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26話 ランク≠強さ

「ほんとにやる? 今謝ったら許してもいい」


 闘技場にて向かい合うアルとターニャ達。

 ルナは売り言葉に買い言葉でアルの実力を見ると言ってしまったが、アルが謝るなら中止してもいいと思っている。


 自分の力に自信があるのだろう。

 ましてや三対一。

 ルナは負ける要素を探す方が難しいと思っていた。


「心配して頂かなくて結構ですよ」


 アルは口ではこういっているものの内心憂鬱だった。

 カトレアに対する愚痴が山ほど出てくる。


 自信満々に任せて下さいと言われ、任せた結果がこれだ。

 どうしてと叫び、小一時間理由を問い詰めたい気持ちをグッと抑え、ターニャ達を見据える。


(彼女達、強いと思う?)


(それなりに。ですが対魔術は恐らく貧弱なので、ご主人が本気で攻撃するのは控えた方がいいかと)


(分かった。じゃあ防御メインでたまに反撃すればいいか)


天使の翼(エンジェル・ウイング)


 戦闘方針が決まったアルは翼を広げる。


「どうぞかかってきてください」


「じゃあいきますよ」


 ターニャがそういい、合図を出すとターニャとルナが剣を抜き、同時に地面を蹴ってアルとの距離を詰める。

 それと同時にサシェは魔術の用意をする。


 アルはそれを確認すると、自身の身体を翼で繭のように覆う。

 ガキンガキンと鈍い音が響く。

 ターニャとルナは何度もその翼を切りつけるが、未だ破るには至らない。


「どいてください!」


 サシェから声がかかるとターニャとルナは一旦退いた。

 それと同じタイミングで魔術がアルの翼に着弾する。

 しかしそれでもアルの要塞を崩せない。


(結構戦い慣れてますね)


(そうだね。連携も中々いい)


 アルとソフィアの評価は上々だ。

 ターニャとルナの左右から連撃に、サシェの援護射撃。

 前衛2、後衛1のパーティでは理想の形ではある。


 それらを真っ向から全て受け止めたアルは、感心していた。

 しかし、それと同時に欠点も見抜いていた。


「もうおしまいですか? それでは次はこちらからいきますよ」


 繭を開き、顔を見せたアルはそう告げる。


悪魔の手(イーヴィル・ハンド)


 6本の手を出し、3人に2本ずつ差し向ける。

 剣を持つターニャとルナは手を切り落とすことで何とか対処した。

 しかしサシェは――。


「きゃあああ」


 その2本の手に抑えられていた。

 前衛から離れてしまったサシェはアルにとって浮いた駒だ。

 真っ先に狙いたくなる。


「サシェ!? うわ、きゃっ」


 サシェの叫びに気を取られて余所見をしてしまったターニャもアルが新たに出した手に抑えられてしまう。


 あっという間に仲間を無力化されたルナは、アルをキッと睨む。


「まだやりますか? それならばこれで相手してあげますよ」


 アルは翼を引っ込めて炎と氷の手を差し出す。


「ひっ、参りました」


 ルナが化け物と謳い、逃げ出した存在。

 カトレアの嘘かと思っていたそれが目の前にいた。

 その姿を目の当たりにしてもはや反抗しようとは思わない。

 ルナは素直に負けを認めた。


 ◇


「申し訳ない」


 ルナは改めてアルに頭を下げていた。

 依頼を受けてくれた人に対してしてもよい言動ではなかったことを省みて、誠心誠意謝罪をする。


「頭を上げてください。僕は気にしてませんよ。それに、ほら。僕ってルナさんが言った通り強そうに見えないですし。見た目で判断するのを控えて貰えれば僕はそれで大丈夫です」


 ターニャ、ルナ、サシェはコクコクと頷く。

 ランクで格下と思い込んでいた相手に三対一で負けたのだ。

 アルの言葉をすんなりと受け入れる。


「ではアル様が依頼を受けるということでよろしいですか?」


「もちろんです」


 勝負をする流れに持っていき、ただ結果を見守っていただけのカトレアは淡々と手続きを進めていく。


「よろしくお願いします」


 正式に依頼を受けることになったアルはターニャ達と握手をしていく。


「では打ち合わせをしましょうか」


「そうですね」


 アル達は近くの喫茶店に入り、話をすることにした。


「計画を立てましょう。まず、王都まで徒歩で約二週間、天候などのトラブルがあることを想定して15、6日かかるとしましょう。その間の食糧事情はどうなっていますか?」


「話は聞いているかもしれないですが、私達、オークションでお金が必要なんです。だから道中の食費を浮かせるためにサバイバルに秀でた方を募集しました。何とかなりますか?」


「大丈夫です。食べられる野草や香草、木の実を集めながら、狩った魔物を調理していけば問題ないでしょう。ってどうかしましたか?」


 狩った魔物を調理という言葉を聞いたルナとサシェが露骨に嫌そうな顔をした。


「以前に狩ったボアの肉を焼いて食べたことがあるが、本当に不味かった。ああ、思い出しただけで吐き気が……」


 ルナの顔が青ざめていく。


(あー、絶対下処理してないですね)


(だね)


 ボアの肉は下処理をしっかりすれば美味しく頂ける。

 むしろ不味く調理する方が難しいとアルは考えている。


「大丈夫です。ちゃんと美味しく調理できる方法もお教えしますので安心してください」


「それは非常に助かります」


「あとは……野営することになりますが、経験はありますか?」


「えっと、お恥ずかしながら……」


「分かりました。簡易テント等は僕のをお貸ししますので」


「そこまでして頂いていいんですか?」


「ええ。睡眠は大切ですから」


 アルが旅の食事と睡眠は何よりも重要だと思っている。

 ルナが青ざめているように、不味い食事はモチベーションの低下、或いは不調に直結する。

 それを取り除き、パーティに日常感を与えるのが美味しい食事の役割だ。


 そして睡眠。

 人間である以上睡眠を切り離して生きていくことは不可能だ。

 しかし、ただ眠ればいいという訳でもない。

 質の悪い眠りは、体力の回復を妨げる。

 そして疲れた体で長旅は危険だ。

 快適な旅にするには睡眠の質も考慮しなければならない。


「せっかくなので皆さんには色々と実践してもらいますよ。僕が同行するのも今回だけです。僕がいないから出来なかったという言い訳は通用しないので、みっちり叩き込みますよ」


「お願いします!」

「よろしく頼む!」

「が、頑張ります!」


 アルは自身の知識、技術を伝えられるだけ伝えるつもりだ。

 あとはどれだけ彼女達に学ぶ意欲があるかだが、この返事なら問題ないだろう。


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