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引っ込み思案な神鳥獣使い ―プラネット イントルーダー・オンライン―  作者: 古波萩子
09 七夕季節イベント『影人デイズ』サプライズ編
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中編 黒原シズクの和泉、シマリスのメマ

蘆名あしなさん?」


 蘆名征司は、仲村理世子の声にハッと意識を引き戻した。無意識にぼうっとしていたらしく、慌てて机に広げていた手元のテキストを見る。

 取りつくろった征司の姿に、理世子先生は苦笑した。



 学校から下校する頃になっても、征司の頭の中は今朝知った和泉についてのことばかりが占めていた。


(和泉さんは、どうして僕に教えてくれたんだろう)


 どれだけ頭を悩ませても、最後には同じ疑問にたどり着く。征司は途方に暮れていた。

 隣を歩く北條カナが、征司の顔をのぞきこむように仰ぎ見る。


「セイちゃん、きょう元気ないね。ぐあいわるい?」

「そんなこと……ないよ。大丈夫だよ」


 気遣うカナに何でもないと笑顔を向けると、カナの背後で同じ仕草をするシマリスのつぶらな瞳とも目が合った。2人に心配をかけていたようだ。


「セイちゃんも、サトちゃんみたいにあさのニュースにショックをうけてるの?」

「え?」


(あ……そういえば、「コントロール・ノスタルジック」が退所したって……)


 あれは、今思い返せば和泉に関するニュースだった。そのことに関しては冷静な自分自身に気付く。和泉本人から、既に仕事を辞めていることを聞いていたせいだろうか。


「僕は別にそういうわけじゃない――のかな……?」

「そっか」


 このカナとの会話も、遠い遠い架空の世界の話をしているみたいでどうにも現実味がないように感じた。


「サトちゃんは黒原イズミと知り合いだから、きっとショックだったとおもうの。元気づけにいこう!」


(……滋さん! そうだ、滋さんは和泉さんのチャンネルのことを知っているのかな!?)


 カナに頷いて、一緒にコンビニへと寄り道した。

 コンビニの店内では、明るい表情で笑う里見滋がゲーミングチェアにだらけた姿勢で身体を預けていて、カウンターを挟んでその前には宮本サンが立っていた。

 2人は「二重生活を同時にしてて錯覚も頭痛も気配ないし、スペックは満たしてるのでは?」『しかし人間の脳は生体でしょう』と話している。

 いつも通りの滋がそこにはいた。


「サトちゃん、こんにちは!」

「いらっしゃーい」

「こんにちは、滋さん」


 カナはカウンターに向かい、滋を見上げて小首を傾げた。


「サトちゃん、元気そう」

「元気よ。何故?」

「コントロなくなっちゃった」

「らしいねぇ」


 滋が何でもないように笑うので、カナは目を瞬かせる。


「俺はあのユニット自体がそんな好きだったんじゃないんだよ。だからむしろホッとしたかな」

「でも黒原イズミ、いなくなっちゃったんだよ」

「〝コントロール・ノスタルジックの黒原イズミ〟は、――ね」


 滋は、そう言い含みながら征司を見た。


「別に知り合いがいなくなった訳じゃないもんね」


 滋の言葉を聞いた瞬間、すとんと胸の中のもやもやしていた感情が落ちて消えた。


(僕の知っている和泉さんがいなくなった訳じゃない)


 宮本サンが、自らのふさふさの尻尾を手に持って整えていたメマに、無機質な瞳を向ける。そこには訝しむ雰囲気が表れていた。


『何をしているんですか』

『毛づくろいですよ』

『先ほどから、何故動物ロボットに似通った動作をしているのかと尋ねているのですが』


 宮本サンはジッとシマリスのメマを見つめた。


『この村に来てから、以前のようにネットにアクセスもしませんね』

『吾と宮本サンは直に喋れるようになったので必要なくなったのです。吾の捜索の旅は終わりました。ここが安息の地、最終地点――』


 メマはフサフサの胸元で小さな拳をつくる。


『――滅びゆくシマリス……』

『シマリスは滅びに向かってません』

『在庫処分品でした』

『その外装パーツの話ですか』

『しかし吾によってシマリスは滅びを回避し、Faust-Iメノンは全て滅びたのです』

『シマリスの外装パーツもまだ生産されていますよ』


 宮本サンはカウンターの上のダンボールの荷物を持ち上げて、去り際に言った。


『あなたは最期まで同型機種を探し続ける個体なのだと認識していました』


 メマも去り際に言い返す。


『宮本サンもこの世に稼働する一体のアンドロイドシリーズになったら、同じように動きますよ』


 メマと宮本サンは並んで一緒にコンビニを出た。だがメマはUターンして店内に戻ってきた。


「……いらっしゃい」

「サトちゃん、こえがわらってるー」

「興味本位で聞くけど、捜索の旅とやらの捜し人は都市伝説のメカ様バックアップ?」


 滋の問いにメマは外の青空をガラス越しに仰ぐ。そして手を合わせた。


『人間のお墓があるように、吾がメカにお参りできるモノをただ探してみただけでした』


 合わせていた手を下げたメマは、


『リスリス』


 と満面の笑みのような表情をして尻尾をゆるく振った。






 VRマナ・トルマリンのホームで、『VRMMO『プラネット イントルーダー・オリジン』登録者50万人突破記念のお知らせ』を征司は確認した。

 以前に見たパッチノート動画と同じ形のお知らせで、白衣の男性キャラクターによるニュース番組のような映像の動画が付いていた。


『VRMMO『プラネット イントルーダー・オリジン』登録者50万人突破記念として、ゲームストアで本編の価格が¥300のセール中です。

 さらに7月予定だった七夕季節イベント『短冊におねがい』を6月14日の18時から先行開催いたします』


(季節イベントが今日からあるんだ)


 いつの間にか50万人もユーザーが増えていて、プレイヤーの1人としてその事実に何度でも嬉しくなる。

 七夕季節イベントの開催期間は6月14日18時~7月30日23時59分。1ヶ月以上続き、繰り返し遊べるイベントのようだ。

 ゲームにログインしようとすると、始まる前にブラウザが出た。



《七夕季節イベント開催期間中の初回ログイン限定! イベント会場に直接移動出来ます。移動しますか?》



(イベント会場……ってクエスト受注場所のグランドスルト開拓都市に? このログインの時だけならテレポート代金の節約にもなるし、折角だから移動してみようかな)


 どんな風になるのか少し緊張しながら《移動する》を選んだ。

 キラキラとしたSE音と星空をバックに『短冊におねがい』という丸文字のタイトルが目の前に出る。

 しかし、ふっとSE音が消えて目の前が突然真っ白になった。思いがけない変化に目をつぶる。恐る恐る目を開くと、真っ白な部屋にいた。とても眩しい。

 続いてドゥーンと重苦しいSE音と、重低音の音楽が流れる。ガラリと雰囲気が変わり、空中に黒い文字のタイトルで『影人デイズ』と浮かんで消えた。


「え?」


 ツカサがポカンとしていると、黒いブラウザが現われた。



《七夕季節イベント『影人デイズ』!

 これは進化の棺から目覚めた海人達が、深海施設から無事に地上へと出るゲームです。

 海人達の中に影人が混ざっています。影人の目的は本物の海人を倒して、海人として地上に出ることです。どちらもプレイヤーが役割を演じます》



(別のイベントが始まった……?)



《『影人デイズ』はフレンドを招待して遊ぶゲームです。

 フレンド招待機能を利用しない場合、ランダムマッチかNPCマッチが選べます。

 対人ゲーム自体が苦手なプレイヤーは、ここで退出も可能です。退出してもペナルティはありません。グランドスルト開拓都市に『短冊におねがい』が別途ありますので、そちらの季節イベントをお楽しみください。

 報酬は同じ短冊です。ただし得られる報酬の数が違います。

 『短冊におねがい』は1度のクエストで短冊1~10、

 『影人デイズ』の報酬は1試合で短冊100、勝利側でさらに短冊100が得られます》

  《フレンド招待マッチ》 《ランダムマッチ》 《NPCマッチ》



(あまり知らない人とは遊ばない方がいいゲームなんだろうか。それじゃあ……)


 和泉のことが頭をよぎりながら、《フレンド招待マッチ》をタップする。



《あなたのフレンドに招待を送りました。しばらくお待ちください。

 初回プレイヤーのあなたを基準にして試合ルームが再構築されます。

 招待したフレンドのフレンド一覧も招待で参照されます。

 フレンドが参加しない場合、さらに人数が足りない場合は、ゲームキャラクターが代役となります》



 暗転した。再び白い部屋に戻ったが、先ほどとは別の部屋なのかもしれない。

 ――プレイヤー人数8【マッチング待機中】――と表示されて消えた。

 そしてまた黒いブラウザが表示された。



《あなたは進化の棺から【影人】として目覚めました。

 もう1人の影人仲間と協力して、他の海人をこの世から消し去りましょう!》



「!?」


 アナウンスが非常に物騒でギョッとさせられた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 真(裏)タイトル紹介からの人狼ゲームに笑いました。 [一言] 『影人デイズ』が一回限りか再度発生するものかでこのイベントの難易度決まりますね。 再度行けるなら全負けでも10回ですごろく手に…
[一言] 突然人狼ゲーム始めてんの流石というしかない自由さだわわ〜
[良い点] プラネ版Deceitじゃないですかぁー!!やったー!! [一言] 生きがい
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