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15話 ユニークマジック

「なんかいい依頼あるかなー」


(そろそろゴブリン討伐以外にも手を伸ばしましょう)


 アルはギルドの依頼板と睨めっこしていた。

 ここ最近はゴブリン討伐の依頼を受けていたのだが、一定数の依頼をこなしFランクに昇格したため、1つランクが上の依頼にも目を通している。


 アルはゴブリン討伐を通して手加減を覚えた。

 ゴブリンを上手いこと焼却処分しない火力を意図的に引き出せるようになった。


 以前の依頼失敗が余程堪えたのだろう。

 ゴブリン討伐の失敗なんて不名誉、普通は滅多に起こらない。


「ボア討伐がいいかな」


(ゴブリンとはまた違った焼き加減にしないといけませんね)


「そうだな。中火でじっくりとだな」


 アルとソフィアの会話はもはや料理のそれだ。

 いかに焦がさず火を通すか。

 そこに焦点を当てていた。


 そんなことを考えているとカトレアからお声がかかる。


「アル様、ギルドマスターがお呼びです。応接室にどうぞ」


 カトレアはそれだけ言うと、業務に戻ってしまった。

 アルも案内が要らないほど応接室にはよく訪れている。


 今日はなんの用だろうと思いながらノックする。


「おーう。入ってくれー」


 中からギルドマスターであるカイの声がした。

 扉を開け、中に入るとカイの他にもう一人、知らない女性がいる。


「お客様がいらっしゃるなら出直しますよ?」


「いや、いいんだ。こいつはお前のために呼んだからな。お前も自己紹介しろ」


「あ、はい。初めまして。冒険者のアルと申します。よろしくお願いします」


 アルは自身の名を名乗り軽く頭を下げる。

 それを受けた女性は驚いた顔をして自己紹介を返す。


「初めまして。私はリーシャ。元冒険者で今は研究者として働いている。よろしく頼む」


「こいつはな、王都にある研究所で魔術の研究をしてるんだ。いくつか論文も残してるし、きっとお前の助けになる」


 どうやらリーシャはカイがアルのために呼んだらしい。


「わざわざ王都から訪ねて頂き、ありがとうございます」


「ふふ、こいつから面白い奴がいるから来いって手紙が来た時は驚いた。こいつが気に入る奴だ、どんな奴かと思っていたが……まさかこんな礼儀正しいとは思わなかった」


 リーシャはカイのような見るからにガサツで大雑把な人が来ると思っていた。

 だが、蓋を開けてみれば全く違う。

 自らが勝手に抱いてしまったイメージとのギャップにリーシャは驚いていた。


「アルくんは氷のユニークマジック使いと聞いた。早速だが見せてもらってもいいか?」


(あれ、ユニークマジックじゃないけど言った方がいいかな?)


(別に黙っててもいいんじゃないですか?)


 脳内でそんな会話が行われた結果、僕のオリジナルですという訂正はなくなった。


「大丈夫です。闘技場でいいですか?」


 ◇


 魔物騒動の時同様、闘技場にやってきたアルはその真ん中に立つ。

 肩から背中にかけて魔力を巡らせ、魔術名を口にする。


吹雪の翼(ブリザード・ウイング)


 冷気を放つ氷の翼が展開される。

 リーシャはそれを研者の目でマジマジと見つめている。


「じゃあ風を起こしますね」


 アルはリーシャに何をするか申告した上で翼を振り下ろす。

 比較的軽めに放ったそれは冷たい風を起こす。


「カイ、今のは本気か?」

「いんや、2割がいいとこだ」


 アルの起こした風を感じ、物足りなさを感じたリーシャはカイに尋ねる。


「アルくん、君の本気に私の本気をぶつけてみてもいいだろうか?」


「どういうことですか?」


「私は炎のユニークマジック使いだ。氷は炎に相性は悪いだろうが、どこまでやれるのかが見てみたい」


 それはまるで氷では炎には勝てない。

 そう言っているようにアルは感じた。


「本気でいいんですか?」


「ああ、それでないと意味が無い」


「分かりました。ではリーシャさんが放ったものに僕の本気をぶつけます」


 2人は対角線上に立つ。

 リーシャが何やら詠唱をしているが、アルの耳には届かない。


「ーーーー」


 形成文句は聞こえなかったが、凄まじい炎の塊が唸りを上げてアルに向かって飛んでくる。

 アルは自身の背中に展開された6枚の氷の翼を弓のように引き絞り、一気に解放する。

 鞭を振るったかのように放たれたそれは、今までにない勢いの吹雪を形成する。


「なっ!?」


 リーシャの炎とぶつかり合う氷の衝撃。

 ひしめき合うそれはお互いを飲み込み、勢いを無くしていく。


 まさか自身の炎が氷に打ち消されるとは思っていなかったリーシャは口を開けて固まっている。

 アルも、リーシャの炎の威力が想像以上だったため驚いている。


(相殺された……か)


 本気を出した結果がこれだ。

 アルはリーシャの舐めたような発言にイラつきを覚えたが、アルもまたリーシャを舐めていたのだろう。


「参りました」


 アルは素直に負けを認める。

 だがリーシャとて勝った気はしなかった。


 この場に勝者と呼べる者は存在しなかった。


 ◇


「いや、まさか相殺されるなんて思わなかったよ」


「いえ、リーシャさんの炎も凄かったです」


 応接室に戻ってきたリーシャとアルはお互いを褒めたたえていた。


「君ほどのユニークマジック使いが埋もれているとはな…」


「あの、そのユニークマジックというのは何でしょうか?」


「ああ、すまない。今日はそれに答えるために来たんだったね」


 リーシャはソファに座り、足を組んだ。


「ユニークマジックは各属性の派生系のようなものだ。私が使った炎、君が使った氷、その他にも雷、岩、神聖、暗黒」


 ユニークマジックはあくまでも派生。

 火と炎のように上位互換の関係のものもあるが、水と氷、風と雷のように違う性質になるものもある。


「だがそれは誰にでも扱える訳では無い。大抵の場合、元となる魔術の熟練度が高い者に開かれる門だ。かく言う私も昔は火の魔術ばかり使っていてな。それがいつの間にか炎魔術を使えるようになって、気付いたら炎の魔女と呼ばれていたよ」


「お前、燃やしてばっかだったもんな」


 カイが何やら懐かしそうに目を細めて呟く。


「もしかしてカイさんも冒険者だったんですか?」


「おう。言ってなかったか?そんでリーシャとは昔パーティを組んでいた」


「そういう事だ。あの時はお互い、若かったねえ」


「違いない」


 2人はどこか遠いところを見るように、それでいてその過去の思い出を心から慕っているような表情を浮かべる。


「私達の話は置いといて、アルくんは他に聞きたいことはないか?」


 リーシャは少し照れくさそうに頬を掻きながら、話の路線を元に戻す。


「そうですね。ユニークマジックとやらについて分かったので僕は満足です」


「そう言って貰えると、来た甲斐があるってもんだね」


 リーシャは笑う。

 だがカイは顎に手を当てて、何やら考えている。


 顔をあげたカイはアルを見る。


「お前のユニークマジック、いつから使えるようになったんだ?」


 そしてそんな問を、アルに投げかけた。


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