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骨董魔族の放浪記  作者: 蟒蛇
第12章
157/189

遺跡の最奥

 アルクラドの魔法や魔力を用いた攻撃を、その魔力を吸い取ることで軽減させ、身体が傷ついてもすぐに再生する鋼の巨人。それから距離を置き、考える素振りを見せるアルクラド。その様子をシャリーはやや不安げに見つめている。

 アルクラドは巨人の間合いの外にいる為、巨人は攻撃を仕掛けてこない。敵の攻撃に煩わされることなく考えられるが、その間も魔力は奪われ続けている。敵に再生する力の源を与えている様なもので、相手を倒す方策が見つからなければ自身の首を絞めているのと同じだった。

 アルクラドはふと、自分の身体を見下ろす。

 今も魔力が身体から抜け出ていた。巨大な湖から1滴の水を取る程度の、アルクラドにとっては極々僅かな量の魔力が。

 余りに僅かで奪われようが奪われまいがどちらでも構わない量であるが、奪われていることは確かだ。

 アルクラドはいつもより意識的に、身体に魔力を巡らせた。努めてゆっくりと呼吸をする様に、魔力の巡りに意識を向ける。少しも身体の外に漏らすまい、と。

 もうアルクラドの身体から、魔力が抜け出ることはなくなった。

「ふむ」

 アルクラドは小さく頷き、再び龍鱗の剣に魔力を込め、紅く昏い刃を生み出した。そして再び鋼の巨人の元へと歩いていく。

 巨人の核に近づくにつれて急速に形を崩した魔力の刃であるが、その腕を切る分には刃としての役割を充分に果たしていた。それで再び巨人の長短2対の腕を切ろうというのだ。

 アルクラドが間合いに入ると、巨人は再び薙ぎ払う様にして長腕を振るった。単調な攻撃ではあるが、速く、広く、そして重い攻撃はそれだけで脅威だ。

 間合いを読み違えれば大きな被害を受け、また下手な回避をすれば残りの腕の餌食となってしまう。

 しかしアルクラドには関係のないことで、無造作に距離を詰め、自身の間合いに腕が迫ると、その腕を幾つもの輪切りにする。

 歩を進め、頭上から振り下ろされるもう1つの長腕も同様に切り捨てる。

 そして更に歩を進め、掴みかかろうとしてくる両の短腕を切り刻み、背後から迫っていた長腕の先を振り向きもせずに払い除ける。

「凍れ……」

 そして更に1歩踏み出すと同時に、切り捨てた巨人の腕を、硬い氷の中に閉じ込めた。

 青く光りながら再生を試みる巨人だが、腕が氷から抜け出せない。魔力を吸おうとも破壊を試みようとも、アルクラドの生み出した氷は砕けない。

 いつまでも光を放つ鋼の巨人だが、その腕は元に戻らない。

 その間にもアルクラドは、両者の距離を詰める。そして未だ光る巨人の身体に、手のひらで触れた。

「他の魔力を奪っていたのだ。自らが奪われようと文句はあるまいな」

 語りかける様に小さく呟いたアルクラド。その途端、鋼の巨人が放っていた光の輝きが、急激に減じた。

 巨人から感じていた強大な魔力が、急激な勢いで失せていた。

 再生を諦め、新たな腕を造り、アルクラドを何とかしようとする巨人だが、思う様に腕は生まれない。もがく様なその動きも鈍くなっていた。滑らかだった動きはなくなり、軋む様な音が全身から聞こえている。ぎこちない動きは更に鈍くなり、もはやほとんど動けない状態となっていた。

 それでも、青い光を明滅させ、酷く身体を軋ませながら、鋼の巨人はアルクラドを排除しようとする。しかしそれは叶わない。

 硬く巨大な身体の中に込められていた魔力はほとんどなくなり、光は風前の灯火の如く弱々しくなっていた。

 鋼の巨人は、長きに亘る守護者の役割の、その終わりを迎えようとしていた。

「もう動けまいが、甦られても面倒だ。その魔力、全て貰おう」

 動きを止め、仄かな光を湛えるだけの像となった鋼の巨人に、アルクラドは言う。

 魔力を吸い取られる広間の中にあって、逆に鋼の巨人から魔力を奪い取っていたアルクラド。巨人の身体に、そしてその再生を司る核に込められていた魔力を、アルクラドは欠片も残すつもりはなかった。

 徹底的に魔力を奪うアルクラド。

 巨人の身体には既に魔力はなく、広間を覆う床や壁の金属からも魔力が失われていった。

 巨人の光が止み、広間を照らしていた青白い光も小さくなっていく。

「終わりだ」

 徐々に闇に包まれていく広間。

 全ての光が消え失せた時、アルクラドがひと言呟いた。

 暗闇の中、鋼の巨人が、扉の守護者の任を終えたのであった。


「……光よ」

 シャリーの生み出した光が、広間全体を照らす。

 広間を照らしていた青白い光が消えると同時に、魔力が吸い取られる感覚も消えていた。先程までの様に必要以上に魔力を込めることなく、魔法を発動させることが出来た。

「魔力、吸い取ったんですね……」

「うむ」

 ただの鋼の像となり、光に照らされる巨人の骸を見て、シャリーが言う。気付けば、僅かに残っていた死霊レイスも、いつの間にかいなくなっていた。

 弱い攻撃では再生され巨人を倒せない。強い攻撃は遺跡が崩壊するかも知れないので使えない。ではどうするか。

 再生の為に魔力が必要なら、それを奪ってしまえばいい。

 何とも単純な方法であるが、アルクラドでなければ出来ない方法であった。

 魔法使いに限らず、人は皆、自身の周りに漂う魔力を、僅かであれば取り込むことが出来る。それは意識的に行っているわけではなく、自然とそうなっているのである。

 しかしそれを意識的に行う、ましてや他者の身体から強制的に奪い取るなど、たとえ高名な魔法使いであっても出来ることではないのだ。

 そんなことを、魔力が吸い取られてしまう空間の中でやってのけたアルクラドに、シャリーは驚きを隠せなかった。アルクラドであれば何をやっても不思議ではない、と思いつつも、とんでもないことを目にすると驚かずにはいられなかった。

 パラパラと、巨人の身体から金属の欠片が、剥がれる様にして落ちていく。氷の中から解き放たれた腕は既に鉄屑の様に崩れており、巨人の身体も細かな金属片へと形を変えていく。

「これが、巨人を形作っていたんですね」

 巨人の崩壊は止まらない。手のひらに収まる小さな欠片が、床に散らばっていく。

「恐らくこれが、此奴の身体の形成と再生を司っていたのであろう」

 崩れ逝く巨人の身体に、アルクラドは腕を突っ込む。抵抗なく刺さった腕をすぐに引き抜くと、その手には人の頭ほどの大きさの金属の玉があった。全く歪みのない玉の表面には、広間の床や壁と同じ、文字や模様の様なものが隙間なく刻まれていた。

「全ての魔力がこの核に流れ、また此奴の身体や腕へと流れておった。故にその魔力を奪ったのである」

 アルクラドの予想通り、核の魔力を全て奪うと巨人は動かなくなった。魔力を奪っている間、広間から核へと絶えず魔力が流れていたが、アルクラドはそれも全て吸い取ってしまった。そして核の魔力が枯渇し、巨人はその身体さえ保てなくなったのである。

「アルクラド様じゃなかったら、倒せなかったかも知れませんね」

「此奴の動き自体は鈍い。加えて再生には魔力を必要とする故、再生が出来ぬまで壊し続けておっても、そう時は掛からなかったであろう」

 アルクラドの言う通り、再生が無限に続きはしない。

 シャリーも、巨人が身体を再生する時の、強い魔力を感じていた。再生にはそれ相応の魔力が必要なのだろうが、巨人の持つ魔力が大きく減ったとは感じられなかった。

 巨人の魔力は膨大でシャリーの持つものよりも多い。それからすれば1度の再生で消費する魔力は、大した量ではなかった。腕を全て溶かした時でそうなのだから、相当な数の再生をさせなければ、巨人の魔力を空にすることは出来ないだろう。

 アルクラドであれば半刻もかからず、巨人を破壊し尽くすことが出来るだろうが、他の者ではそうはいかない。数刻か半日、あるいは1日かそれ以上、戦い続ける必要があるだろう。それも魔力を吸い取られる空間の中で。

 改めてこの遺跡の凶悪さを感じると共に、奥に眠るものへの興味が湧くのであった。

「守護者は退けた。奥へ往くぞ」

「はい」

 通過点であるこの広間にいつまでも居続ける意味はない。鋼の巨人が護っていた扉の向こうへ、と2人は足を踏み出す。

 その瞬間。

 カーンッ……

 2人の背後、広間の中央で、甲高い音が響いた。

 カンカンカンッ……

 2人が目を向けると、小さな金属の欠片が天井から落ちてきて、広間の床を叩いているのだった。

 2人は揃って視線を上へと向ける。シャリーは嫌な予感をひしひしと感じながら。

 小雨の如くパラパラと降る金属の欠片。

 改めてこの遺跡の凶悪さを感じると共に、奥に眠るものへの興味が湧いてきた。

 天井も壁も床も、広間の金属全てが小さな欠片となり、アルクラド達を押し潰さんと、雪崩の如く迫ってくるのであった。


 この遺跡の中で油断は出来ない。

 守護者の護る扉、鋼の巨人と同様に崩れた為もう扉の形をなしてはいないが、を通ると、その先には真っ直ぐな通路があった。

 大理石の様な艶のある、しかし揺れる模様のない真っ白な石でできた巨大な通路。床や壁の石材自体が光っているのか、通路は明るく照らされている。

 しかし油断は出来ない。

 この遺跡は、侵入者が安心する時を狙って、凶悪な罠を仕掛けている。この一見安全そうな通路にも、何が仕掛けてあるか分からない。

 今までの通路と様子こそ違うが、その全てに魔力が込められていることに変わりは無い。シャリーは今まで以上に恐る恐る遺跡の中を進んでいった。

 コツコツと足音を響かせながら進むアルクラドとシャリー。

 通路には、随分先にその終着点である扉があるだけで、何も無かった。侵入者を阻む罠や仕掛けは、あの巨人と広間で終わりだと思えるほどに、何も無く静かだった。

 自然体で歩くアルクラドと、極度に辺りを警戒しながら歩くシャリー。そんな様子が四半刻ほど続き、その間は何事も無く、遠くに見えていた扉の前にやってきたのである。

「……きれい」

 扉には、遠目からは分からなかったが、美しい彫刻が施されていた。遠景に山を臨み、野に種々の花が咲き乱れる様子が、克明に描かれていた。実際に見ている景色から色が抜けた様な彫刻は、罠や仕掛けの存在を忘れるほどに、見事であった。

「この先に何かが居る様であるな」

 しかしアルクラドの言葉で、シャリーはふと我に帰る。

 真っ白な扉には魔力が満ち、その先にある空間からも魔力が感じられた。その中で魔力を持った何かが動くのを、アルクラドは捉えていた。

 シャリーはその動きの気配や魔力を感じることは出来なかったが、アルクラドが居ると言った以上、そこに間違いはない。

 遺跡を造った者か新たな守護者か、あるいは別の何かか。

 アルクラドが扉を押し開けるのを見ながら、シャリーは緩んでいた気を引き締め直す。そしてアルクラドと共に扉を通った。

 扉の先には広い空間が広がっていた。

 山が1つ収まりそうなほど広い空間は、地面も壁も天井も、大地が剥き出しになっており、壁や天井の至る所でコケの様なものが生えていた。

 自然そのままの姿の、大地の穴。しかしその中央には、人の手によって造られた物が立っていた。

 通路と同じ艶のある真っ白な石材で建てられた、1棟の屋敷。2人が見てきた中で、王宮を除けば一番大きな建物であり、正面から見たその姿は堂々たるものだった。その周りには美しく刈り込まれた木々が植えられてており、見事な庭園の様を呈していた。

 その屋敷とアルクラド達の居る扉との間には、真っ白な石が敷き詰められ、1本の道となっていた。

 屋敷へと向かう為の道であろうが、その上を行く1つの影があった。人の形をしたそれは、片足がきかないのか引き摺る様にして、ぎこちなくアルクラド達のところへと向かっていた。

 アルクラド達も白い道を行き、屋敷へと向かう。

 両者の距離が縮まるにつれて、2人の元へ向かうものの姿がはっきりと見えてきた。

 古びた侍女の衣装に身を包んだ若く美しい女性。しかし擦り切れた衣服の隙間から覗くのは、人の肌ではなかった。

 白く滑らかな肌は、正しく白磁そのもので、所々に痛々しいひびが走っていた。結い上げられた美しい金糸の下の顔は、薄く微笑みを湛えたままで止まり、伏し目がちなまぶたの奥では、青い水晶が輝いていた。

「長く厳しい道のりヲ越え、ようこそおいで下さいマシタ。我ガ主に代わり、歓迎致しマス」

 若く美しい女性の姿をしたそれは、時折かすれる声でそう言って、ぎこちなくも優雅な礼をするのであった。

お読みいただきありがとうございます。

守護者との戦いは、再生できなくなるまで攻撃を! よりも乱暴な方法で決着となりました。

遺跡攻略はこれでお終い、遺跡などについて明らかにしていきます。

次回もよろしくお願いします。

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[良い点] これはあまり類を見ない攻略法。 それなのに、一番らしく効率的に見えるところが良かったです
[良い点] 長い年月を孤独に過ごしてきた壊れかけのロボットとか人工生命体とか、個人的にこういうの凄い弱いんですよねー。 遠からず活動停止しそうな雰囲気ですが、もしそうなったら凹みそうです(笑) どうい…
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