表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
骨董魔族の放浪記  作者: 蟒蛇
第14章
177/189

巨龍、相対す

前話への感想、ありがとうございます!

返信できず申し訳ありませんが、すべて見させていただいています。

今話の内容を色々と想像していただいきましたが、まさかオチを当てられるとは……

ちょっと悔しいです。笑

 前方に立ちはだかる9体のドラゴン、後方から飛来するドラゴン。魔王を討つ為に魔界を目指す討伐隊は、ドラゴンの挟撃に晒されようとしていた。

 途轍もない速さで空を行く漆黒のドラゴンは、一直線に討伐隊の元へと向かっていた。見る見るうちに大きくなっていくその身体は、前方で唸る純白のドラゴンと遜色ないほどに巨大だった。

 巨大な屋敷や城と比べられるほどに大きなその体躯は、地面に降り立つだけで討伐隊に少なくない被害を与えるに充分だった。しかしその被害を免れたところで、長い尾の一振りを躱すことは難しく、それが龍の吐息ブレスとなれば回避は不可能だ。どう転んでも死を待つしかなく、討伐隊のほとんどの者は生き残ることを諦めていた。

 その時、再び討伐隊の中から魔力が放たれ、同時に大地が勢いよくせりあがった。大地に深く根を下ろした大樹の様に枝分かれしながら、土が天へと伸びていく。

 それを見咎めたからか、漆黒のドラゴンがその進路を僅かに変えた。止まり木を見つけた鳥の様に土の大樹へと向かい、その前で大きく羽ばたき制止した後、音も無くその上へと降り立った。両の手足で枝につかまり、長い尾を地面に垂らしている。

 叩きつける様な突風に晒されながらも、ドラゴンが地面に降り立ち自分達を踏み潰さなかったことに安堵を息を漏らす討伐隊だが、それも束の間、巨大な頭部がぬっと近づいてきたのだ。

 間近で見るドラゴンに身体の震えが止まらない討伐隊の面々だが、漆黒のドラゴンが彼らを食むことはなく、土の大樹の根元に視線を注いでいる。そうして鋭い牙の隙間から漏れる息と共に、言葉を紡いだ。

「……アレ等ガ貴方様ニ牙ヲ向ク愚カ者デスナ」

 低く響く声で畏まった様に言うと、漆黒のドラゴンは前方に立つ9体のドラゴンへと目を向けた。

「其方との誓いは果たした。しかし其方の制止及ばず我に牙向く者あれば、其奴は殺す」

「ソレハ致シ方無イ事デ御座イマス。煮ルナリ焼クナリ、貴方様ノ御随意ニ」

「ふむ……ドラゴンは食した事が無かったな。美味であるか?」

「ソレハ分カリカネマス。我等ハ同族ヲ食ミマセンノデ……」

 ドラゴンが人族の言葉を話したことに驚くのも忘れ、討伐隊は黒龍の独り言の様な言葉に耳を傾けていた。自分よりも上位の者と話している様な口振りだが、その相手の声が小さい為、討伐隊のほとんどの者にはドラゴンの声だけしか聞こえていなかったのだ。

 その声が聞こえたのは、ライカとロザリーを含めた僅か数名のみ。そして彼らは漆黒のドラゴンと話すアルクラドを見て、とても驚いていた。ドラゴンが他者にかしずくなど、聞いたこともなかったからだ。

 アルクラドであれば何をやっても不思議ではない、と思っているライカ達ですらその驚きは非常に大きかった。またアルクラドが黒龍を喚んだことなど知る由もない彼らであるが、後になってそれを知り、更に驚くのであった。


 討伐隊に向かってドラゴンがやってくるのをいち早く察知したアルクラドは、あることを考えていた。黒龍を喚ぶかどうか、である。

 自身に牙を向くドラゴンがいれば、黒龍に報せる。そう約束したアルクラドであったが、まだやってくるドラゴンに敵意があるのかが分からなかった。だがドラゴンの魔力が穏やかなものではない、とは感じていた。そしてドラゴンが討伐隊の前に立ちはだかり、その敵意が明らかになった時、アルクラドは漆黒の剣に魔力を込めた。そして黒龍を喚び寄せたのであった。

「先ズハ話ヲ付ケテ参リマス。少シハ物ノ分カリソウナ者モ居リマス故」

 アルクラドと黒龍の約束など知る由もない討伐隊の面々は、そう言う黒龍の姿をただ見つめていた。

 黒龍は土の大樹から飛び立ち、討伐隊の前へと降り立った。それは純白のドラゴンと討伐隊の間であり、白と黒のドラゴンが相対する形となった。

 2体のドラゴンは鱗の色は違えど、身体の大きさ、そして感じる威圧感に差はなかった。共に古代龍エンシェントドラゴンであり、最強と呼ばれるドラゴンの中でも更に強い無敵の存在なのである。

 そんな2体の間に流れる空気は、穏やかなものではなかった。張りつめた空気の中で、互いが低く唸り声を上げている。人族には分からないドラゴン特有の方法で意思の疎通を図っているのか、2体のドラゴンが何をしているのか討伐隊の面々には分からなかった。

 しかし白龍の前に立ちはだかる黒龍は、少なくとも自分達を襲いに来たのではない。それだけはよく分かった。古代龍エンシェントドラゴン同士が戦うことで周囲にどんな被害が出るのかは分からないが、命は繋がった。そんな思いを抱きながら、討伐隊は2体のドラゴンの様子を見守っていた。

「ア、アルクラド……あ、あれは……」

 そんな中、ライカが戸惑いがちに尋ねる。間近にドラゴンがやってきたことに、ただただ恐れ驚いていたライカだが、ドラゴンが離れたことで僅かばかりの平静を取り戻していた。そして気付いたのだ、ドラゴンがアルクラドにかしずく様に話しかけていたのを。

ドラゴンである」

「そうじゃなくてっ……!」

 ライカが聞きたかったのは、何故あんなにもドラゴンが謙ったしゃべり方をしていたのか、である。アルクラドが戦いで負ける姿など想像もつかないライカだが、まさかドラゴンまでをも退けるとは思ってもいなかったのだ。

「以前、我との戦いに敗れた故、我を恐れておる様だ」

「やっぱり、ドラゴンにも勝ったんだな……」

 遥か昔、アルクラドと黒龍の邂逅の話を聞けば、驚きと納得を半分ずつ感じるライカであった。

「あの黒いドラゴンは、私達の味方なんですか?」

「彼奴は同族の味方であろう。白龍共が我に歯向かい殺されるのを防ぐ為に来た故な」

「アルクラドさんの方が、ドラゴン9体より強いんですか……?」

「無論だ」

 9体のドラゴンと戦うなど、どう考えても勝てるはずのない戦いである。それを簡単なことだと言うアルクラドを見て、吸血鬼ヴァンパイアとは一体どんな存在なのか、とロザリーは思わずにはいられなかった。

「黒龍が白龍共を止めるなら良し、止まらぬなら我が狩るまで。往くぞ」

 アルクラドはそう言って、睨み合うドラゴン同士の行く末を見守る討伐隊の中を歩いていく。人族、魔族にかかわらず、多くの者が命を落とすのは都合が悪い。その言葉の通り、討伐隊を守る為に隊の先頭へ向かっているのだ。ただのドラゴンであっても、討伐隊に大きな打撃を与えることが出来るのだから。

 離れていったドラゴンの傍にわざわざ近づくなど恐ろしくて堪らないライカとロザリーであったが、アルクラドは2人に構うことなく歩いている。そんなアルクラドと隣を歩くシャリーの背を、2人は慌てて追うのだった。


 アルクラド達が討伐隊の先頭、睨み合うドラゴンの方へと向かっている間、2体のドラゴンに動きがあった。

 今まで低く唸り声を上げているだけだった黒と白の古代龍エンシェントドラゴンだが、黒龍が一際大きく吠えた。それに白龍が応える。

 2体の巨龍の大地を揺るがす様な咆哮。

 討伐隊の面々は身を竦ませた。見れば、白龍の後ろに控える8体のドラゴンもたじろいでいる様であった。

 黒龍が徐に歩を進めた。足を踏み出す度に、黒龍の身体から放たれる魔力とドラゴンの威が増していった。それらが周囲を満たし、虫や鳥の声は失せ、風さえも息をひそめる様に凪いでいた。

 両者の距離が、ドラゴンの足で10歩ほどにまで縮まった。2体のドラゴンはゆっくりと翼を広げ、手足で大地をしっかりと踏みしめ、長い尾を空に向けて伸ばしている。

 僅かに動きを止めた次の瞬間、大地が揺れ、空気が震えた。

 巨龍の爪が大地を抉り、その大きな身体を前方へと弾き出した。轟音を響かせて肩からぶつかった両者は、そのまま首を振り上げる。頭部同士がぶつかり、生物から鳴るとは思えぬほど硬質的な音が重く響いた。

 首を振った勢いのまま黒龍は左の腕を振り上げ、鋭い爪を白龍目がけて振り下ろした。白龍はその腕に噛み付き、黒龍を引き倒そうと首を後ろに引いた。体勢を崩した黒龍は、倒れる寸前に高く上げた尾を白龍の首に勢いよく振り下ろした。

 黒龍は引きずり倒され、白龍は頭部を地面に叩きつけられた。

 大地を揺るがし地を舐めた巨龍は共に、すぐさま身体を起こし大地を駆けた。白龍が黒龍を追う形となり、その背中に向かって飛びかかった。黒龍は一段と低く身体を沈め、迫る白龍を翼で強かに打ち付けた。

 白龍は前方に弾かれ、しかし倒れることなく大地を強く蹴り、空へと飛び上がった。黒龍もすぐさまその後を追い、空へと舞い上がる。

 大地に落ちる巨大な影。螺旋を描きながら高く高く天へと昇っていく2体の巨龍は、一定の距離を保ちながら旋回を続けている。そしてある高さまで昇ると、両者はゆっくりと翼を羽ばたかせながら宙の一所に留まった。

 睨み合う2体の古代龍エンシェントドラゴン

 空で、膨大な魔力が膨れ上がっていく。その余りにも濃密な魔力は、揺らめく青い炎となって巨龍の口の端から漏れ出ている。

 羽ばたきを止め、翼を広げ、胸を反らせる黒龍と白龍。一瞬の静止の後、前方に突き出した口を大きく開いた。

 龍の吐息ブレス

 口内に集めた魔力をただ相手にぶつけるだけの単純な攻撃。しかしドラゴンの持つ膨大な魔力を以てすれば、それが必殺の攻撃となる。1度に広範囲を蹂躙する攻撃は、防ぐことも逃れることも出来ない、全てに死をもたらすドラゴンの象徴であった。

 そして今それを放つのは、ただでさえ強力なドラゴンよりも更に大きな力を持った古代龍エンシェントドラゴン。1つの町を滅ぼすどころか、大地の地形さえも変えてしまうほどの龍の吐息ブレスが、宙でぶつかりあった。

 せめぎ合う澄んだ青の奔流。両者の龍の吐息ブレスは互いに押すことも押されることもなく、ぶつかり合う魔力が青の飛沫を散らせている。

 しかしそれも僅かの間のこと。

 青の奔流の混じる中心で、2つの魔力が溶け合い、次の瞬間、弾けた。

 弾けた魔力は周囲に衝撃を撒き散らし、それは龍の吐息ブレスを放った2体の巨龍にまで及んだ。

 宙で留まっていた2体の巨龍は共に衝撃に煽られ、しかし黒龍が一足先に体勢を立て直し、大きく翼を羽ばたかせて、白龍に向かって突撃した。そして鋭い爪で白龍の胸を切り裂き、その勢いのまま長い尾を振り下ろし、叩き落とした。

 懸命に翼を動かす白龍だが落下の勢いは衰えず、地面に激突。間を置かずして着地した黒龍が、白龍の頭部を押さえつけ、その喉元に牙を突き付けた。

 唸る2体の巨龍。しかし白龍はもがくことも暴れることもせず、また黒龍も鋭い牙を白龍の首に突き立てることは無かった。

 ほとんど身動きをせず、ただじっと互いに睨み合っている2体の巨龍。その周りの大地は抉れ、砕かれた岩石が散らばり、土埃が舞い上がり、濃密な魔力の残滓が漂っている。

 1刻の1分にも満たない時間で行われた、古代龍エンシェントドラゴン同士の戦いは、黒龍の勝利という形で終わったのであった。

 その勝利は、討伐隊の目にも明らかであった。そして恐らくは自分達の味方であろう黒龍の勝利に、彼らはホッと胸を撫で下ろし、またドラゴンの助力を得られた奇跡に感謝していた。

 命は助かった、これで魔界へと向かうことが出来る。

 討伐隊がそう思ったのも束の間。白龍の後ろで控えていた8体のうちの1体、赤い鱗を持つドラゴンが、突如咆哮を上げた。

 再び身を竦ませる討伐隊の面々。

 白龍が吠える。

 一瞬の躊躇いを見せる、赤龍。だが再び咆哮を上げるや否や、討伐隊に向かって飛び出した。

 悲鳴を上げる討伐隊の面々、死を覚悟して魔力を纏うヴァイスやバックシルバ、焦りの表情を浮かべながら魔力を巡らせるエピス。

 再び迫りくる脅威に何とか対応しようとするエピスをはじめとした優れた戦士達。しかし何をするにも、もう遅すぎた。赤龍はすでに間近に迫り、強力な魔法を使うにも、ドラゴンに対応する陣形を組むにも、ただ逃げるにも、何をするにも時間が足りなかった。

 故にこの場にいる者全員が、その言葉を聞き逃した。翼の羽ばたきと、悲鳴に紛れた小さな呟きを。

「喜べ、今宵の食事である」

 赤龍の突撃に備え地面に伏せていた討伐隊が顔を上げた時、その目に映ったのは、首を無くし地面に横たわる赤龍の姿であった。

 何が何だか分からぬまま、討伐隊は2度目の窮地を脱したのであった。

お読みいただきありがとうございます。

黒龍さん、やっと本来の理由で喚んでもらいましたね。

古代龍同士の話し合いは決裂、しかし拳で語り合って、何とか話はつきました。

しかし1体やんちゃ坊主がいた様で、天へと召されてしまいました。

残った身体は……?

次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
~~~『骨董魔族の放浪記~蘇った吸血鬼、自由気ままに旅に出る』~~~ ~~~「kadokawa ドラゴンノベルス」様より好評発売中です!!~~~
表紙絵
皆さま、ぜひよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
古龍と聖剣付き聖女ちゃんだとやっぱ聖女ちゃんのが強いんかな? でも龍は負けてほしくないな
[良い点] きょうのごはんはドラゴンのキャバヤキかー
[良い点] 遂に来たー!ドラゴンステーキ!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ