、待ちくたびれた。さあ、アルくんを案内してくれ」
それを聞いた受付は呆気を取られる。
「え? あの、アポイントをお持ちではないのですよ?」
「だからなんだ?そもそもアルくんは私が呼んだのだ。もういい、私から出向こう」
リーシャはアルに会いたくて仕方がなかった。
自らアルの元へ行こうと立ち上がる。
その様子を見た受付はダラダラと汗を流しながら申告する。
「あの……非常に申し上げにくいのですが……アル様はアポイントをお持ちではなかったのでお帰りいただきました……」
「そうかそうか。アルくんは帰ったのか………………帰った!?」
アルがもうここにはいない。
立ち去ったあとだということを認識したリーシャは酷く落ち込んだ。
「ああ。なんという不運だ。彼こそが研究を進める鍵だったのに…」
「彼はリーシャ様がそこまで言うほどのお方なのですか?」
「そうだ。人としても素晴らしく魔術の才も私を遥かに超える」
「えっ」
受付でアルを追い返した女、エレンはガチガチと奥歯を震わせる。
リーシャがそこまで言う人を何も聞かずに追い返したのだ。
しかも、呼んだのはリーシャだと言う。
全面的に研究所側に責任があるのだ。
「あの……つかぬ事をお聞きしますが、アル様の力をご存知なのですか?」
「ああ。彼は凄いよ。私の全力の炎を氷で相殺した」
「……………」
エレンの顔はどんどん青ざめていく。
アルがどんな気持ちで帰って行ったかを考えると気が気でない。
「あの……もしかしたらアル様に大変不快な思いをさせてしまったかもしれません。呼び出しておいて門前払いなんて……」
事実そうなのだ。
カイの頼みもあるが、王都に来た時は寄ってくれと頼んだのはリーシャだ。
エレンはそのリーシャの客のアルを帰してしまったのだ
これ程失礼なことはないだろう。
「やってしまったものは仕方ない。それにアルくんのことを伝え忘れていた私にも非がある。とりあえず彼は冒険者だからギルドの方に連絡しておけば話は伝わるだろう」
リーシャとしても思うところはあるがさほど心配はしていない。
ギルドに伝言を頼んでおけばそのうち顔を出してくれるはずと思っている。
しかしアルをよく知らないエレンの心配は無くならない。
確かに受付で話した時は気が短いようには思わなかった。
だが、内容が内容なのでどうにも気分が優れない。
「あの……もし、彼が報復行動をとったら……どうなりますかね?」
「報復か……彼に限ってそんなことはないと思うが……もし、あったら全てを諦めないといけない」
「全て……ですか?」
「ああ。彼が本気で暴れたらアウロラなんて永久凍土だ」
リーシャはアルが氷属性を得意としていると勘違いしているためこのような例えをしたが、実際それも可能なのだ。
報復対象をこの研究所に絞ったとしても、その余波でアウロラの四割は凍り付くことになる。
「まあ、そんなことにはならないから安心したまえ」
安心出来る要素が何一つなかったエレンはこの世の終わりみたいな顔でリーシャの自室を出ていった。
エレンは早く謝罪をして楽になりたいがために急いでギルドに向かいアルを探すことにした。




