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25話 王都へ

 月蝕(ジ・イクリプス)を完成させて以来、カイはやたらと王都に行くことを勧めるようになった。

 早くリーシャに会いに行けという圧が凄まじい。


 その圧に負けたアルは王都へ向かうことに決めた。

 そのため今回は王都までの護衛依頼を受けることにした。


 護衛依頼は依頼者に着いていき目的地までの護衛をするものだ。

 依頼者はその依頼を出す際にいくつか条件を出すことが出来る。

 危険を退けたい場合は高ランクの者に限定したり、魔術を使える者など何か決まったスキルを要求するようなものもある。


 アルは現在Fランクなためランク指定されている依頼はほぼ受けられないと言っても過言ではない。


 そういうことなので特に条件がない依頼を探していると王都までの護衛依頼がいくつかあった。


「すみません、少しいいですか?」


 めぼしい依頼書を三枚手に取り空いているカウンターで受付嬢を呼ぶ。

 やってきたのはカトレアだ。


「アル様。お待たせしました。どうかされましたか?」


「護衛依頼を受けようと思うのですが、それぞれの概要を聞きたいです」


 そう言ってアルは三枚の依頼書をカトレアに渡す。


「分かりました。ではこちらの依頼主はウォーレン商会のウォーレン様です。なんでも仕入れるものは全て自分の目で確かめたいと仰る方で、こうして各地をご自身で周っている変わったお方です」


「へえ、評判はいいんですか?」


「はい。報酬も羽振りがよく、冒険者の方ともこれといったいざこざはありませんね。それにウォーレン様自身、冒険者の方々とお話するのが好きみたいで、依頼を受けた方の評判もいいですよ」


「それはいいですね。でも一旦保留で次のお願いします」


 聞きた限りではかなりいい案件に思えるが、ひとまず置いておく。

 アルは次の依頼の詳細を尋ねる。


「はい。こちらの依頼主はザガーン商会のモース様。王都から商談で来たようですが道中で盗賊に襲われ護衛を失ったようです」


「盗賊からは逃げ切れたんですか?」


「依頼を受けた方の生存報告は受けてません。恐らくですが囮に使われたのだと思います」


 カトレアの顔が曇る。

 依頼を斡旋する側としても、この依頼は受けて欲しくなさそうだ。


「ではそれは却下で。最後のお願いします」


 アルが断ると心無しかカトレアも嬉しそうだ。


「こちらは冒険者の方ですね。依頼主はターニャ様。護衛の分類されてますが正しくはガイドですね。節約しながら進みたいため、サバイバルに秀でた方を探しているらしいです」


 アルはターニャからの依頼に興味を惹かれた。

 護衛の依頼に含まれてはいるが、要は臨時のパーティメンバーの募集だ。


「ターニャさんはどういった目的で王都に?」


「来月開かれるオークションに欲しいものがあるそうです。それを落札するための資金を温存したいとの事で移動も馬車を使わず徒歩、報酬も少なめとなっていますが……」


 ナビルスから王都まで歩いて2週間くらいだ。

 その間に魔物や盗賊と遭遇することを考えると割に合わない。


「ターニャさんのランクは?」


「彼女は現在Cランクです」


 アルはその依頼を前向きに検討していた。

 彼女がオークションで何を落札しようとしているかは知らないが、本気なのは確かだ。


「じゃあその依頼を受けます」


 幸いアルはサバイバルには秀でている。

 1人で戦闘、剥ぎ取り、料理をこなせ、薬草類などにも精通している。

 無限収納もあり荷物にも困らないため、足を引っ張るということもないだろう。


「よろしいのですか?」


 カトレアとしても割に合わない依頼であることは明確だ。

 それを分かってアルはウォーレン商会の依頼を取るかと思っていた。


「今お金には困ってないので。それに王都に行くこと自体が目的なので大丈夫ですよ」


 アルにはシャドウウルフの素材を売り払った臨時収入がある。

 シャドウウルフ程の魔物になるとその牙は武器になり、その皮は防具や貴族用婦人服にもなるので結構な額で売れた。


「ありがとうございます。私としてもこの依頼を受けてくださる方を探していたのですが、やはり報酬が割に合わないと中々受けてもらえず困っていたところでした」


 確かに報酬金貨一枚というのは割に合わない。

 馬車移動の護衛ならまだしも徒歩移動なので物資も時間も多くかかる。

 それでもアルは気にしない。


「ではこちらの依頼を受理させていただきます。依頼者がいらしたらこちらで話を通しておきますので……」


 と言ったところでカトレアの視線がギルドの入口に向く。


「あ、今入ってきた方々が依頼者のパーティですよ」


 そこには3人の女性がいた。

 カトレアは入ってきた彼女たちを手招きし、アルに紹介する。


「アル様、こちら依頼主のターニャ様、並びにパーティメンバーのルナ様とサシェ様です」


「初めまして。アルと申します。よろしくお願いします」


「ターニャです」

「ルナだ」

「サシェと申します」


 お互いに名前を名乗る。

 ターニャは依頼を受けてくれる人が現れたことにホッとしてるようだが、ルナはアルを見定めるような視線でジロジロと眺めている。


「お前、ランクは?」


「Fランクです」


「話にならない。私達は節約しながら進みたいの。足でまといの穀潰しは求めてない」


 Fランクと言うだけで随分な物言いである。

 しかし、アルは顔色一つ変えない。

 むしろターニャやサシェの方があわてふためいている。


「ちょっとルナ? いきなり何を言ってるの?」

「せっかく依頼を受けてくださる方にその言い方は失礼ですよ」


「ふん。足を引っ張られるなら私達だけの方がマシだ」


 ルナは腕を組んでそっぽを向く。

 仲間の言葉を聞いてもその発言を取り消すつもりはないようだ。


「困りましたね」


 アルは苦笑いを浮かべてカトレアに耳打ちをする。

 アルとしてはここで断られても、ウォーレン商会のおいしい依頼が残っているため何の問題もない。


「私にお任せ下さい」


 しかしカトレアには秘策があった。

 ルナを黙らせる取っておきの秘策が。


「そう言えばルナ様、先日ゴブリンやボアを蹂躙して回っている化け物がいると報告なされてましたよね?良かったですね。存在が確認されましたよ」


「正体は何?」


「それがこちらにいらっしゃるアル様です」


 ターニャ達もアルを目撃した冒険者だ。


 魔物を容赦なく叩き潰す姿。

 異形の魔術を扱う化け物。

 それを偶然にも目撃してしまった彼女達は、あまりの恐ろしさに逃げ帰り、報告していたのだ。


「寝言は寝てから言って。こいつは見るからに弱そうだし、何よりFランク」


 ルナはランクが強さを示す指針だと思っているのだろう。

 もちろんそれは間違ってないが、それだけが全てではない。


「何か勘違いなされてませんか? ランクは強さを示すだけのものではありません。強いて言うならランクはギルドへの貢献度を表したものです」


 ランクは一定数の依頼をこなすことで上がる。

 そのためどれだけ実力があろうと、依頼を受けなければランクは上がらない。

 逆に、どれだけ実力が低かろうと、コツコツ依頼を受けていけばある程度のランクにはなれる。


「アル様は強いですよ。貴方達が束になっても敵わないでしょう」


「だったら見せて。口だけならなんとでも言える」


 売り言葉に買い言葉。

 カトレアに任せた結果、何故か手合わせする流れになってしまった。

 それを少し後悔したアルだった。


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