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2話 不和

「無能を追い出せて清々したな」


 アルを気絶させ迷宮に置き去りにしたデリック達は街へ戻って来ていた。そんな彼らはアルの悪口に花を咲かせていた。


「全くです。守ってあげてるこっちの身にもなってほしいです」


「そうだな。上を目指すに当たってあいつは邪魔にしかならなかった」


 彼らもBランクパーティ。

 Aランクを目前に控えたパーティであるためその実力は折り紙付きだ。


 そんなパーティにアルがいてはAランクには届かない。仮にAランクになれたとしても足を引っ張られてパーティを危険に晒すのがオチだ。それがパーティ全体の総意だった。


 故に強行手段に出ることにした。あえて迷宮深くにいる敵の討伐の依頼を受けアルを連れていく。帰りは置いてくるだけで良いのだから簡単な仕事だった。


 本来ならばそこまでする必要はないのだが逆恨みや仕返しが嫌だったため念には念を入れることにした。もちろんアル自身にそんな事が出来ないのは分かっていたが悪評をばらまいたり人を雇って襲わせたりなどありもしない理由をでっち上げ今回の計画を正当化させた。故に彼らの心持ちとしては単に降り注ぐ火の粉を払った、ただそれだけである。


 そんな彼らはアルの訃報を報告しにギルドにやって来ていた。

 扉を潜るとすぐに受付嬢のディアナが反応する。しかしアルが居ないことに気付くと怪訝な表情を浮かべる。


「お疲れ様ですデリックさん。ええと、アルさんの姿が見られませんが……?」


「ああ、彼なら不幸な事故で亡くなったよ」


 それを聞いたギルドにいる人々は凍りつく。理解が追いついていない人もいれば嘘だと怒鳴る人もいる。デリック達の報告はにわかには信じられない。ディアナもそんな1人だった。


「ええと、何かの冗談でしょうか」


「そんなわけないだろう! いいからクエスト達成の受理をしろ!」


 デリックが怒鳴り散らすとディアナも自分の仕事に戻る。どこか納得がいかないまま対応を続ける。


「依頼はブラックウルフの討伐ですね。それでは討伐確認部位である牙の提示をお願いします」


 そこでデリック達はすぐに牙を出せないことに気付く。いつもならアルが素材の剥ぎ取りを行っておりそのまま素材の売却などもしていた。しかし、今ここにアルはいない。


「……解体部屋を借りるぞ」


 アルがいないから牙を出せないなんて口が裂けても言えない。これはただの強がりだった。


 デリックは解体部屋に入りブラックウルフの死体を取り出して初めて解体の仕方が分からないことに気付く。


「ガイル、頼む」

「おい! 解体なんてやったことないぞ。セリアは出来るか?」

「はぁ? 出来るわけないじゃない。ミーナは?」

「私も無理です」


 デリックを初めとし周りの者へ投げるが誰も出来ない。アルにはあれほど誰でも出来る仕事だと威張り散らしていたにも関わらず。


 埒があかないのでデリックが剣を抜き牙を適当に切り落とす。床にゴロンと転がった牙はお世辞にも綺麗とは言えないものだった。


 そんな牙を受け取ったディアナは微妙な顔をする。一応ブラックウルフの牙であることは認められるが如何せん牙は売り物として成り立たないものだった。ギルドとしては討伐確認部位でもきっちり売ってお金にしたいのだが、デリックが出した物は市場はおろか個人取引でさえ使えないものだった。


 デリックはそんなディアナの心情は露知らずクエスト達成の受理を迫る。


「確かにブラックウルフの討伐を確認しました。こちらが報酬となります」


「確かに受け取った。それと残りのブラックウルフの素材の買取も頼みたいのだが」


「素材の買取はあちらの窓口にて受け付けております。解体が済んでない物は手数料が引かれますがよろしいでしょうか」


 先程はブラックウルフの牙を落としたのみで解体は済んでいない。少しでも多くお金がほしいデリックは手数料を引かれるのを嫌がった。内心で舌打ちしながら再び解体部屋へと入る。


 しかしそれは失敗だった。誰一人として素材の剥ぎ取りをしたことが無いのだから手数料を払ってでも専門家に任せるべきだった。


 そもそも解体に必要なナイフを持っていないデリックは自身の剣を抜き、これまた適当に剥ぎ取りを行った。

 当然上手くいくはずもなく肉も皮もボロボロになった。


「おいおい兄ちゃん。こんなボロボロじゃ話にならねえな。せいぜい銀貨4枚ってところだな」


 ブラックウルフの皮は貴族の婦人服などにも重宝されるためそこそこ高額で買取をしているのだが品質が悪ければ意味をなさない。


 査定が思ったよりも伸びなかったためデリック達は不満を爆発させ言い合いを始めた。アルがいなくなったことにより一人分辺りの分け前が増えるはずだったのに今までよりも少なくなってしまったのだ。


「誰でも出来る仕事なのになんでデリックは出来ないわけ!?」

「セリアだって出来ないじゃないか!」

「アルさんがいればなぁ……」

「あの無能のアルでも出来てたんだぞ! 俺達にできない訳が無い!」


 責任転嫁を初め互いに罵り合うデリック達。

 終いには追い出したアルに縋るような発言も出てくる。


「おい兄ちゃん達! 聞き捨てならねえな。アルの兄ちゃんが無能だと? じゃあお前らは何なんだ?」


 今まで黙って見ていたギルドお抱えの素材買取の親父、マシューはデリック達に怒鳴る。


「あいつは時間がある時に解体を教えてくれと頼み込んできた。一生懸命練習し、何度失敗しても諦めなかった。そんな兄ちゃんの努力を馬鹿にするなんて俺が許さねえぞ!」


 ギルド内に響くマシューの声を聞いていたアルを知る冒険者達は声を揃えて同意する。


「そもそも先程のアルさんが不幸な事故で死んだという報告も疑わしいですね」

「確かに……」

「アイツらにやられたんじゃないか?」


 ディアナの指摘に冒険者達もデリック達を疑う発言をする。


 デリック達は冷ややかな視線を浴び、誰にも聞こえない声で毒を吐く。


「……媚を売ることだけは一丁前か」


 自身が死んだと言っているのに誰も信じない。

 むしろアルの味方である発言をする者の多さにそう思わずにはいられなかった。


「気分が悪い」


 この場に居づらくなったデリック達はギルドを後にする。

 この時彼らは、アルがいたおかげで辛うじてパーティが成り立っていたとは微塵にも考えていなかった。


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