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第2話 ルゲーティアス公国でアクセサリーとタガネ製作

《稼働中のサーバーは「インナースペース」と「アウタースペース」です。

 前回ログインの「インナースペース」にアクセスしています》


《現在「インナースペース」サーバーのログインが混み合っています。少々お待ち下さい。あなたの他に89人待機しています》





 ツカサの目の前に、ルゲーティアス公国の街並みが広がる。空中にA4のホワイトボードの《連絡ボード》が浮かんだ。



・団長/ツカサ……ルゲーティアス公国元首統治領北正門

  『夜にログインしています』

・副団長/和泉 ……〈オフライン〉

  『鉱物・岩石・木材共有倉庫にあります。好きに持ってって下さいね!』

・団員/雨月 ……南東深海、海人防衛基地施設跡地

  『ソロクエスト中』

・団員/チョコ……ネクロアイギス王国東地区街路

  『スキル上げです!( ̄・ω・ ̄)』



(和泉さん、今日はまだログインしてないんだ)


 ふと《傭兵団専用チャット》のことを思い出す。フレンドチャットがあるから、誰も使っていないと思っていたが使われていた。



 チョコ:覇王さんに質問です!

     チョコはDPSを引き上げたいです。

     スキル無しに攻撃力をどうやって上げてますか?

 雨月 :不可能だ

 チョコ:!?( ̄・ω・ ̄)

 雨月 :フェイス変更はただのロマンだ

 チョコ:カワウソはロマン……( ̄・ω・ ̄)

 雨月 :レジェンドは都市伝説でいい

 チョコ:ムササビは都市伝説……( ̄・ω・ ̄)



(チョコさん、雨月さんのことを『覇王さん』って呼んでる……!?)


 なかなか衝撃的な事実だった。雨月は質問に答えている辺り、特に気を悪くしてはいないのだろう。そのことにほっとし、そして団員同士の交流に、ツカサは傭兵団を作って良かったと思った。ソフィアには感謝の気持ちでいっぱいだ。



 ルゲーティアス公国のゲームキャラクターから向けられる視線は気になるが、街の中心へと歩き始めた。正門の大通りを軽く歩いて左に曲がると、ひらけた場所に出る。

 そこは大きな池と樹木の囲い、東屋がいくつもある庭園のような公園があった。街の中心付近にこんな緑の場所があるなんて素敵な街だと思う。

 公園に足を踏み入れると、屋根と机と椅子のある東屋で生産をしているプレイヤーが何人もいた。マーケットボードが近くにあり、アクセスもいい場所だ。

 彫金師になり、勇気を出して生産をしているプレイヤーの1人に声をかけた。


「初めまして。あの、ここって誰でも生産して良い場所ですか?」

「うむ。ここは公共の場だぬ」


 ツカサが話しかけた青色ネームのプレイヤー『ぬの』は山人男性と思われ、ツカサの何倍も大柄で筋肉質だったが、声は優しくてゆったりとした雰囲気を醸していた。顔は、黒い丸い目の点がついた白い布のかぶり物をしていて分からない。

 ぬのがポンポンと隣の椅子をたたく。

 ツカサは「お隣失礼します」と告げて、隣に座った。


「1人で占領するのも良くないんだぬ。そこどうぞだぬ」


 ぬのはそう言うと、自分の作業に戻った。鍋をかき混ぜて、時折材料を入れているようだ。そのうちキラキラと鍋の液体が光り出し、ボンッという音と煙と共に、鍋の中から釣り道具のルアーを取り出した。

 ツカサは液体が消えて現われたルアーに目を丸くする。謎の製造工程だった。

 ツカサの視線に、ぬのはちらりと顔を動かし、水の入った大きな瓶を出す。そしてその中にルアーを入れた。すると、魚の形をしたルアーがひとりでに水の中で泳ぎ、ツカサは更にびっくりする。


「錬金品だぬ」

「彫金の釣り針よりもこっちが良いですね」

「普通の釣り針も、生餌でしか釣れない魚がいるから必要だぬ」

「そうなんですか。漁師をなさっているんですか?」

「ライトな釣り人だぬ。漁師は人生やめないと極められないので漁師ギルドは諦めたぬ」

「釣り人?」

「漁師にならなくても、釣り竿と釣りスキルがあればどこでも釣りが出来るんだぬ。釣りスキルはスキル回路ポイントを使わないで覚えられるんだぬ」

「釣りスキル! スキルブックですか?」

「職業不問でアクセサリーに釣り竿を装備して、水辺で糸を垂らすんだぬ。そうすると覚えられるんだぬ。釣りスキルを取った後は、装備しなくても水辺で所持品から釣り竿を出せばどこでも釣りが出来るんだぬ。

 多分、漁師をやるプレイヤーの少なさに、魚の流通量を危惧した運営がどの職業でもやれるようにしてるんだぬ」


 漁師のことは、以前に和泉にも大変な職業だと言われたのでやってみるかどうか迷っていたのだ。釣りはしてみたいが本格的にやりたい訳ではない。漁師にならなくても釣りが出来るのなら、ツカサのプレイ時間を考えてもそれがいいと思った。


「釣り竿を買ってやってみます」

「釣り人が増えるのはめでたいんだぬ。ぜひ調理師のためにマケボに魚を流してあげて欲しいんだぬ」


 ぬのは独特の喋り方だったが、とても話しやすいプレイヤーだった。リラックスしてツカサもここで彫金をしてみようと思う。

 ぬのはツカサが生産をし始めようとする雰囲気を察して、自分の作業に自然と戻った。



 レシピから製作可能な宝石の指輪を選ぶ。何も用意してないと机の上に勝手に道具が出現するようだ。

 最初はターコイズから。プライヤーで銀の細い板をターコイズの形にそって丸く曲げていき、宝石を囲めたらそこで切って銀ロウで熱して固める。石座のための輪っかを中にも造り同じように固める。銀の棒をハンマーで整え、リングゲージを使って丸く指のサイズの形にし、接合部をロウで固めた。ヤスリで高さや形を整えると、サイズ棒に通してターコイズを石座の中に填め、タガネで石留めをする。最後にヤスリで研磨して完成した。


 五芒星のト音記号とヘ音記号のゲージが現われると同時に、琴の弦をはじく音がした。

 琴と笛の軽快な和風の音楽が鳴る。渦のようにぐるぐると高速で回る複数の音符とト音記号とヘ音記号の光の束が、突然五芒星の中心に現われ、パァンと破裂した。


(うわ!?)


 てっきり視界の端から広がる花火のようなものを想定して身構えていたので、突然の変化球に面食らう。何とか指を即座に動かした。

 一瞬で終わったその衝撃の後に《クリア!》と表示され、《完成品個数+1》の彫金師用ヤニ台の効果で「LV7ターコイズの銀の指輪HQ〈VIT+2、INT+3〉」が2個完成する。〝INT+3〟がHQ効果のようだ。



《彫金師がLV9に上がりました》



《【色彩鑑定】【宝石研磨】【石留め技法】がLV2に上がりました》


《【外形鑑定】【宝石知識】がLV4に上がりました》


《【硬度鑑定】【金属知識】【金属研磨】【測定切削技法】【延ばし加工】がLV5に上がりました》



(わっ、一気に2レベルも上がった! スキルもたくさん上がったし、アクセサリーの経験値は他より多いのかな)


 これで自作のタガネも作れるようになったので、鋼の棒でタガネを作ることにした。

 タガネは彫刻刀のような加工の道具で、棒の先端の形を変えて整えてあげることで、金属を削ったり整えたりする道具だ。

 ハンマーで叩き、バーナーで熱したりして色々な先端の形のものを作る。1本完成するたびに、ギターの音がかき鳴らされ、以前の花火のように音符が散るミニゲームが出現した。


(アクセサリーだとあの渦のやつになるのかな。まだ心臓バクバクしてる……本当にびっくりしたよ)


 タガネは彫金師用ヤニ台と違い、パーフェクトを取っても付加される効果は選べず、全て《スキルレベル値増加(小)》になった。

 【毛彫り】用、【丸毛彫り】用、【片切り】用、【蹴り彫り】用、【石留め】用、【金属】加工用、【宝石】加工用のタガネを1本ずつ、追加で同じものが余分に7本完成した。



《彫金師がLV10に上がりました》



《彫金師がLV10に到達しました! 称号の変更が可能です。彫金師ギルドを訪問して下さい。

 LV11以降、レベルの上昇によるスキル回路ポイントの取得はなくなります》



《【金属知識】【金属研磨】【測定切削技法】がLV6に上がりました》



(生産は、早めにレベルを上げるだけになるんだ)


 現在、スキル回路ポイントは合計15。その中で生産のポイントは9。

 未取得なのは【特殊生産基板〈銀〉】の【片切りLV1】(3P)、【蹴り彫りLV1】(3P)、

【特殊生産基板〈透明〉】の【彫刻LV1】(5P)だ。


(ポイントが足りないのは、彫金に関係ありそうで今のところ全く使ってない【特殊生産基板〈白銀〉】のスキルを2つも取ったのがまずかったのかな……。でもそういう意味では【彫刻】も関係ない気がするし、彫りのスキルを優先しよう)



《【特殊生産基板〈銀〉】の【片切りLV1】【蹴り彫りLV1】を取得しました》



 何とか余裕をもって彫金のスキルを全て覚えられたのは、メインストーリーでポイントを消費せずに覚えられたスキルのおかげである。

 あれをやっていなければ戦闘用のスキル回路ポイントを使う必要があるのではないか、事実途中でツカサは1ポイントだけ戦闘職のものを使ってスキルを1つ取った――と考えたところで気付いた。


(生産職業は複数やるのが前提になってるんだ。【基本生産基板】と一部の【特殊生産基板】は他の生産職業と共通で使えるスキルがあるみたいだし)


 しかし、ツカサは他の生産職業に手を出せるほどの余裕はない。

 その辺りは諦めると、「ターコイズの銀の指輪」と同じ工程で、手元にあるラピスラズリ、アンバー、ジェード、ペリドットの4つの宝石を使って指輪を作る。


 やはり早過ぎる渦の中のト音記号とヘ音記号が、五芒星の記号と重なる瞬間を捉えるのが難しくてミニゲームをクリアは出来てもミスが出続ける。

 ツカサもミスが出るたびに気合いを入れ直し、「次こそは!」と次第に熱くなっていった。レベルとスキル【色彩鑑定】【宝石研磨】【石留め技法】も1上がり、最後の1つでようやく《パーフェクト!》と出た瞬間、


「やったー!」


 とつい声を上げてしまった。隣からパチパチパチと手を叩く音がする。



 ぬのエモート:ツカサに拍手した。



 ツカサの声に、ぬのがわざわざ拍手をしてくれた。ツカサは頬を赤く染め、照れながら「騒がしくしてすみません。ありがとうございます」と小さな声で礼を告げる。



《「LV11ペリドットの銀の指輪HQ〈VIT+2、STR+7〉」×2を製作しました!

 パーフェクトボーナスとして特殊効果をランダム付与出来ます。どれを付与しますか?

 ・VIT+5

 ・スキル経験値上昇

 ・【魔法攻撃反射】スキル(※スキルリストに出現後、効果は消滅する)》



 特殊効果付与はスキルのものを選ぶ。


(明日、この指輪を和泉さんに渡そう!)






 ――しかし、次の日も和泉はログインしなかった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ぬのさんもキャラが立っててとても好きです。
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