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10話 別れ

「すみません」


 話が終わっていない事を指摘されたアルはソファに座り直す。


「気にすんな。妙に大人びてるがお前もまだまだガキってことだ」


 普段はしっかりとしているアルの子供らしい所を見れたカイはガハハと豪快に笑い飛ばす。


「時間を取らせて悪いがすぐに済む。デリックの件だ」


 アルはデリックと言う名前に反応して顔を強ばらせる。

 正直言って二度と関わりたくない相手だからだ。


「昨日奴に尋問を行った。その結果限りなく黒に近いことが分かった」


「どういうことですか?」


「お前が死んだという報告について問いただすと魔物に殺られたの一点張りでな。どうやらお前はブラックウルフに殺されたらしいぞ」


 カイは自身がデリックから引き出した情報を事細かに説明する。

 デリック達はアルが無事帰還している事を知らないため無理もないが、その主張は杜撰で詰めの甘いものであった。


「このことからお前をわざと殺そうとしたかまでは分からないが虚偽の申告をしていることは明らかだ。その点も加味してお前さんの証言と照らし合わせればどっちが悪かは誰でも分かるだろう」


 カイとしては公平な立場で仲介しなければならないがデリック達にもはや弁護の余地はない。


「被害者のお前には奴らを訴える権利がある。俺としては奴らには心底ムカついてるが、最終的な判断はお前がしろ」


「……もし、僕が彼らを訴えて罪が認められればどんな罰が与えられますか?」


「それはお前次第だが軽ければ罰金程度だろうし、重ければ奴隷落ちや死刑だろうな」


 アルは考える。

 自身が何を望んでいるのか。

 確かにデリックには死に目に合わされた。たまたま魔術に目覚めなければアルは既にここにはいない。


 かといって殺したいほど憎んでいるかと言われればそうでもない。

 むしろ、関わりたくないという気持ちが強かった。

 しかし、アル自身、自らの心の内を測りかねている。

 つまるところ、彼らに何を望んでいるのか分からなかった。


「一度彼らに会わせてください。それで決めたいと思います」


 だからアルは一度彼らに会って、話してみてそれで判断しようと思った。

 カイはあまり乗り気ではないが本人の希望のため渋々許可するといった感じだ


「はぁ……仕方ねえ。ただし俺も同席させてもらうぞ」


 カイはアルを思ってこう言っている。

 デリックに会うことでアルに悪影響がないとは限らないからだ。


「よし、じゃあ行くか」


 カイはアルを連れてデリック一行の元へと向かった。


 ◇


 ◇


 ◇


 ◇


 ◇


 暗い牢の道をコツコツと二人の足が叩く。

 ひんやりとした空気が身体中を這い回り少し気味が悪い。


 カイは昨日もここを訪れていたため衛兵の案内もなく進んでいく。

 アルはそれに着いていくが周りが気になるのか目線は左右に泳いでいる。


「なんか思ったよりも人少ないんですね」


 アルが感じたことだ。

 人がいない空の牢が多く並んでいるからだ。


「ここは問題起こしたりして捕まったやつが一時的に入る場所だ。人はいないに限る」


 犯罪者は少ないほうがいい。

 だがそれでも盗賊などもちらほらいるため衛兵の仕事はなくならない。


 そしてデリック達も捕えられているが、今は容疑者である。

 本来なら商店街の件は事情聴取と反省といった意味で一日で釈放されるはずだったが、新たに殺人未遂の容疑が浮上したため引き続き捕えられている。


「おい、早くここから出せ」

「来るのが遅いのよ」

「早く俺達を助けろ」

「…………」


 カイの姿を見たデリック達は助けに来たのだと勘違いし騒ぎ立てる。

 しかしミーナはそんな気力もないのか俯いたまま何も喋らない。


「うるさい! 今日はお前らにどうしても会いたいと言う奴を連れてきた。じゃああとは任せるが無理はするなよ」


 カイはアルに声をかける。

 その瞳にはしっかりケリをつけろというメッセージが込められている。


「みんな、久しぶりだな」


 アルが声をかけると騒いでいたデリック達も凍り付く。

 実際はそんなに久しい訳でもないがそういう気分だった。


「てめぇ、何で生きてやがる」

「何で死んでないのよ」

「おいっ… お前ら」


 デリックとセリアがアルに食いかかる。

 それをガイルが止めるも虚しく、彼らは吠えることをやめない。


 彼らは自分が殺人に加担したことを口走っているのに気づいていない。

 これにはアルも呆れて言葉も出なかった。


「おい、お前からもなんか言ってくれ。そうだ、ここを出られるように口利きしてくれたら再びパーティに入れてやってもいい」


「随分都合のいい事言うんだな」


「なっ、てめえ、無能の癖に口答えしてんじゃねーぞ」


 もはや会話が成り立たない。

 デリックお得意の都合の悪いことには耳を貸さずだ。


「何とかしなさいよこの無能」


 セリアも負けじと騒ぎ立てる。


 はぁ、とため息をついたアルは踵を返す。


「カイさん、もう十分です」


 会話が成り立たないのだ。

 これ以上話すこともない。


「じゃあ、もう二度と会わないことを祈ってるよ」


 カツカツと靴音が響く。

 背後ではデリックが何やら騒いでいるが、耳に入らなかった。


 ◇


 後日、アルはデリック達を訴えた。

 それにギルドへの虚偽申告や周辺住民の山のような苦情も加わり、デリック達には莫大な借金がかせられた。

 デリック達は普段から贅沢三昧していて資産もそれほど残ってなかったため、装備や宝石類などを全て売り払っても慰謝料を払うには足りず、全員もれなく奴隷落ちすることになったのだった。



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