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骨董魔族の放浪記  作者: 蟒蛇
第6章
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過去の遺物と魔物の暴走

更新が遅れてしまい申し訳ありません。

少し推敲に時間がかかってしまいました……

 鉄を思うように鍛えることができるというドワーフの炉。今ではその製法が失われた、過去の遺物とも言える代物。そんなドワーフの炉を、アルクラドは知っているようであった。

「魔力炉ってのは、何なんだ?」

 ドワーフの炉を、魔力炉だと当然の様に言うアルクラドであるが、オルネルはそんな言葉を聞いたことがない。シャリーも同様で初めて聞く言葉に首を傾げている。

「魔力炉とは、周囲の魔力を取り込み、使用者の意思の通りに鐵を鍛える炉である」

 アルクラドの言葉は、オルネルの知るドワーフの炉の性能と同じだった。しかし魔力を取り込むというくだりは、初めて耳にすることであった。

「魔力を取り込むってのは、一体どういうことなんだ? 鉄を打つのに魔力なんざ関係ねぇだろう」

 長年ラゴートの町で武器を造ってきたオルネルだが、魔力のことを考えて鉄を打ったことは1度もない。元々魔力の扱いが苦手な種族であり、どちらかと言えば持ち前の筋肉で物事を解決しようとする性質だ。

「意思を鐵に反映させる為に魔力が必要なのだ。我は鍛冶の事は識らぬが、魔力炉とはそういう物だ」

 アルクラドは、ドワーフの炉について詳しく知っているわけではなく、ただ知っていることを口にしているだけのようだった。

「確かにこいつで武器を造った時は、自分の考えてる通りに上手く打てる時があったが、それが魔力のおかげだって言うのか?」

 オルネル自身、ドワーフの炉を使いこなせていない、と言うが、自分の思い通りの武器が打てたことは何度かあったのだ。

「ところでどうやったら炉は魔力を取り込むんだ? オレは魔力の扱いはからっきしだし、自分で込めろなんて言われてもできねぇぜ?」

 オルネルは、ドワーフの炉を扱う為に、魔力などというわけの分からないものが関与するなど知らなかった。一般的な炉と同じ扱い方でいいと思っていたが、そうではなかった。魔力に頼って鍛冶をするのは気が引けたが、ドワーフの炉の正しい使い方は是非にでも知りたかった。

「火を熾す、それだけである。炉に火を入れれば、自ずと魔力が溜まる。後は『鐵よ、こう在れ』と念じながら打つ。それが魔力炉の使い方である」

 アルクラドは魔力炉を使ったことがなかったが、その使い方は単純だ。火を入れ、念じ、打つ。それだけである。

「何だ、それだけか? メチャクチャ簡単じゃねぇか」

 魔力が絡む分もっと複雑な何かが必要なのかと思っていたオルネルだが、アルクラドの言葉を聞きニヤリと笑う。何も難しいことはない、と。

「いえ……口で言うほど簡単ではありませんよ」

 しかしそれをシャリーが否定する。アルクラドの話を聞き、シャリーが思ったのは、魔法の扱いと似通っているということだった。魔力を込め、念じる。それはまさしく魔法の使い方だからだ。

「念じる、というのはそれほど簡単なことではありません。念じている間、他のことを一切考えちゃいけませんから」

 魔法とは己の意思を魔力に込め、様々な現象を引き起こす技である。どの様な魔法を発動させるか、それを明確に思い描くほどに、魔法は強力になっていく。その為にも術者は、その意識を魔法だけに集中させる必要がある。魔法の場合は余程、大規模なものでない限り、意識を集中させる時間はそれほど長くはない。

 しかし鍛冶の場合は話が変わってくる。魔法の様に10や20を数えるうちに剣が出来上がるということはない。何刻にも及ぶ時間、灼熱の炉の前で鉄を打ち続けなければならない。その間、他のことを一切考えず、自分の打つ剣のことだけを考える。それは言うのは簡単だが、実際に行うのは難しい。1つのことを考えているようでも、無意識のうちに他のことが頭に思い浮かぶことはよくあることなのだから。

「それのどこが難しいんだ?」

 しかしオルネルは不思議そうに首を傾げて言う。

「オレぁ火の前で、鍛冶以外のことを考えて、鎚を振るったことは1度もねぇぜ? 余計なことを考えて打てるほど鍛冶は甘くねぇ」

 オルネルは驕るでもなく、ただ事実を言っただけという口振りだった。鍛冶を始めればそれだけに没頭できる。それができるが故に、彼は町一番の鍛冶師になることができたのだろう。

「さて、新しい剣を造らねぇといけねぇんだ。時間が惜しい、帰ってくれ」

 突然にオルネルは立ち上がる。

「まさかこいつの使い方が分かるとは思ってもみなかったが、嘘じゃねぇだろうな?」

 オルネルは部屋の隅、ドワーフの炉の傍により、炭や鉱石の準備をしていく。その口元は楽しそうに緩んでいる。

「我は嘘を好まぬ」

「そうか……剣、楽しみにしてな」

 アルクラドの答えを聞くと、オルネルはフッと笑い、それきり鍛冶の準備にかかりきりになってしまった。

「1旬後、また来よう」

 オルネルが鍛冶の準備を始めたことで、アルクラドも立ち上がり部屋を後にする。オルネルは、アルクラドが出ていったことも声をかけられたことも、気づかずにドワーフの炉に火を入れるのだった。


 アルクラド達がオルネルに(ドラゴン)の鱗を届けた翌日、ラゴートの町は大騒ぎだった。前日から、ドール山脈付近の獣や魔物が暴れまわっている、というのである。

 ラゴートから見て東、ドラフ山のある方向、から強力な魔物が現れ、他の獣や魔物がそれから逃げているようだった。またその強力な魔物も、何かに怯えているようであった。

 錯綜する情報をギルドが集め整理した結果、どうやらドラフ山に(ドラゴン)が現れたらしい、ということが分かった。

 (ドラゴン)の飛翔を目撃した者がおり、また強力な魔力の高まりを感じた者もいた。そのことと魔物達の暴走を合わせれば、その原因が(ドラゴン)であると考えるのは自然なことだった。

 山で眠っていた(ドラゴン)が目覚めたことで、ドラフ山の魔物達は恐慌状態に陥る。慌てて山から逃げた魔物達。しかし逃げた魔物達も強力であり、他の土地の獣や魔物は迫りくる脅威に恐れをなして逃げ出した。こうした恐慌の連鎖がラゴートの町での大騒ぎにつながった、というのがギルドの考えであった。

「アルクラド様……これは食事どころではないですね」

「そうであるな……」

 シャリーの言葉に、アルクラドは残念そうに呟く。

 町に大量の獣や魔物がやってくるかも知れない。その恐怖で町中が慌ただしい雰囲気に包まれている。冒険者達は魔物退治に出ていき、戦えない者達は家に籠り出入り口を塞ぐなどして襲撃に備えている。

「アルクラドっ! 頼む、手を貸してくれ!」

 そして故郷を守りたいビッケルからは、当然の様に助力を乞われる。アルクラドは料理屋巡りをしたかったが、全ての店が閉まっている為、それはできない。しかし店が閉まっている原因が魔物の暴走なのだから、それを収めれば料理屋巡りをすることができる。

「うむ、往こう」

 ビッケルの嘆願など関係なく、食事の為に、アルクラドは魔物狩りに出向いていく。

「全て殺して構わぬのか?」

 他の冒険者と同じように外へ行こうとするビッケルに、アルクラドが問う。

「本当は山の環境が壊れるからよくねぇんだが、今はそんなこと言ってる場合じゃねぇ。全部殺って構わねぇ」

「分かった」

 全て殺して構わないと言うビッケルにそう言い、アルクラドは彼と反対の方向へ歩いていく。

「おいっ、アルクラド! どこ行くんだ!?」

 驚くビッケルが呼び止めるが、アルクラドは歩みを止めない。アルクラドは町の外ではなく、町の奥、岩壁へと向かっていく。

「くそっ! 嬢ちゃん、何とかアルクラドを外に連れてきてくれ、頼んだぞ!」

 アルクラドを説得している時間が惜しいと、ビッケルは町の外へ駆け出す。シャリーに、アルクラドの説得を頼んで。

「えぇっ、私ですか!?」

 そんなシャリーはアルクラドとビッケルを交互に見る。料理を引き合いに出せば、すんなりと話を聞いてくれるアルクラド。しかし、こうと決めたアルクラドの意思を覆すことは困難を極める。そんな無茶を言われてもシャリーは困ってしまうだけだった。

 しかし町の人達が困っているのを黙って見ているわけにもいかない。アルクラドの存在は、町を助ける大きな力になるのだから、シャリーは慌ててその後を追う。

「アルクラド様、魔物がいるのは町の外ですよ? どうしてこっちに?」

「外に行っては手間が多い。上から狩るのが早かろう」

 追いついたシャリーが問えば、そんな言葉が返ってきた。

「上から……?」

 アルクラドの言葉をシャリーが量りかねているうちに、岩壁の傍にやってきた。するとアルクラドは、軽い動作で跳躍し、家の屋根に上った。そして更に跳躍し、岩壁のでっぱりに足をかけた。ちょっとした段差を飛び越える様な軽さで、アルクラドは岩壁を上へ上へと昇っていく。

「うそ……」

 少しもしないうちに、アルクラドは岩壁の頂上へと到達してしまった。そこから山麓の町の、その周囲に広がる平野を見下ろす。

 冬の到来により色を失った景色が広がるだけだが、その中で戦う冒険者と魔物の姿が、アルクラドの眼にはしっかりと映っていた。

 平野に向けて手をかざすアルクラドの周囲に、膨大な魔力が渦巻いていく。

「大地よ……其を踏み荒らすは、怯え逃げたる惑い人……暴れ惑う彼奴らを、十重に二十重に縛りつけん……大地の抱擁カロンドテラ

 アルクラドの込められた魔力が解放される。アルクラドが捕捉した魔物の足元から、土の鎖が飛び出てくる。それは魔物の身体に絡みつき、その動きの一切を封じてしまった。冒険者と戦っていた魔物もそうでない魔物も、等しく鎖に縛られ地面に転がされてしまった。

「雪よ……柔く儚き其の命、凝りて硬き矢とならん……大地を荒らす者共を、穿ち貫き射殺さん……天の矢フレシュラシエル

 続けて天に手をかざしながら、渦巻く魔力を開放する。暗雲が立ち込め、ハラハラと雪が舞い落ちていく。アルクラドが手を握れば、雪が互いに重なり合い、幾つもの白い矢を形作っていく。そして手を振り下ろせば、無数の矢が大地に向けて降り注いでいく。それらは過たず、束縛され身動きの取れない魔物の身体に突き刺さっていく。

 天より降り注ぐ白き矢は、大地も冒険者も、魔物以外は何1つ傷つけることなく、魔物だけを射殺していったのである。

 その様子をシャリーは、唖然とした様子で見ていた。アルクラドが強いことは十分に知っている。強力な魔法を使うところも何度も見ている。しかしここまで大規模な魔法を見たのは、これが初めてであった。

 町を、その周囲まで覆い尽くすような余りにも強大な魔力。それを過たず魔法へと転化し、魔物を屠っていった。その様子を全て見ることができたわけではないが、途轍もない規模の魔法が使われたことは良く分かった。空を覆い尽くす暗雲を呼び出し、空を白く染め上げるほどの数の矢を作り出す。到底、単独で行使できるような魔法ではない。

 古代龍(エンシェントドラゴン)龍の吐息ブレスを防いだ時もそうであったが、アルクラドの真の実力がどれほどか、シャリーは想像するのも恐ろしくなってしまった。

 そうしてシャリーが戦々恐々としている中、外で魔物と戦っていた冒険者達は、呆然としていた。いきなり大地が魔物を縛り上げたかと思えば、空から白い矢が降り注ぎ、魔物の命を奪っていった。辺りを見回しても魔法使いは見当たらない。首を傾げながら別の魔物を探せば、そこら中に身体に穴の開いた魔物が転がっていた。

 町に迫っていたのは魔物だけではなかったが、多くの獣達は人の多い町には向かってこず、どこか平野の向こうを目指して走っていった。結局、冒険者達の多くは何もすることなく、町へと戻っていった。

 こうして呆気なく、ラゴートの危機は去ったのであった。


お読みいただきありがとうございました。

ドワーフに伝わるマジックアイテム、どんな剣が出来上がるのでしょうか?

そしてアルクラドと黒龍のやりとりや、周囲の混乱を招いたようです。

次回もよろしくお願いします。

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