12話 オーバーキル
アルはソフィアと共に作り上げた魔術のスペックを図るために今日も依頼を受ける。
今回手に取った依頼はゴブリン討伐。
これもまた新人が避けては通れない道だ。
アルは新しく作った魔術を使いながらゴブリンを探す。
「反響」
見えない魔力を波の形にして飛ばし、その魔力の反射具合から敵の位置を割り出す索敵魔術。
これは平面のみでなく三次元で作用するようにカスタムしたため、仮に地中や空中からやってくる魔物であっても捕捉できる。
ただし、分かるのは姿形までだ。
さて、そんな反響を使い、ゴブリンの姿らしきものを探すアルは空を飛んでいた。
その背中には6枚の翼がある。
灼熱の翼
灼熱に燃え上がる炎の翼。
吹雪の翼
全て凍てつかせる氷の翼。
各3枚。
合わせて6枚の翼がアルの背中でゆらゆらと揺れている。
「見つけたっ!」
目を閉じて空中に静止していたアルは目を見開き、ゴブリンの群れらしき反応があった方向を向く。
その方向に一直線に羽ばたいて加速していく。
やがてゴブリンの群れが見える位置で止まると、静かに降下をする。
幸いにもゴブリンはアルに気付いていない。
アルは先制攻撃を仕掛けた。
炎の翼を薙ぐ。
爆炎が飛び散り、巻き起こる熱風がゴブリンの群れを焼きながら吹き飛ばす。
それが直撃したゴブリンは炎に焼かれて絶命した。
さらにその余波を食らったゴブリンもタダでは済まない。
今度は氷の翼を振るう。
突如としてその翼を起点に吹雪が巻き起こる。
熱風の次は吹雪。
ゴブリンはなすすべもなく凍り付き、氷像を作る。
「おっ、たくさん来たな」
ゴブリンの断末魔が響いたと同時に反響が無数の人型の魔物が近づくのを感知する。
倍ほどのゴブリンの群れがアルの前に姿を現した。
「いいカモだね」
アルは常に空中から攻撃をしている。
剣や棍棒を持ったゴブリンは無力化されている。
だが今度の群れには弓や杖を持ったゴブリンがいた。
ゴブリンアーチャーとゴブリンメイジである。
ゴブリン達は遠距離攻撃が可能なそれらを守るように構える。
だがアルはそんなことお構い無しと言わんばかりに、作った魔術の性能を試す。
ゴブリンアーチャーが弓を絞り矢を放つ。
ゴブリンメイジは何やら詠唱を行い、魔術を放つ。
しかし、それらの抵抗もアルのたった一言、二言で無に帰すことになる。
「紅蓮の手!氷結の手!」
炎の翼から燃え盛る炎の手が、氷の翼から冷気を放つ氷の手が飛び出る。
炎の手は飛んでくる矢を焼き尽くしながら、氷の手は飛んでくる魔術を打ち消しながらゴブリンの群れへと突き刺さる。
「グギャッ!グギャギャッ!」
炎の手に掴まれたゴブリンは燃え上がり、ゆっくりとその身を焼き焦がしていく。
氷の手に掴まれたゴブリンは、その箇所からゆっくりと凍り付き、熱を奪っていく。
まさに阿鼻叫喚の地獄絵図。
もし、ゴブリンの叫びが言葉になるなら、熱さと寒さを同時に訴えている事だろう。
アルは一通り作った魔術を試し終わったため、最後に炎の翼を力いっぱい振り下ろす。
生じる爆炎がゴブリンだったものを飲み込み跡形もなく焼き尽くしていく。
そんなゴブリン達の最期をアルは空から見下ろしていた。
◇
「いや、中々いい感じじゃない?」
アルは今回作った魔術を気に入っていた。
反響の索敵範囲も申し分ないし、翼や手の火力、精度も良かった。
とアルは思っている。
(いやー、ご主人。やってしまいましたね)
ソフィアは何やら不服な声をあげる。
その理由が分からないアルは尋ねる。
(ご主人、ギルドで依頼を受けてませんでした? あれって何か提出する必要があるのではないですか?)
「あっ」
ソフィアの言葉にハッとしたアル。
地上に降り立ち、ゴブリンが先程までいた所に駆け寄る。
「ない、ないぞ。討伐を証明するための耳がない」
(ちょっとゴブリンに使うにはオーバーキルな魔術でしたねー)
炎で燃やしてしまった言わずもがな、氷像になっていたものも最後の爆炎で消し飛ばしてしまった。
そこにはもう何も残っていなかった。
「気付いてたなら教えてくれよ!」
(いやー、ご主人、楽しそうでしたので止めるのが忍びなくて)
「くっそー」
◇
ギルドに帰ったアルはダメ元で報告してみる。
だが、倒したけど証拠が残らなかったと言っても信じてもらえるはずがない。
これは宿題をやったけど家に忘れましたが通用しないのと同じである。
この日、アルは初めての依頼失敗を経験した。




