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引っ込み思案な神鳥獣使い ―プラネット イントルーダー・オンライン―  作者: 古波萩子
05 アウタースペース糾明事変編

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第18話 偶然の奇跡、一期一会のMMO

 5月18日の夜。今日も和泉はオフラインだった。


 ツカサはネクロアイギス王国の噴水広場で∞わんデンと合流する。

 その時、ふと、視界の端に広場の隅にある石の長椅子に座っていたプレイヤーが目に留まった。遠目にも見知った人物だと気付き、ツカサの鼓動が早くなる。


「……わんデンさん、すみません。話したい人がログインしていて」

「俺なら気にしなくていいから行っといで」


 ∞わんデンに断りを入れて、そのプレイヤーの元へと歩いて行く。こちらに背を向けて人が行き交う通りを眺めている彼女は、どこか所在なさげで小さく見えた。

 ツカサは緊張しながら微かに息を吐き、意を決してしっかりとした声を出す。


「和泉さん……?」


 ビクリと肩を揺らし、猫の垂れ耳と尻尾をピンッと上に立てた『アメノカ』は、驚いた顔で背後のツカサに振り向いた。


「……ツカサ君……」


 声は違うが、和泉と同じ名前の呼び方と発音にツカサはホッと安堵し、「こんにちは」と声をかけ直す。


「ずっとログインがなくて心配してました」

「心配……」

「今は『アメノカさん』って呼んだ方がいいですか?」

「あっ……う、えっと……」


 アメノカは困ったように視線をさまよわせて言葉を濁し、そのまま俯いてしまう。

 そこで会話も途切れ、ツカサはアメノカの座る長椅子に視線を向けた。


(隣……座っても怒られないかな。1人で居たい気分だったら邪魔してしまっているし……でも)


 悩んでいると、ツカサの視線に釣られてアメノカも空いている自分の隣を見た。アメノカは手でパッパッと軽く椅子の表面を払う仕草をして、おずおずとツカサが座るのを促す。

 ツカサは頭を下げて隣に座った。


(和泉さん、お兄さんのアカウント消してなかったんだ)


 アメノカでログインしている理由はツカサを避けるためではないかと想像して、嫌われたのではないかと密かに心配し、ドギマギする。


 しばらく2人は無言でプレイヤーが行き交う姿をただ眺めていた。途切れないプレイヤーの姿に、ツカサは思わず感嘆の呟きをこぼす。


「都会だ……」

「……え?」


 アメノカが目を丸くしてツカサを見る。


「プレイヤー、増えましたよね。僕達がこのゲームを始めた日は、こんなに道を歩いているプレイヤーの姿なんてなかったですし」

「そ……そう、だね」

「人が多いと、色んな人の装備とか見た目に目がいったりして、フレンドになってくれた人がこの空気感が好きでMMOをしているって言っていた気持ちがわかります。ここがオンラインゲームの楽しい所なんだなぁって」

「う、雨月さん……?」

「いえ、傭兵団の人じゃないんです。あっ、傭兵団なんですけど、あれから他に新しい人が入団しました。勝手に決めてしまってすみません」

「い、いいよ……ツカサ君の傭兵団、だから」

「失敗もしてしまいました。僕が入団させた人が、他の人のことを考えてくれなくて倉庫からたくさん持ち出す人で、もうその人は退団したんですが――ごめんなさい。和泉さんが入れてくれたアイテムをいっぱい引き出して使ってしまいました」


 謝るツカサに、アメノカはきょとんとして首を横に振った。


「えっ、そ、そんな気にしないでいいよ。私が好きで勝手に入れていただけで……」


 しどろもどろにアメノカが答える。気を遣って言ってくれているだけでなく、∞わんデンが言っていた通り、本当に倉庫に入れた素材の行方は気にしていないようだった。


「新しく入った人はゲーム実況配信をしている人なんです。だから嫌……いえ苦手だったら正直に言って下さい。その人も傭兵団の所属にはそれほどこだわっていないので、今の傭兵団のメンバーに無理させてまで居座る気はないと言ってます」

「あっ……ふ、分別ある人なんだね。大丈夫。偏見ないっていうか……。あの、実は私も昔、ゲーム実況動画……友達と投稿してたことある。全部消しちゃったけど」


 小声でポソポソとアメノカが告白する内容に、ツカサは驚いた。


「動画を!? すごい!」

「そっ、そうかな……? ただ画面に向かって喋ってるだけだよ」


 アメノカは照れ笑う。声のトーンも心なしか明るい。


「ツカサ君は、その入団した実況者の人にはプラネで声かけられたの?」

「いえ、リアルの友人なんです」

「……友人……」


 アメノカは再び、落ち込んだような暗い声音になってしまう。しかし、ツカサの次の言葉に暗さを吹っ飛ばして仰天した。


「無限わんデンという方なんです。結構有名なんじゃないかと……」

「マギシプロ!!」


 アメノカの素っ頓狂な声に、ツカサは目を丸くする。


「まぎ……?」

「わ、わんッわんデンさん!? わんデンさんがプラネに!?」


 アメノカは酷く慌てている。その動転っぷりが初めて見る反応で、ぽかんとした。今まで∞わんデンを紹介して、「まずい」と形容できるような焦った顔をした人物はいなかったと思う。


「ひょっとして、わんデンさんと知り合いですか?」

「……」


 アメノカは両手で頬を覆い、視線をさまよわせながら頷いた。小声で「昔……当時の大手実況者さん主催のネットラジオにお互いゲストで出てて知り合いに……。ちょっと……かなり、ご迷惑をかけて……」と付け足した。


「わた、私、こんな上がり症だから、本当に昔から人に迷惑かけてて……わんデンさんの生放送で一緒に遊ぶ直前に、怖くなって欠席したり……とか前科もあって。せ、正確にはうちの兄が代理で放送出てなんとかなったけど、よくしてもらったのに足で砂かけるようなことを何度か……」

「お兄さんが代理で!?」

「……『アメノカ』って、その時に兄が私の本名の漢字をもじって作った名前なの。なのに、今じゃゲームで自分用に普段使いしてて信じらんない。こんな猫耳女の子作ってるなんてホント恥ずかしい」


 アメノカは頬を赤らめ口をへの字にし、自分のフサフサの尻尾を掴んでゆるく上下に振る。兄の愚痴を言いながらも、アメノカの喋りはすべらかで雰囲気は柔らかかった。


「じゃあそのキャラの名前の方が、本来の和泉さんに近いんですね」

「本来……」

「僕の『ツカサ』も、本名の漢字の別読みでつけました。『和泉』って名前の方はもじったものじゃないんですか?」

「う、うん。『和泉』の方はふわっと連想でつけてて、あんまり本名とは関係ないかなぁ……」

「お兄さんと和泉さん、仲良いんですね」

「よく、そう言われるけど……普通だよ。うちの兄は、単に名前を考えるのが面倒くさいの。だから1度使い出すと、ずっと同じ名前でゲームするんだ。昔っからそう」


 アメノカがふてくされたように嘆息する。初めて見る子供っぽい表情に、ツカサは親近感がわいた。


「お兄さん、ゲーム好きなんですね」

「筋金入りだよ。20代だからメカ直撃世代だし……。10年前ぐらいのレトロゲームブームって言葉、聞いたことある……?」

「最近、話を聞きました。ゲーマーアンドロイドの方が、昔のゲームを広めていたんですよね」

「うん。どれだけコアなゲームを実際にクリアしたかっていうのが、話題の中心だったり、ステータスになった時期があって、うちの兄もその流行に乗ってた。それで、兄ほどじゃないけど、私も影響受けて……。でも男の子の、しかもゲームをやる子達の間の流行で、私は周りの女の子達の誰とも、その話が出来なかったなぁ……」


 アメノカは寂しげに遠い目をした。


「結構クラス運とグループ運に恵まれてて、こんな人見知りで上がり症で女の子らしい話題の1つも持ってないのに、いつも一緒にいる子達にハブられたりいじめられるなんてこともなかった。今思うと私が話についていけてないと、学校や先生の話題にしてくれる優しい子達だったなぁ。小学5年生と中学の頃は、ちょっと怪しい気配あったけど、それだけで……」

「一緒にゲーム実況やっていた友達ですか?」

「う、ううん。一緒にゲーム実況してたのは高校で出来た……私は親友だと思ってた友達で、私みたいな人付き合いの苦手な人間と仲良くしてくれて、面倒見てくれたんだ。ゲーム実況始めたのも、その子の提案。好きなことで喋るの慣れようって。

 私の上がり症ね、きっかけはわかってるの。でも全然治せなくて……」

「きっかけ……?」

「8歳の時のピアノ教室の発表会がトラウマになってる。私はピアノだったけど、ピアノ教室って名前で、他の楽器も習うことが出来た教室。

 ……初めての発表会。私は何故かいつもの教室で、教室に通っている人達の前で、他の楽器の人達とピアノを弾くんだって思い込んでて、練習しても上手く弾けない自分のパートを「まぁ、いいや」ってそのままにして発表会に出ちゃった。

 連れて行かれた場所が大きなホールで、控え室にはよその教室の人達がいっぱいいて。私本当に怖くて震えて真っ青で……ただでさえ弾けないパートがあったのに、スポットライトが当たる舞台の上で頭の中が真っ白になっちゃって、全部まともに弾けずに他の人の演奏の足を引っ張った」


 アメノカは、から笑う。


「その発表会に順位がつくって知った時は、もう泣きたかった。「残念だったね」ってみんな笑顔で言い合っていたけど、責められないのが逆に耐えられなくて、必死に涙を隠して家まで帰って……自分のせいだったからつらくって。

 舞台の上から見える観客の人達の顔、真顔なんだよ……。真剣に曲を聞いていたら当然なんだけど……その顔を思い出してずっと怖くて、今でも思い出すと心臓痛くなって震えちゃう」

「和泉さん……」

「自分から通いたいって親に言って通い出したくせに、週に1度のピアノ教室の時間をそれなりにこなせればいいって気持ちしかなかったから、自業自得のトラウマ……。元々ピアノの才能も無かったし」


 そして手を見ながら「リアルの私の手、楽器の演奏をやるには指の長さが足りないんだ」と寂しく呟いた。


「それ以来、人と話すのにも失敗するんじゃないかって怖さが無意識に先に来るの。壇上に上がるなんてもっと無理。学校の行事で1番怖かったのは卒業式だよ。卒業証書授与の壇上に上がる瞬間が怖すぎて、当日欠席しちゃうぐらいダメで。

 ……なのに、スポットライト浴びる音楽を無理に仕事にして、結局また全部私がダメにしちゃった……。発表会と同じ、あの頃から何も私は変われてない」


 アメノカの独白を聞き終える。アメノカは黙り込んだが、ツカサは沈黙で返すべきじゃないと感じた。


「和泉さんは音楽のお仕事をしているんですか? えっと、リアルのことなので答えられないことなら答えなくても大丈夫です」

「えっ、あ……その、正確にはしてた……かな。クビになっちゃって。詳しくは言えないけど、私は楽器の演奏をしてたんだ。その、高校で親友になった子の後ろで。その子はボーカル。

 一緒にゲーム実況始めて、そのうち他の動画も上げようってことになって、他に私が出来ることって一応ピアノだったから、その子はボーカルやることになって演奏動画を上げたの。それの反響がすごくって、ライブまでするようになって、スカウトがあってプロに」

「和泉さん達、すごいです」

「すごいのは私じゃないよ。その子と兄かなぁ……。兄にはあんまり面と向かってお礼言いたくないけど、いつも感謝してる……」

「お兄さん?」

「私達が演奏する曲を創ってくれてた。音楽は仕事にしてない一般人。

 でもうちの兄、楽譜も読めないの。だから電話越しに鼻歌でね、「こんな感じの曲聞きたくね?」って軽い感じで投げてくる。兄は多分、私と違って音楽の才能あったんだろうなぁって思う。ただ、本人が興味なくてピアノ教室も通わなかったし、見向きもしないけど」

「鼻歌が曲になるんですか?」


 ツカサは工程の想像がつかなくて尋ねた。


「そこから私が曲に落とし込んで楽譜と歌詞を作って、編曲して完成」

「え?」


 ツカサはアメノカの言葉を頭の中で何度か反芻して、それでもやっぱり首を傾げた。


「あの、それは和泉さんが曲を作ってるってことですか……?」

「ううん、創ってるのは兄だよ。私はそれを形にしているだけだから……あんまり必要じゃないっていうか、本番の演奏も全然ダメで」


(えっ、そう……なのかな……。形にすることの方が難しい気がするんだけど)


 戸惑うツカサの隣で、アメノカは気落ちした様子でうなだれた。


「親友にも……愛想、つかされちゃって。あの子は昔から本気で歌手になりたくてその夢を叶えたのに、私が足を引っ張って、もう縁を切っていいって……思ったんだと思う。

 ……新曲を、あの子が1人で出したんだ。私が「おめでとう」ってメッセージ送ろうとしたら、送れなくなってて」


 声を震わせながら、アメノカはそっと自分の目元に手をやった。


「このVR……兄のおさがりでしょ。うちの兄はホント無精で、面倒くさがって初期化せずに私に渡すからプラネもそのまま残ってたし、メールやSNSの連絡手段……連携させたまま残ってて……あの子が、兄にメッセージ送ってるのを――」


 アメノカは声を詰まらせて、背を丸め、顔を伏せた。

 ここのところ、和泉がログインしなかった理由を察する。VR機器を起動するのが怖かったのだ。どうしても最初のホームで、メールなどの通知が目の前に出されてしまうから――。


「……和泉さん」

「……」


 返事の無いアメノカの膝に、小鳥サイズのオオルリがちょこんと乗った。オオルリがアメノカを見上げている。

 アメノカがふっと微かに笑った気配がした。アメノカは指の腹でオオルリの頭を優しく撫でる。


「……うちの兄ってば、『おかけになった相手は妹を経由されなかったため消滅しました』ってあの子に返事してたんだよ……文字でもあの子がドン引きしていたのがわかった。ホント信じらんない……――いっつもオープンにふざけてるんだから」

「その……面白い、お兄さんなんですね」

「重傷なの。色々と!」


 くしゃっと仏頂面をしたアメノカと顔を見合わせてツカサは苦笑した。

 するとアメノカも笑みを零す。2人でこの場にいない和泉の兄のことで笑い合っていたら、アメノカの暗い顔が明るくなっていた。


 ツカサは、和泉の兄はその連絡の一部始終を見せるためにわざとVR機器を初期化しなかったのではないかと思った。ふざけていると言われているが、しっかりとした厳しい人なのかもしれない。

 その厳しさのおかげで、奇跡的にツカサは和泉とここで知り合えたのだ。


「僕は、最近ずっと和泉さんが居たらって思ってました。和泉さん、僕と一緒に遊んでくれませんか?」

「ツカサ君……」


 アメノカは泣きそうな顔でグッとこらえて、口を引き結ぶ。


「私、慣れないうちは上がり症を引きずるし、初見だと全然動けなくなる瞬間多いし、迷惑かけることに関しては人一倍……」

「やらかしなら、僕も和泉さんには負けません。知らないことばかりで、フレンドのみんなに迷惑かけてます。遂にはわんデンさんまで心配かけて巻き込みました」


 アメノカは拳を握ってスクッと立ち上がる。


「ツカサ君……!! しばらくここにいる!?」


 ツカサはアメノカの言葉に顔をほころばせた。


「待ってます」


 アメノカが消える。

 そう時間も経たずに、トカゲの尻尾と首に鱗がある砂人女性の『和泉』が遠くからこちらに走ってくるのが見えた。ツカサも立ち上がって、手を振りながら和泉へと駆け寄る。


 2人は久しぶりに再会した。







【05 アウタースペース糾明事変編〈終〉】

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― 新着の感想 ―
[良い点] 尊い [一言] 何度も読み返すほど好きです。 和泉ちゃんは0を1にするのは苦手でも、 1を100にする才能に恵まれてるのだから自信持ってほしい。 がんばって!
[気になる点] 「『アメノカ』って、その時に兄が私の本名の漢字をもじって作った名前なの。」 に関してですが、 まず、"雫"をバラして"雨(アメ),下(カ)" "下"が"シタ"ではなく"カ"なのは、 …
[良い点] 終盤が出会いの再現になってて最高にエモい すき
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