14話 オリジナル魔術
「ユニークマジックとはなんでしょうか?」
アルはカイの言葉に肯定出来ない。
単純に分からないのだ。
「そうか。知ってて使ってるわけじゃねえのか」
「すみません。初めて聞いた言葉なので」
「気にすんな。俺も魔術はあまり詳しくないが確か基本属性の派生系をユニークマジックと言っていたと思う。水の派生が氷だと思ったからユニークマジックだと思ったんだがな」
「それも初めて聞きました」
「まあいい。とりあえず魔物の存在がない事が分かっただけでも良かった。お前の魔術についてはこっちでも調べておくから帰って休め」
アルの魔術はアルが作った魔術だ。
調べようがないと申告しようとしたがカイが仕事に戻ったためその機会は訪れなかった。
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「僕の魔術はユニークマジックというものに当てはまるのか?」
アルは疑問に感じたことをソフィアにぶつける。
アルが何かを知りたいと思った時ソフィアはいつも答えを教えてくれる。
なので今回も頼ることにした。
(まさか、ご主人の力はそんなちゃちなものじゃないですよ。そもそもユニークマジックも既存の魔術の一種です。その魔術の枠組みにある限りご主人のオリジナル魔術には遠く及びませんよ)
「その既存の魔術と僕のオリジナル魔術の違いってなんだ?」
(厳密な違いは術式や詠唱の有無ですね。必要なのが既存の魔術、不要なのがご主人のオリジナル魔術です。術式や詠唱という枷から解き放たれたご主人のオリジナル魔術はその過程を無視して結果だけを取り出すことが出来ます。そのため術式や詠唱の関係で理論上有り得ない魔術も行使できます)
「じゃあ術式が必要な魔術は僕の魔術の下位互換ってことか?」
(そういうことです。ご主人も知っての通り、魔術は詠唱だったり術式の回路だったり様々な要素があります。それを魔術を組む要素だと勘違いしている人が多いですがかえってそれが制限をかけてるのです)
「そうか」
(そうです。なのでご主人が魔術の適性を持たなかったのは幸運なことです。制限に縛られることがないのですから)
「全くないわけでもないけどな」
ソフィアは魔術に制限はないと言うが実を言うとそれは間違っている。
アルは適正を持たなかった基本魔術に酷似した魔術は使うことが出来ない。
例えばファイアーボール。火の初級魔術だ。
それをオリジナル魔術でそれを再現しようとしても失敗するのだ。
だからアルは火の魔術を作るにしても既存の魔術にはない形で作る必要があった。
この弊害を不便と思ったことはないが、ファイアーボールも一生懸命勉強した魔術だ。
使ってみたかったというのがアルの本音である。
「しかしなんでまたオリジナル魔術という便利なものがありながらみんな下位互換の魔術を使ってるんだ?作ればいいじゃないか」
魔術について知れば知るほど湧き上がる疑問だ。
作れるなら作ってしまえばいいのにとアルは感じる。
(そういう訳にもいかないです。そもそも魔術を生み出すのには膨大な知識と時間を必要とします。術式や回路を繋げるだけでも一苦労なんですよ。ご主人みたいに考えるだけで作れるのは例外中の例外です)
「へぇ、じゃあ一応作ろうと思えば誰にでも作れるのか」
(それは可能です。そういう風に編み出された魔術はそのままで自分だけのものにしたり、誰かに教えるのも自由です…がご主人は無理ですね)
「なんで?」
(だってご主人の魔術、術式も詠唱も知らないじゃないですか)
「確かに…」
それは盲点だった。
使い方は?と聞かれても答えられないのだ。
(それにしてもご主人、それだけの才能を持ちながら、魔術に目覚めるのが大分遅かったですね。まあそれもご主人の性格なら納得です)
「どういうことだ?」
(ご主人の魔術を作る力はその魔術を願わないと反応しません)
「じゃあ、僕があの時既存の魔術で乗り切ろうとしてたら、ソフィアも作り出せなかったし、僕はブラックウルフに殺されてたってことか」
(そうですね。私という存在が生まれたのはご主人にとってラッキーな事でしたね)
「なるほど。じゃあ何か一つでも要素が欠けていたら僕はまだ魔術に目覚めてなかったかもしれないってことか」
そう考えると何か運命のようなものを感じる。
もし迷宮に置き去りにされなかったら。
もしブラックウルフに追い詰められなかったら。
もし生きることを諦めていたら。
ソフィアは生まれなかったかもしれない。
偶然の産物だが必然かもしれない。
アルはそんなことを考えていた。
今はまだ姿はないがアルはソフィアを友達であり、仲間であり、家族だと思っている。
「ソフィア、これからもよろしく頼む」
(はい!任せてください!)
姿がないので反応は分からないが、どこか嬉しそうな声色で返事をするソフィアだった。




