第9話 金策の計画と前哨戦イベントの終了
「『リザルト:リターン』の動画投稿してきたよ」
ニコニコと笑う∞わんデンの発言に、和泉がギョッとする。
ツカサは事前に聞いて知っていたので驚きはなかった。
「どうでしたか?」
「いやー、実に興味深かった。課金に抵抗が無いなら、案外悪くないと思うよ。ただコアゲーマーはお断りに変わってたな。色々細かかったゲームシステムをそぎ落として、単純かつわかりやすく面倒くささを極力排除。ライトユーザーに焦点を当ててる辺りはさすがの黒字化MOってところ」
「面白そうですね」
「俺には合わなかったです」
「そう、なんですか?」
「俺は向こうがお断りのゲーマーなので、こっちからお断りを言いたい所存」
珍しくふてくされた口調で鼻白む。VRMO『リザルト:リターン』について話していた時はもっと目を輝かせて楽しそうだった気がして、∞わんデンが考えていた以上に知っていた頃と比べて好まないゲーム内容に変わっていたのではないかと感じた。
(好きだから文句言いたいって気持ちは、わかる……かも)
最近VRMMO『プラネット イントルーダー・オリジン』でホラーテイストのダンジョン内で後ろをつけ回された時は、ツカサも一言もの申したくなったのだ。
ネクロアイギス王国の中央噴水広場の隅にある、石の長椅子にツカサと和泉とチョコと∞わんデンは腰掛けた。
∞わんデンは先ほどとは表情を柔らかく変えてハウジングの話をする。
「ツカサ君はご予算どのくらい用意出来るの?」
「730万Gです」
所持金を確認しながら答える。
以前作った「銀の指輪HQ」8個を、昨夜マーケットボードに並べたら全て売れていた。売り上げは38万G。過去取引履歴を見る限り転売されている様子もない。他のHQの出品者の中から1番高い値段に合わせて置いたことが良かったようだ。
値段のつけ方に関してチョコに尋ねたところ、HQは1番高値で強気に置き、売れ残ってから徐々に値段を下げていくことをしていると教えてもらったので、チョコ流を実践したのである。
パーフェクトに出来なかったHQ2個は各1万G。パーフェクトのHQ6個は、各3万~10万Gで売れた。
この値段付けから見えてきたのは、需要がない――出品者が多く、買い手が少ない物ほど安くなっていることだ。しかも安かった指輪はVIT上昇の物だったので、『プラネット イントルーダー・オリジン』はタンク人口が少ないらしい。
ツカサは神鳥獣使いのこともあって、てっきりヒーラーが少ないと思っていたので意外に思った。ちなみに10万と高値だったのはDEXの遠距離物理アタッカーの指輪である。人気の激戦区だ。
和泉にプレゼントもした「LV11ペリドットの銀の指輪HQ〈VIT+2、STR+7、【魔法攻撃反射】〉」は、もう1つあったのでマーケットボードではなく、傭兵団の《連絡ボード》に雨月とチョコに宛てて自由に取っていって欲しい旨を記載して、共有大倉庫に入れてある。
これまで迷惑をかけてお世話になりっぱなしの雨月とチョコの2人に対して、お礼も込めて入れているのだが、2人とも引き出す気配がない。必要がないか、ひょっとしたら1つしかないので遠慮しているのかもしれず、またスキルがついたアクセサリーが作れたらどんどん入れていこうと思う。
「実はツカサ君、傭兵団用のS土地なら今すぐ買えます。三国の土地はポツポツ空いてることは空いてるんだよね」
「え!?」
「不足分は無利子無期限で俺が貸すよ。S土地1000万、M土地2500万だね。M土地を目指すなら、少し時間欲しいけど。土地代は団長のツカサ君が出して、建物や施設は団員の人達が個人的に設置したい分を自分で出すって形で良い?」
「あっ、はい。よろしくお願いします」
和泉が首を傾げて「わ、わんデンさん。始めたばかりでそんなにお金が……?」とこわごわ尋ね、∞わんデンはサラリと「マケボで増やした」と告げる。
ツカサは驚き、チョコもびっくりして目を瞬かせた。
「わんデンさんも採集か生産を始めたんですか?」
「戦闘オンリーだよ。詳しくは解説しないけど、商品を買い占めて高値で置くっていう価格の差額分で当初は儲けたかな。プラネは今、相場を支配してるプレイヤーがあんまりいないんだよね。新規プレイヤーはマーケットボードに手を出せるほど、プラネの相場の動きをまだ把握出来てないようだし」
「そうば……」
ツカサとチョコは、ぽかんとした。和泉はハッとして慌てて言う。
「で、でも確か、ベータの復帰プレイヤーにマケボを動かしてるプレイヤーがいたはずで……っ」
「『逢魔』ってプレイヤーね。調べたら、今はマケボ操作を休止してた。毎日ひたすらSNSでリュー戦のハウジング家具動画を1つ貼り付けて、どやってるだけっぽい。覗いたら買えないプレイヤー達の怨嗟のコメント熱量がすさまじいもんだったよ」
「りゅ、リュー戦の復元アイテム家具の出来が、本家よりリアルだって……噂に」
「そう、ソレ! それもあって新規がね、既存の土地購入のために必死になってる。傭兵団を結成しているのも皆、新規のプレイヤー。こうしている間にも、時間が経つごとに土地は買われて消えていってるかな。
そこでツカサ君に問おう! 今なら傭兵団のSかM土地は買えます。だけど、傭兵団の土地を買った時点で、個人の土地に回せる資金が無くなります。どうする?」
「個人?」
「ハウジング領地。アレ多分、個人にポイントが入っている辺り、個人購入OKだよ」
「えっ、じゃあ傭兵団を作らなくてもハウジングが出来る!?」
「出来るんじゃない? ただし、領地って名乗っているから5000万のL土地以上の高額お値段な可能性が高い。だから新規はコレを狙わないで傭兵団を作ってる。
でも個人の突貫金策で直ぐに買える代物じゃなさそうだから、傭兵団名義でも買えると思う。あくまで予想、想像だけどね。
ハウジング領地のライバルは、新規じゃなくてイベント参加のベータ勢。参加者も買う買わないの宣言すら掲示板に書き込み自粛してる雰囲気なので、内在的にどれぐらいのライバル数か不明。
その上、ハウジング領地に関して情報公開されてないし、当日まで仕様がわからないギャンブルになる。買えないってわかった後に、三国の傭兵団向けの土地が完売している危険性有り」
ツカサと和泉は困惑げに顔を見合わせた。
「では、ギャンブル待ちしたい人ー?」
∞わんデンの問いに、チョコの手が真っ先に挙がる。問いかけた∞わんデン自身も手を挙げていた。2人の迷いない挙手に、ツカサと和泉は目を丸くしながら手を挙げる。
4人は、にへらっと締まりなく笑い合う。
「まっ、折角の大きな買い物だからね。目標は夢のある方に」
「団長さん、もしもの時はチョコを頼って下さいです。チョコは年季のベータ勢です」
チョコの表情は自信に満ちあふれていた。頭の上に乗ったカワウソもずり落ちてこない。頼もしい。
「チョコさん……。ありがとうございます」
「よーし、じゃあ目標を定めたところで、直前まで金策に精を出しますか」
「きょ、協力するよ! 素材集めとかっ」
「チョコもです」
雨月にも、ハウジング領地の購入を考えていて、もし資金や別の問題でダメだった場合でも三国の土地を購入すること、土地代は団長のツカサが出すこと、団員の人には建物などを好きに購入してもらうことを考えているとメールで伝えた。
ツカサはしばらくソロで彫金に集中する。和泉とチョコは採集などで山や果樹林の方に、∞わんデンも仕込みのためにそれぞれ動いている。
指輪などの製作に必要な素材はマーケットボードからの購入だけでなく、えんどう豆を頼った。
その際、えんどう豆から質問があった。
えんどう豆:唐突ですみません。
動物の名前で出品してますか?
ツカサ :「ハリネズミ」です
えんどう豆:ギャーッ! 聞いてない聞いてない!!
俺みたいな微妙フレに明かさないでくれッ!
YESかNOで! イエスかノーを!?
ツカサ :すみません。
でもえんどう豆さんだし
えんどう豆:(*゜д゜*;)ヒエッ! これがコミュ地力者の返し……!
俺は「マメごはん」!!
よし、これで情報イーブン!
ツカサ :名前が調理されてるんですね
えんどう豆:俺を調理!?
そんな猟奇的な発想から名付けてないです!?
好きな食べ物名をなんとなく揃えただけ!
ツカサ :僕もハリネズミはなんとなくです
えんどう豆:えっ……好きな動物じゃ
ツカサ :鳥が好きです
えんどう豆:アッハイ……(´・ω・`)
ツカサ :?
えんどう豆:その、マケボでHQパーフェクト並べまくってました?
外野がとやかく注文つけるのは頭おかしいってレベルなんですが
ツカサ :なんですか?
えんどう豆:HQパフェのやつはもっと値段釣り上げて置いて欲しいです。
2倍いや5倍10倍100倍でも
ツカサ :100倍!?
えんどう豆:ツカサさんがつけた値段が、
実質HQパフェ品の標準値段になってるんで、
もっと生産者にうま味のある価格設定にして欲しいです。
後続もそれでモチベが違ってくると思うんで
今の価格は一攫千金な夢がないというか
ツカサ :売れ残りませんか?
一応1番高値の値段に合わせて置いているんですが
えんどう豆:うっ……それを言われると痛い
はけるのは早いに限りますもんね
ツカサ :金策中です
えんどう豆:俺もです(小声)
ツカサ :でも2倍ぐらいにはしてみます
えんどう豆:ありがとうございます! 余計な茶々入れすみませんでした!!
あと彫金でパフェ連発おかしい!!
ツカサ :えんどう豆さんは苦手なんですか?
えんどう豆:無理です。そして俺が一般的だと思います
ツカサ :僕はけっこう得意かもしれません
えんどう豆:マジですか!(((゜д゜;)))
何気なく書き込んだ返答で、ツカサは自分が得意なものをようやく得意なのだと意識する。これまでこれといった特技もなかったので嬉しかった反面、照れくさかった。
えんどう豆:最近は現実でも物作りに手を出してます。
俺のセンスなくてヤバいですw
ツカサ :物作りですか
えんどう豆:鍛冶は無理なんでキッチンで作れる彫金の小物を。
手軽なクレイシルバーでちまちまと。
そんで逆にリアルの影響でプラネの彫金師を触ったら、
音ゲーに挫折しました(´・ω・`)
でも本格的な作り方を見られるだけでも面白いのが悔しい
ツカサ :クレイシルバー?
えんどう豆:正式にはアートクレイシルバー?
工作用の粘土みたいな銀です。
ネット通販で全部揃えた口なんで、
どこで売ってるかはよく知らないんですが
簡単に銀の小物が作れます。
ツカサ :そういうものがあるんですね!
どんなものを作っているんですか?
えんどう豆:猫の首輪のチャームやミニスプーンです。
あと写真立て。
マジでセンスなくて人間用のオサレアクセなんて無理www
えんどう豆とは中間素材の売買だけで終わるのではなく、こうして合間合間に雑談をするようになった。
《【祈り】がLV30に上がりました》
《【祈り】のスキルレベルが最大レベルになりました!》
それから3日間、銀の指輪をたくさん作った。6個ほど、スキルつきの指輪を傭兵団の共有大倉庫に入れている。そこでようやくチョコが1個引き出してくれた。
マーケットボードに出品した分は、素材代を引いても合計で470万になって驚かされる。不安になって∞わんデンやチョコに相談すると、数が少ない最初の出品はそんなものだと言われた。
所持金は1210万254G。
彫金師はレベルアップしてLV26に。スキルレベルは【硬度鑑定】【金属知識】【金属研磨】【測定切削技法】がLV13、【色彩鑑定】【外形鑑定】【延ばし加工】【宝石知識】【宝石研磨】がLV12、【石留め技法】がLV11、【打ち出し技法】がLV10に上がっている。
5月25日。ログインした途端、ラッパの音が鳴り響いた。
《期間限定イベント『ネクロアイギス王国VSルゲーティアス公国VSグランドスルト開拓都市――三国領土支配権代理戦争』の最後の会談が終わりました!
北東の新大陸の支配権について三国の意見は割れました。
ネクロアイギス王国――「三国に属さない無辜の民に支配権を」
ルゲーティアス公国――「自国所属の海人の領土。我が国に支配権を」
グランドスルト開拓都市――「王国に賛成はするが、一部支配権はこちらに」
支配権の主張を決定するため、三国は傭兵団を雇い、軍事演習と称して代理戦争を行うことになりました。それぞれの広場にて詳細な情報が得られます。
前哨戦は終了致します。お疲れ様でした!
前哨戦・最終結果:ネクロアイギス王国……2639P
ルゲーティアス公国……1821P
グランドスルト開拓都市……1387P》
《あなたはネクロアイギス王国の貢献度ポイントが1100Pと最も高い人物でした! ハウジング領地の優先購入権利がキャラクターに付与されました!》
ちゃんと宣言されると安心する。胸中で「やったー!」と喜んでいたツカサに、水を差すように新情報のアナウンスが続く。喜びから一転、驚きで固まった。
《秘匿期間限定クエスト『二重スパイ』により、ルゲーティアス公国を裏切り、他国に亡命した所属移籍者が現われました! これによりポイントが増減します。
前哨戦・最終結果:ネクロアイギス王国……2689P
ルゲーティアス公国……1651P
グランドスルト開拓都市……1507P
※裏切り者が多数出たルゲーティアス公国では、主要NPC「パライソ・ホミロ・ゾディサイド」が自国プレイヤーのみならず、他国に亡命したプレイヤーに激怒しています。
戦争に影響があります。ルゲーティアス公国所属プレイヤーと移籍プレイヤーはご用心下さい》
《いよいよ5月31日の21:00に、期間限定イベント『ネクロアイギス王国VSルゲーティアス公国VSグランドスルト開拓都市――三国領土支配権代理戦争』を開始します!》
《所属国の攻撃指揮官ユニット・防御指揮官ユニット、自国フィールドをポイント内で収まるように投票して下さい。投票期間は5月25日から30日です。
投票は匿名です。投票数も公表されません。結果は当日のユニット開示までお待ち下さい。自国掲示板で話し合い、組織的に票を投じてもかまいません。
◇ネクロアイギス王国が所持するポイントは「2689P」です◇
・「2000P」カフカ(万能型)
・「1500P」スピネル・ローゼンコフィン・ネクロアイギス(防衛・支援型)
・「1000P」暗殺組織ギルド長・???(通常参加不可のプレイヤー。団員含む。攻撃型)
・「800P」スピネル・ローゼンコフィン・ネクロアイギス(攻撃型)
・「500P」騎士ギルド長・フェゴズ(防衛型)
・「500P」七方出士ギルド長・キチョウ(攻撃型)
・「500P」神鳥獣使いギルド長・カイム(支援型)
・「300P」キアンコー(特殊攻撃型)
・「200P」マシェルロフ・ロストナ(特殊防衛型)
・「200P」ジーク(特殊支援型)
・「2000Pフィールド」ネクロラトリーガーディアン敷地
・「1000Pフィールド」ネクロアイギス王国王城
・「500Pフィールド」ネクロアイギス王国の果樹林
・「300Pフィールド」ネクロアイギス王国の下水道
・「200Pフィールド」ネクロアイギス王国の墓地
・「100Pフィールドエフェクト」雨
・「70Pフィールドエフェクト」月夜
・「50Pフィールドエフェクト」曇り空
投票する場合は、名称の文字をタップして下さい。(○○型)をタップすると、詳細が表示されます。
投票数はユニットの決定が優先されます。投票数の多いフィールドでもポイントが足りずに選ばれない場合は、初期設定の「青空・昼間の平原」になります。
当日不参加となるプレイヤーも、投票にご参加されていればイベント参加プレイヤーと同じ報酬が得られますのでご安心下さい》
ツカサはNPCの名前に混じって、フレンドのソフィアが列挙されている事実にうろたえた。




