第6話 ハウジングエリアの奇妙な賑わい
5月14日。ツカサは1人でネクロアイギス王国の街を歩いていた。
傭兵団販売店に行き、VRMO「龍戦記ファンタジア」とのハウジングコラボの棚を覗く。東洋風の龍の木彫りの置物や、香炉、カーペットなど、この街中では間違いなく異国の品と言える物が陳列されていた。
更には、ハウジングの建物や内装、庭具なども「龍戦記ファンタジア」のアカウントを持っていれば色々と設置出来るそうだ。どんなものなのか興味が湧いてくる。
(ネクロアイギスのハウジングエリアに、誰か建てている人いないかな?)
傭兵団販売店の傍の階段をのぼり、ハウジングエリアへと向かう。ハウジングエリアには、以前和泉と来た時には見かけなかった中東のアラビア風の丸いタマネギの形をした屋根の宮殿らしき建物が増えていた。
ツカサは宮殿の建物を目に入れながら、引き寄せられるかのようにその建物へと歩いて行く。
近付いたところ、その建物の周辺をぐるりと囲む何人ものプレイヤーがいた。
全員が深緑と灰色のマーブル模様の肌色をした3mの山人男性だ。皆一様に真顔で落ち武者のような黒いざんばら髪、白い着物姿。無言でタンクのヘイトスキルのエフェクトを出している。
そのエフェクトは手が加えられていて、爆弾や花火、なんだか嫌な目付きで笑っている男性のイラストで吹き出しが付き『ここがあの男のハウス!!』『泥棒ちゃーん、あっそびっましょー♪』と台詞は多岐にわたっていた。
それが、ひたすら静かに繰り返し使われ続けているのだ。ツカサは異様な集団に恐ろしくなって、足を止めた。
「あれは……マーブル神……!」
不意に、隣から声が上がる。
ツカサの隣には、いつの間にか平人男性の老人がいて、更にその隣に青年が立っていた。老人の頭上には紫色で【RP】、そして青年の方は嶋乃とそれぞれ名前が出ている。
嶋乃の方は、ベータ最後の夜に集合写真を一緒に撮り、ツカサ達にスクリーンショット機能について教えてくれた親切なプレイヤーだった。その嶋乃が真剣な表情でオーバーリアクション気味にバッと【RP】に振り向く。
「知っているのか、ぶっぱ!?」
「ああ。あれは取り逃げやPKハイエナ、共有倉庫の品の横領など、人の怨みを買うマナー違反行為をして買った家に取り憑くタタリ神じゃよ。あの土地を手放すか、引退するまでああやって景観ブレイクをし続けるのじゃ」
「なっ、なんだってー!?」
迫真の演技をする2人に、ツカサは目を丸くしてぽかんとする。
改めて2人の会話を加味してマーブル模様肌の山人男性の集団を見れば、怖さではなく悲哀をその姿に感じた。中の人物は、トラブルの被害者なのだろうか。
「……相手のログインの早さで負けて買い損ねた土地じゃったんだが、また空いたとしてもあそこは買えんのう。マーブル神に呪われておる」
「1度マーブル神に粘着された場所だと逆恨みをされそうだもんな。ここだけの話、奥にM土地が1つ余ってた」
「知っとる。しかし、あそこは山から遠いんじゃ。日中は影になるし、日当たりも景観も悪い。何より出入り口が向かいの家と向かい合っているのはいただけんのじゃよ」
「お、おう……。そゆとこ見てんのね」
「大きな買い物じゃからな」
嶋乃の近くに黒い円形のゲートが出現した。嶋乃は「お。呼ばれた、それじゃ」と言ってゲートの中に消えていく。
そこでツカサは思い切って【RP】に声をかけた。
「初めまして。あの、ハウジングの土地の値段はやっぱりかなり高いんですか?」
「三国のハウジングエリアは各々基本的に1番広いLで5000万、Mで2500万、Sで1000万、SSで200万じゃな。SSはロッカーぐらいの狭さでな、住むために買う土地ではない。土地によっては値段も多少変わるし、所属国の土地だと値引きしてくれるんじゃよ」
「Sで1000万……」
「Sと言っても庭付き一戸建て、物置つきじゃ。十分広く、小さくはないがのう。店と家を構えるなら少々手狭じゃな。
今は土地を占領――いや、持っていた者達が手放して売り地が少々増えているんじゃ。一等地はもう買われておるが、ルゲーティアスとグランドスルトならそこそこの土地が空いておる。ネクロアイギスの街中にこだわらんなら、そこも良いし」
一旦、言葉を句切ると【RP】はツカサをチラリと見た。
「お前さん、戦争イベントに参加しておるかな?」
「はい。生産職業でポイントを」
「なら新大陸のハウジング領地を狙うのも良いじゃろうな。もっと値段が高くなりそうなのがネックじゃが、その分広い土地じゃろうて。……大きな声では言えんが、そこが買えずともイベント後に街のハウジングエリアの土地が増えるようじゃぞ。どこの国になるかは結果次第じゃが」
「そうなんですか。楽しみですね」
「うむ、そうじゃなぁ」
【RP】は笑みを浮かべて鷹揚に頷きながら山の方へと歩いて去って行った。彼を見送ったツカサもこの場から去ることにする。
帰り際、ネクロアイギス古書店の黒い看板が目に入った。
――『プレイヤーってこんな家持てるんだ。……いいなぁ』
ふっと和泉の言葉が思い浮かんだ。ハウジングに向けてお金を貯めようという気合いがいっそう入る。
(え。メール?)
突然、見知らぬプレイヤーからメールが送られてきた。
『差出人:レーテレテ
件名:「アイギスバード」に入団希望
内容:公式サイト「プラネット イントルーダー・オンライン」の
傭兵団検索機能で見つけました!
新規の入団はまだ受け付けていますか?
こちら神鳥獣使いの初心者です』
(公式サイトってそんな機能があったんだ)
外部ブラウザを出し、公式サイトを確認する。確かに検索機能は充実していて、プレイヤーキャラクターだけではなく、現在のメイン職業比率や、傭兵団一覧など多岐にわたっていた。
『アイギスバード』も検索すると出てくる。そこに団長、副団長、団員の簡易キャラクター表が公開されていた。名前は色つきで、キャラの顔と傭兵団内の地位と種族と性別、あとはメイン職業だけの表記である。
(これを見てってことは、団員の雨月さんがPKだって分かっているんだよね。それでも大丈夫ってことなら良かった)
ほっと安心し、メールで返信を送る。ネクロアイギス王国の噴水広場で会うことになった。
不意に、不安になった。1人で決めて大丈夫だろうかと。
いつも相談している和泉もいないし、雨月とチョコもツカサの傭兵団だから好きに決めて良いというスタンスだ。ツカサが勧誘したことのあるえんどう豆と違って、これまで話したことのない相手である。人となりも分からない。
(メールを受け取った場所も悪いのかな。あんまりこのハウジングエリアで良い思い出がないというか……)
前にこのハウジングエリアで、強引に彫金秘伝書を買わされたことがツカサの脳裏をよぎっていた。
噴水前で会った種人男性の『レーテレテ』は、白いショートカットと、白と黒のオッドアイの瞳。見習いローブ姿で黒いフクロウを連れていた。珍しくツカサと同じ最大身長130cmの種人だ。
ゲームを始めたばかりの神鳥獣使いだそうで「初めまして。こんにちは」と丁寧に頭を下げて積極的に挨拶もしてくれて、不安は杞憂だったと思う。
「「アイギスバード」は基本的にバラバラにソロ活動をしています。それぞれやりたいことがあって、手伝いとかはタイミングが合った時だけですが、それでもいいですか? 合わないなって思ったら自由に退団してもらって大丈夫ですから」
「はい。俺はそういうソロでいいところを探してたんで願ったり叶ったりです」
物怖じもせずハキハキと喋れる人で、団長の自分よりも頼りになるかもしれないと、ツカサは内心苦笑いをこぼす。
「よろしくお願いします、団長!」
「こちらこそよろしくお願いします、レーテレテさん」
新しくレーテレテが仮入団し、彼に傭兵団の説明などをしているとツカサのログアウト時間が迫ってきたので一旦話は打ち切り、明日また改めて会って傭兵団について話すことになった。その日はそれで解散となる。
ツカサは最後に教会の自室に戻り、川で釣り上げた異星ザリガニをマーケットボードに出品した。他の人の出品値段に合わせて1匹55Gで全21匹を、10匹と11匹に数をわけて出すと直ぐに売れる。1155Gが所持金に入った。
ただ30Gの生餌と釣り時間も考えると、あまり金銭的な儲けには繋がらない。そこが漁師の不人気さと趣味職業的な立ち位置を築いているのではないだろうかと思いながら、ログアウトした。




