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第12話 傭兵団の大型新人

 ツカサの前で明るく笑う平人男性は、VRのホームで見たアバターと同じく、現実の本人の外見に似せた容姿だった。似た顔立ちのある種族を選んだのだろう。そして【RP】と記された盾のシンボルマークが頭上に出ている。


「名前隠しに、ロールプレイ表示を使っているんですね」

「そう。まぁ、ゲーム実況者ロールプレイしてるってことで別に嘘じゃないし」

「ゲーム実況は演じてやっているんですか?」

「いや、俺は普段通りだよ。人によってはキャラ作ってるだろうけど、実況歴長くなっていくとね、もう自然と素になっていっちゃう。面倒くさいからさ。でも、昔は緊張して冷静敬語キャラやってた時期もあったなぁ」

「ちょっとそのわんデンさんも見てみたいです」

「ホント? 多分その黒歴史動画、ネット漁れば残ってるよ」


 ネクロアイギス王国の西の街外れに2人はいた。この辺りには職業ギルドがないので、プレイヤーの人通りはない。

 そこに表通りからチョコが走ってくる。

 チョコは遠目に知らない顔を見て、1度足を止める。頭に乗っけていたカワウソを両腕で胸に抱きかかえ直し、ぎゅっと身体を小さくしながら、ゆっくりゆっくりツカサ達に近付いて来た。カワウソの顔の肉がぶにっと盛り上がってしまう。

 その姿の既視感に、これはチョコがとても緊張しているサインなのだと思い至った。傭兵団結成時にツカサ達に声をかける時も、非常に緊張しながらそれでも勇気を出してツカサ達に声をかけていたのだろう。

 チョコがペコリと頭を下げた辺りで、路地裏から雨月が現われた。傭兵団のメンバーが揃ったところで、ツカサは話を切り出す。


「雨月さん、チョコさん、今日はわざわざ来て下さってありがとうございます。一昨日と昨日は、新しく僕が入れた団員のことでご迷惑をおかけしました。ごめんなさい」

「もう終わったことだ。そんなに気にしなくていい」


 雨月のその答えに、チョコも大きく頷いた。

 ツカサは2人の平然とした態度にほっとしながら、隣の人物に視線を向ける。


「その、それで昨日の今日なんですが、この新しい人を傭兵団に入れようと思います」

「初めまして、無限わんデンです。動画サイトで約10年ぐらいゲーム配信してる実況者です。うさんくせぇなって思われるの承知でよろしくー!

 ツカサ君とはガチのリア友なので、これから団長がポカしてんなって思ったら、気軽に苦情入れて下さいな。俺はネットで活動してるし逃げも隠れもしないんで、そういう点では安心して欲しいところ」


 名乗ったことで頭上の名前が『【RP】∞わんデン』に変わった。ツカサとチョコ、そして雨月も自然と名前の表示を見た。


「わんデンさん、無限の字がいつもと違うんですね」

「実はもう名前取られてたんだよ。そこもキャラ作ってて爆笑したポイント。普段は無限は漢字で無限わんデンで活動してます。ややこしくてごめんね」

「……偽物がいるです?」


 チョコがぽつりと呟いた。

 ∞わんデンは苦笑する。


「いやいやー、俺の名前気に入って使ってるだけかもだから。好きな芸能人や偉人の名前って結構使うでしょ。そのノリで俺の名前使ってるうちの視聴者たまにいるんだよね」


 ∞わんデンのサバサバとした反応に、チョコは緊張を解いたようだった。カワウソのぶにっとつぶれた顔が少し緩和される。


「チョコです。召魔術士で木工師です。よろしくです」

「初めまして、ソロでPKをしている雨月です。よろしくお願いします……わんデンさん」

「チョコさん、雨月君初めまして。名前は出さない設定で動画やライブ配信したりするけど、姿を映してもOK?」


 チョコが「リアルで知り合いじゃないです……?」とツカサと雨月、そして∞わんデンの顔をどうしてだか不思議そうに何度も交互に見てから答えた。


「チョコは大丈夫です」

「別に構いません」

「2人とも礼儀正しいのね。ちょい心配だったけど安心した」

「実況歴が10年だと、年上の人だと思ったので」

「うおっと!? そうか、今年27の俺より中身若いのか雨月君。ツカサ君にも言ってるんだけど、頼ってくれていいよ。アンチのマト役には慣れと一家言ある俺です」


 そう言って∞わんデンが相好を崩すと、雨月は意表を突かれたのか目を丸くした。それから遠慮がちに尋ねる。


「……∞は、名字ですか?」

「うお!? 予想外にツカサ君寄りの感触ッ!? 呼ぶならわんデンでいいよ、わんデンで」

「わんデンさんです」

「お、おう……」


 キリッとして会話を締めたのはチョコだ。


「キミ達、さては結構天……いやマイペースだな……?」


 ツカサと雨月とチョコは、それぞれ別の2人の顔に視線を向け、自然と互いに顔を見合わせた。

 ∞わんデンはコホンと咳払いする。


「えっと、何か他に言い忘れたことあったっけかな。そうだ、基本どんなゲームでも視聴者の貢ぎは蹴ってるんで、俺の名前出して物渡そうとしたり、近付いて来た奴は問答無用でブロックするか、PKしちゃってね」

「え!? は、はい」


 ツカサの返事に続いて雨月とチョコも頷く。ちょうどその時、メールが届いた。



『差出人:えんどう豆

  件名:無題

  内容:フリーのフレンドいませんか?

     ソロ傭兵団結成の署名をしてくれる人を探してます。

     報酬は一応1万Gで要相談』



 ツカサが困ったようにメールを読んでいるのを見て、∞わんデンが横から尋ねた。


「どったの?」

「ソロで遊んでいるフレンドさんからメールが。傭兵団を作るのに署名してくれる人を探しているみたいなんです。でも僕、他にフリーのフレンドなんて……」

「そのフレ、タンクか近接?」

「えっと、鍛冶師をしていて……フレンドリストではメインは戦士だからタンクみたいです」


 その言葉に∞わんデンはニカッと笑うと、雨月とチョコに言う。


「2人ともこの後時間ある? ちょっとお手をお借りしたい」

「あります」

「チョコも大丈夫です」

「ありがとう。じゃあ折角なんで、傭兵団のメンバーでダンジョン行こっか!

 ツカサ君、メールにゲーム配信者と一緒にダンジョン行ってくれるなら3人署名するって書いて頼んでみてよ」

「3人?」


 きょとんとするツカサに、∞わんデンは自分と雨月とチョコを順番に指差した。


「一旦2人に脱退してもらって署名する。署名終わってからまた傭兵団に入り直す」

「ああ! 雨月さん、チョコさんお願い出来ますか?」

「構わない」

「はいです」


 えんどう豆にメールをする。しかし、えんどう豆は受けてくれないのではないかと思ったが、意外なことに了承の返信があった。




 えんどう豆がやって来る。

 最初は明るい笑顔を浮かべていたえんどう豆だったが、ツカサ達に近付くごとに驚愕の表情が深くなり、口元に手をやって雨月と∞わんデンを凝視しながらツカサの傍に辿り着く。∞わんデンに自己紹介された後はガタガタと震え出した。


「メール見て、ゲーム実況者って自分で名乗る奴だから、絶対そこらの過疎配信者だと思って……あのっあの無限わんデンさんが目の前にいて……は、吐きそう……っ」

「すみません……」


 動転するえんどう豆に、思わずツカサは謝った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 天ね…マイペースな3人に囲まれる大型新人!癒やされます。
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