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引っ込み思案な神鳥獣使い ―プラネット イントルーダー・オンライン―  作者: 古波萩子
10 初期発表『プラネット イントルーダー・オンライン』浮上編
123/127

第7話 サブ派生クエスト『太古の残滓』/後編

 庭は、苔むした異形の像や柱と壁、花壇などが道に沿って設置されていて道自体も細かく枝分かれしており、小屋や垣根の迷路へと続いていた。外から見えていた風景以上に広く煩雑だった。

 普通のダンジョンと違うのは、連れていた神鳥獣がいなくなったこと。チョコの召喚獣も消えていた。

 物陰に隠れながらツカサは1人で歩く。アナウンスにあった敵らしき存在は見当たらない。


(階段だ)


 レンガの小さな階段を見つけた。その先はテラスのようである。

 階段はなだらかで5段ごとに踊り場があって、階段を上がりきると温室らしき建造物と石を円に並べたモニュメントが見えた。

 ツカサはその造形に見覚えがあると感じた。


(ランダムダンジョンのストーンサークル? でも形は違うから似ているだけかな)


「パビリオンか」

「ぱびりおん?」


 雨月が反対側の階段から上がってきて、ツカサの見ているものについて教えてくれた。ストーンサークルではないようだ。


「記念碑を置くようになっているようだから。通常はガゼボーになると思うが、ここでは下に別のガゼボーがあったからパビリオンと呼ぶんじゃないだろうか」

「がぜぼー……ですか?」


 ツカサの疑問符を浮かべている様子に、雨月は補足する。


「東屋だ」

「あずまや?」


(聞き覚えはある言葉だけど)


「屋根があって壁は無く座れる……」

「休憩所だ!」


 公園の映像を思い浮かべてようやくわかった。


「雨月さんは物知りですね」

「いや、きっとツカサさんの方が物を見知っている」

「僕は全然知らないことばかりです」

「そんなことはない」


 2人はパビリオンに近付いていく。

 すると、1つの柱の形をした台座の上がふんわりと光っていた。台座は低く、種人種族でも無理なく台座の上に手が届く高さだ。

 台座の上には土の入った平べったい鉢植えが置いてあって、中の土がエフェクトでほのかに輝いている。

 ツカサが手を伸ばすとシャンシャン! と鈴の音が鳴り、目の前に《「埋もれたお守りの欠片」の取得》と文字が浮かんだ。縦長のゲージも表示される。

 ゲージは上部が100、下部が0と数字が記されていて、ツカサの手が土に触れると0から1……2……と数字が上がり、ゲージの中が上がる形で白色に塗りつぶされて変わっていく。


「拾うのはこれみた……! ――いで……?」


 エモートを使った時のように自動で土を掘り返す動作をすることになった。さらにツカサの手の動きがスローモーションで目が点になる。今まで無かった現象に頭が混乱した。


「土の中に埋まっているのか」

「あのっこれ、雨月さんにはどう見えていますか!?」

「スローだな」

「あ。じゃあ僕だけに見えている動きじゃないんですね」

「たぶんこういう仕様だ」


 慌てていたツカサは不具合ではないと知って安心した。

 そして雨月もツカサの横で土を掘り起こし始める。ゲージの上がり方がツカサ1人の時よりも早くなった。

 勿論雨月の手もゆっくりと土を触っている。彼は眉間にしわを寄せた。


「妙な感じだな……」

「はい……」


 二人揃って自動で手と腕が動いている様子を眺める。


「いつものタイミングチェックが来ない」

「これはミニゲームないみたいですね」

「妙だな」

「はい――」


 とツカサは頷いてから同じ会話を繰り返したことに気付き、雨月と顔を見合わせて笑った。お互いすっかりプラネプレイヤーだ。


「ツカサさんは、わんデンさんの動画なら全部見ているだろうか?」

「全部はさすがに……。興味のあるものを、それもちょっとだけ見てます。毎日プラネ以外の動画も投稿されていてすごいですよね」


 無限わんデンはよく深夜から朝方、昼間に『プラネット イントルーダー・オリジン』の配信をしていて、いつ他のゲームを遊んだり寝ているのか謎である。そもそも昼間はコンビニの店番があるはずなのだが、どんな時間のやりくりで両立しているのだろうか。


「監獄ラプラプス地下空洞の『夢の最強メンバーでナイトメア!』という動画は見ていないならそのまま見ないでほしい。パーティープレイで足を引っ張ってしまったから恥ずかしい」

「雨月さん出ているんですね! えっ……そんな、面白そうです」

「あれは人が見て面白いだろうか……? よくわからない」


 当人である雨月は首を傾げた。他には『陸奥』と『牙』が出ているそうだ。


(全員ソロで強い人達?)


 経緯の詳細は不明だが、わざと色々な分野のソロプレイをしている人達を集めたお祭りパーティーメンバーがコンセプトなのだと思った。

 雨月がPK仕様のアタッカーで参加したのなら、対人向けのスキル構成はダンジョンなどの攻略向けではないと聞くのでパーティー内で1番弱くなってしまったのかもしれない。


「雨月さんは面白かったですか?」

「――ああ。タンク無しは無茶が過ぎる」

「タンク無し!?」


 楽しく雑談をしている間に、ゲージは90%まで上がり、視覚的にも土が掘り返されて中から白い欠片が姿を現し始めた。



《スキル【古代鉱物解析】によって、あなたにはこれが何かわかります……。

 ――これは『古代原獣イクチの骨の鉱物』。『肉食獣アンモーン』を追い払う種人種族に伝わる魔除けのお守り》



(え!?)


 唐突なアナウンスにツカサは驚く。音声とともに目の前に表示されたアナウンスの文字はすぐに消えてしまった。


「雨月さん、今――」

「ツカサさん」


 言葉を遮られたツカサは雨月を見上げたが、目の前にはもういなかった。既に雨月はさっと身を翻してこの場を離れている。

 ツカサも慌てて土から手を離して走り出すことにした。駆けながら背後を振り返ると、暗闇から二足歩行の不気味な存在が現れてギョッとした。

 人類には見えない赤い魚の顔に、赤黒くウロコに似た肌質。人間のような体つきこそしているが、人間とは何かが根本的に違うと感じさせる姿形の生物だ。服も着ていない。

 しかし、ツカサはどこかで遭遇したことがある気がした。


(あれ何だっけ……あっ! そうだ! 戦争イベントで殺人鬼の人がしていた魚のかぶり物に似てる!?)


 ひょっとしたらこの生物がモチーフの被り物だったのだろうかと頭の片隅で考えながら、かなり慌てふためいた。

 先を走る雨月が階段を一段ずつ下りるのではなく、最上段から一気に下まで飛び降りる姿を目撃する。長いコートをひらりとなびかせて消えた背中が格好良かった。

 しかしとてもじゃないが、ツカサには真似出来そうにない。着地する地面の遠さに怖さを感じる。どうしても怪我や着地した時に打ち付ける足の痛みを想像してしまうのだ。

 雨月の様子を見送るに、落下ダメージは無さそうだったが、少し硬直時間はあるようだ。雨月は動けるようになるとすぐに去っていった。

 ツカサもその間に階段を駆け下りる。


(雨月さんと同じ方向に逃げちゃだめだ)


 必死に別の方向へ走る。背後からテクノポップで何故か陽気なBGMが追いかけてきていた。

 突然、前方の石壁の影から人が飛び出してくる。


「わあ!?」

「きゃ!?」


 思わず鉢合わせたのは和泉だった。お互い想定外の遭遇に心底驚く。


「ツカ――」

「和泉さん逃げないと!!」

「え? ……ヒッ?!」


 和泉はツカサの背後に迫る半魚人のような存在に悲鳴をもらした。

 次の瞬間、ツカサの視界が前後にブレる。見ていた景色がめまぐるしく変わった。

 身体を肩に担ぎ上げられたのだ。


「ツカサ君……!!」

「うわ……っ高いです!」

「そんな!?」


 ツカサを見上げながら和泉は混乱してパニック気味だ。ツカサも驚きのあまり、率直に高くなった視界の感想をこぼす。二人とも会話どころではない。

 こちらのパニックにはお構いなしに、和泉も捕まえようと赤黒いウロコの手が伸ばされる。和泉はそれを避けると後ずさって距離を取った。


「和泉さん逃げてください!」

「う、うん! ごめ……ひえっ!」


 和泉は再び捕まえられそうになるのを危うく避けて、素早くこの場から逃げ出した。

 ツカサを抱えている敵は、そこで和泉を追わずに近くにあるくぼみへと向かう。ツカサはその中に優しく下ろされた。攻撃はされないらしい。



《『ツカサ』が〝幻影のイクチ〟に捕まりました!》



(わっ。これアナウンスされるんだ)


 1番最初に捕まったことをみんなに告知されるのは何やら恥ずかしい。

 特に説明も無く出された敵の名前――『幻影のイクチ』はツカサを置いてこの場を去っていった。

 生産の上位スキルで得た情報と照らし合わせると少々混乱する。今、集めているお守りの欠片は『古代生物イクチの骨の鉱物』のはずだ。


(僕達あの人の骨を集めている? ……設定が怖い)


 辺りを見渡す。ツカサがいるくぼみは、石で囲った池らしきもの。その小さすぎる池の中にはツカサの腰ぐらいまで水が張られている。

 目の前に《1》と大きく表示が出た。確か3回捕まると探索が強制終了のはずだ。

 身動きは全くできない。助けが来るのを待つしかないようである。誰か来てくれるだろうか。


(でも助けに来てもらうより、この間にお守りの欠片集めを優先してもらった方がいいかもしれない)


 人影が差す。あまりに助けが早かったので先ほど会った和泉かとツカサは顔を上げた。

 しかしひょっこりと池の中を覗き込んでいたのは∞わんデンだった。ニッコニコの笑顔である。

 ∞わんデンは池の縁にある石のボタンを押した。すると池の水が引いて無くなり、ツカサは身体を動かせるようになった。



《『ツカサ』が解放されました》



「わんデンさん、ありが――」


 顔を上げると、もうそこに∞わんデンの姿はなかった。素早い。



《『帰らぬ迷子』が「埋もれたお守りの欠片」を拾いました! 1/5》



(帰らぬ迷子さん、頑張ってくれている!)


「ああーッ!?」


 遠くで和泉の声が聞こえた。「この人BGMおかしいんだよぉっ!!」と断末魔が木霊する。



《『和泉』が〝幻影のイクチ〟に捕まりました!》


《『和泉』が解放されました》



(え!? 早い!?)


 救助者は誰かわからないが、この早さは隠れながら後ろをついて行ったりしていたのだと思う。何となくこの救助も∞わんデンの気がする。

 ツカサは再度捕まらないように急いでこの場を離れた。そして緑のアーチをくぐり抜けた先に向かうと、日時計がある道に出た。

 側に機械的なカプセルのような器が落ちており、そこからこぼれ出ている不透明なジェルの塊が道端にこんもりと転がっている。エフェクトで輝いているので、その中にお守りの欠片があるようだ。

 そのジェルの中に手を突っ込んでいる小さな人影を見つけた。

 薄暗い中でも種人の体格だとわかる。


(チョコさんだ)


 そう思って気安く近付いてみれば、NPCの種人少女でドキッとする。


「お隣いいですか?」

「……」


 返事はなかった。帰らぬ迷子は、一心不乱に黙々と拾得ゲージの数字を進めている。ツカサも邪魔にならないよう隣で静かに手を伸ばす。

 対面の反対側から小さな人影がこちらに近付いてきた。

 ツカサの方はチョコだと気付いたが、チョコの方は正面のツカサに気付かなかったようで、帰らぬ迷子の隣に来て親しげな表情を向けた直後にビクッと震えた。

 急いでチョコに声をかける。


「チョコさん」

「ハッ?! 団長さん!」


 チョコはツカサに気付いてふにゃっと頬を緩めた。


「団長さんこっちだったのです」

「帰らぬ迷子さん、しっかりやってくれていますよね」


 3人だと拾得ゲージの進み具合が早い。


「チョコも頑張るのです」


 キリッと太眉を上げて握りこぶしを作ったチョコは、そう表明した途端に拾得ゲージのスピードが遅くなったので急いで手を戻した。



《『雨月』が「埋もれたお守りの欠片」を拾いました! 2/5》


《『帰らぬ迷子』『チョコ』『ツカサ』が「埋もれたお守りの欠片」を拾いました! 3/5》



「やった! うわ!?」

「!!」


 喜びもつかの間、ツカサ達は幻影のイクチから不意打ちを受けた。近付いてきていたことに全く気付かなかった2人は肝を冷やす。捕まったのは帰らぬ迷子だ。


「帰らぬ迷子さん!」

「迷子さん!!」

「その名前連呼はヤメテ!?」


 幻影のイクチの背後に隠れ潜んでいた∞わんデンが、思わずといったふうに顔を出して一言つっこみ、また物陰に隠れた。

 その姿に目を丸くしながらツカサとチョコも逃げる。

 どうやら∞わんデンは逆に幻影のイクチをつけ回していたらしい。救出の早さに納得がいった。そんな手があったのかとチョコも感心したらしく、ツカサと互いに顔を見合わせると、今度は自分達が一緒にいた帰らぬ迷子を助けようと力強く頷き合った。

 遠くまで逃げたフリをして物陰に隠れつつ、幻影のイクチが向かう先についていく。見つからないかとドキドキしながらでスリルがあった。

 帰らぬ迷子が池にそっと置かれる。



《『帰らぬ迷子』が〝幻影のイクチ〟に捕まりました!》



 幻影のイクチが離れた隙を見て、ツカサとチョコは飛び出した。


「あっ」


 和泉ともばったり会う。さらに∞わんデンとも鉢合わせ、ほぼプレイヤー達が集結した。


「ひわっ!?」


 素早く戻ってきた幻影のイクチに和泉が捕まった。

 ツカサは幻影のイクチの手を避け、なんとか池のボタンを押して走る。



《『帰らぬ迷子』が解放されました》



「ツカサ君ナイス! 逃げろーい!」

「副団長さん……!!」

「私はいいよ! みんな逃げてぇぇ!!」



《『和泉』が〝幻影のイクチ〟に捕まりました!》


《『和泉』が解放されました》



「早い!? デシャブなのです!」

「さすがわんデンさん……!」


 解放のアナウンスに2人は少々気が緩んで足を止めた。その拍子に、もう追ってきているとは思わなかった幻影のイクチにチョコが捕まった。



《『雨月』が「埋もれたお守りの欠片」を拾いました! 4/5》



(雨月さんが! じゃないチョコさんが!!)


 チョコが池へと連れて行かれる。



《『チョコ』が〝幻影のイクチ〟に捕まりました!》



 チョコを助けようと後ろをついて行ったツカサは、幻影のイクチが離れた後ろ姿を確認してから助けに近付いた。

 ところが幻影のイクチは、先ほどと違う動きをする。くるりとUターンすると猛然と駆け戻ってきた。


「え!?」

「ちょっ!?」


 同じく助けようと姿を現した∞わんデンもろとも、手早く担ぎ上げられ仰天する。


「わ……!」

「やっぱプレイヤーより足はっや。初見チェイスの難易度高いね」



《『チョコ』が解放されました》



 目の前で、帰らぬ迷子がチョコを助けていた。


「キミ救助やる子だったの!?」

「ありがとうなのです!」

「チョコさん、良かった……!」


 幻影のイクチは両腕が塞がっているせいか、逃げていく帰らぬ迷子とチョコを追いかけはしなかった。



《『雨月』が「埋もれたお守りの欠片」を拾いました! 5/5》


《全ての「埋もれたお守りの欠片」を収集できました。5つの欠片は「埋もれたお守り」になります。フィールド探索をクリアしました!》



 空からゴーンゴーンと鐘の音が響き渡る。幻影のイクチの姿が消えて、ふわっとツカサ達の身体は浮き、地面へと着地した。

 薄暗かった視界が次第に明るくなり、出入り口を塞いでいた垣根は淡く色彩がにじむように消えていく。

 イングリッシュガーデンの入り口に、ツカサは1人で立っていた。手には『埋もれたお守り』を持っている。

 視線が自動で庭の横の小道に動いた。垣根越しにラウンドスーツの平人男性と目が合った。彼は帽子を軽く上げてこちらに会釈する。ツカサも軽く頭を下げ返した。


「おぉっ! それは古代に種人が居住に飾っていた魔除けのお守りでは!? なんと珍しいものをお持ちで」


 ツカサの手の中にある埋もれたお守りに熱い視線が注がれる。


「しかも完全な形で残っているとは。そちら譲ってくれませんか! きっとこの屋敷から悪しき化け物を退けられますよ」



《サブ派生クエスト『太古の残滓』を達成しました!》

《達成報酬:経験値300、通貨100Gを獲得しました》

《好感度追加報酬:経験値500を手に入れました》



 好感度が上がっているのはフィールド探索の欠片を完成させてクリア出来たからだろう。民俗学者がこの場を去ると、∞わんデン達も姿を現した。


「面白かったね」

「はい!」

「け、結構ドキドキしたー……」

「雨さんすごかったのです!」

「隠れていただけだ」


 わいわいと感想を言い合いながら、全員でアイギスバード公爵領に帰還した。

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[一言] 願います
[一言] 更新を楽しみにしています。 勝手ながら、このコメントが物語の登場人物たちの様に、この作品を楽しみにしている方たちの救いになることを願います。
[良い点] 『夢の最強メンバーでナイトメア!』見たすぎる…………いいなあプラネ世界のゲーマーたち…………羨ましいいい…………!!!ギリギリ [気になる点] 作者さん戦闘描写苦手に思ってるのか知らんが雨…
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