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骨董魔族の放浪記  作者: 蟒蛇
第12章
155/189

群れる石像と扉の守護者

 地下へ向かって僅かに傾斜した道を行くアルクラドとシャリー。右へ左へと曲がる遺跡の通路は、変わらず薄暗くまた罠が仕掛けられていた。

 しかし天井の落ちた広間を抜けた後、2人はほとんど罠にかかることなく遺跡を奥へと進んでいた。

 広間の罠は、落ちてくる天井をアルクラドが魔法で支え事なきを得たが、そう易々と対処できるものではなかった。自分の身を守るだけであればシャリーにも出来るかも知れないが、広間から抜けられず生き埋めになる可能性もないではなかった。

 このまま罠にかかり続けていればシャリーの身が持たないかも知れない。そう考えたアルクラドは、シャリーに言う。

「この遺跡は全体が魔力を帯びているが、その中に僅かだが確かな流れがある」

「流れ、ですか……?」

「うむ」

 何の脈絡も無しに言われた言葉にシャリーは首を傾げるが、アルクラドは構わず続ける。

「作動する罠に向かう流れがある。その流れの始まりは床の僅かな出っ張りである」

 床にある出っ張りと罠とが、魔力の流れで繋がっていると言うのである。そしてその出っ張りを踏むことが鍵となって、罠が作動するのだとも。

「つまりそれを避ければ、罠も避けられるっていうことですか?」

「恐らくは。見よ、この出っ張りから流れる魔力を」

 シャリーの問いに頷くアルクラドは、そう言って足元を指さす。

 通路に等間隔に置かれた光の間、最も暗さが際立ち、更には自身の影が落ちる場所に、掌よりも薄い僅かな出っ張りがあった。シャリーは魔法の光を近づけ、目を凝らしてやっとそれを見つけることが出来た。しかし魔力の流れをはっきりと感じることは出来なかった。

 アルクラドはまるで見えているかの様に、それを見ろと言うが、僅かな魔力の動きを感じることは本来とても難しい。特にこの遺跡の様に、全体が魔力で満たされている場所の場合は特に。

 だが目を閉じ魔力だけに集中すると、おぼろげながら、足元から壁を伝い天井へと流れる魔力を感じることが出来た。

「ここから上へ流れてますか?」

「うむ。これを踏めば、また何やら降って来るのであろう」

 そう言って出っ張りをアルクラドが跨げば、靴の音が鳴るだけで、罠は作動しなかった。

「罠を避ける方法は分かりましたけど、これは……」

 目を閉じて集中して、何とか分かる程度の魔力の流れ。そんなものを気にしながら歩いていたのでは、遅々として歩みは進まない。アルクラドは難なく見つけるが、シャリーを含め他の者ではそうはいかない。

「魔力の流れだけで無く床の出っ張りもあるのだ。見つけられぬと言う事はあるまい」

 そう言うアルクラドだが、石材の出っ張りも見つけるのはとても難しい。光と影の加減で最も見えづらい場所に仕掛けられており、また出っ張り自体もごく僅か。しかし目で見える分、魔力の流れを感じるよりは易しかった。

「私も気を付けます。けど見逃していたら教えてください」

 幸い精霊のいる場所であり、シャリーは罠の発見にも精霊の助力を借りることが出来た。しかしその精度はアルクラドの方が遥かに高い。正確に言えば見つけても精霊から正しく伝わらない可能性があるということだが、結果としてシャリーが罠を見逃すことは充分にあり得る。

「うむ」

 アルクラドは頷き、シャリーが出っ張りを跨ぐのを見て、歩き出した。そこから2人は、ほとんど罠を作動させることなく、遺跡を奥へと進んでいくのであった。


 遺跡を奥へ奥へと進んでいくアルクラドとシャリー。

 罠を避けて進む2人であるが、代わりに今度は別のものが侵入者達を亡き者にしようと襲いかかってくる様になった。

 それは石で生き物を模したもので、犬や猿、蜘蛛や甲虫など様々な生き物の姿をしていた。

 通路の脇や曲がり角に置かれたそれらは、光を捉える眼窩も臭いを捉える鼻腔も無いというのに、アルクラド達を察知し、その牙や爪で襲いかかってきたのだ。石でできた身体は硬く、形を模してはいても生き物ではない為に恐怖心は無く、アルクラド達に怯むことなく迫ってきた。

 ただ動く石像達の強さはアルクラド達を害するほども無く、2人の剣と魔法で、悉く打ち倒されていった。しかし壊され活動を止めた石像達は、しばらくすると元の形に戻り、再びアルクラド達に襲いかかってきたのだ。

 取るに足らない相手とは言え、倒したはずの敵が背後から、大量に押し寄せてきた時、シャリーは肝を冷やしたものであった。

「さすがにこれ以上は追ってきませんよね……?」

 ゴツゴツと足音を鳴らしながら迫る石像達を魔法で氷漬けにしたシャリー。バラバラにしても粉々にしても元に戻る石像であっても、氷の中に封じてしまえばもう追って来られないだろう、少なくとも氷がなくなるまでは。

「確かに氷の中からは出て来られぬであろうが、新たな石像共を生み出すやも識れぬな」

「あれが魔法的な何かなのは分かってましたけど、やっぱりこの遺跡が造ってたんですね……」

「うむ」

 アルクラドの言葉に、シャリーは嘆息気味に答える。罠とは比較にならないほどの魔力が動く石像に流れていることに、アルクラドはもちろんシャリーも気付いていた。

 遺跡の建材と同室の石の身体を持った石像達。それらが本当に遺跡から生み出されたのかは分からないが、少なくともバラバラになった石像を元に戻せるのだから、その可能性は充分あり得ることだった。

「だが大した相手では無い故、気にする必要もあるまい」

「それはそうなんですけどね……」

 アルクラドの言う通り動く石像は、大した相手ではない。硬い身体と鋭い爪牙を持とうとも、眼にも止まらぬ速さで動くわけではなく、対処は容易い。しかし石でできたその身体の為に、ただの石像と動く石像との見分けが全く付かないのだ。

 通路の脇や曲がり角に置かれている石像の傍を通る時、それが動く方だと思い身構えているとただの石像であったり、動かないと思って油断していると襲いかかってきたり。

 今も虫の形を模した石像が数体、通路の脇に置かれており、遺跡と同じ様に全体に魔力を帯びている。アルクラドが無警戒に、シャリーが注意深くその横を通り過ぎると、果たしてそれはただの石像であった。

 アルクラドはともかく、罠への警戒もあって、シャリーは気の休まる暇がなかった。

 そうして2人は更に遺跡を奥へと進んでいく。途中、アルクラドの腹時計が夕餉時を示したので、軽い食事休憩を挟み、奥へと進んでいく。

 そして地上では月が天高く輝いているであろう時刻になった頃、2人は一際大きな扉の前にやってきたのである。遺跡の入り口にあったものよりも更に大きな扉。材質は石ではなく金属なのか、青みを帯びた独特の光沢があった。

「今までと雰囲気が違いますね……」

「うむ。この先の魔力の流れも妙だ」

 2人の前にある扉は材質が違うというだけでなく、その意匠も今までの通った2つとは異なっていた。

 2人が通った石扉も簡素な意匠ではあったが、格子状の模様が浮き彫りが施されていた。その模様は左右対称であり、両開きの扉だということが誰が見ても分かるものだった。

 しかし今2人の目の前にある扉は、そんな模様など一切なく、その表面はまっ平だった。通路を仕切る2枚の板は扉と言えないこともないが、どちらかといえば壁に近い印象であった。そしてその造りの簡素さが逆に、ここを通してなるものかという、遺跡を作った者の意思を強く示していた。

 またアルクラドは、扉の先の空間へと流れていく魔力を感じていた。

 今まで罠に流れる魔力は別として、遺跡全体が魔力を帯びているものの、そこに明確な流れはなかった。しかし今、扉を含めその先の空間に向けて、魔力が流れ込んでいた。

 また僅かながら、アルクラド達の身体からも、魔力が流れ出ていた。それはシャリーにとっても微々たるもので全く支障はないが、この先に何かがあると思わせるには充分であった。

 しかし行く先に何があろうともアルクラドには関係のないこと。どんなに強大な敵がいようとも、どれだけ凶悪な罠が仕掛けられていようとも、ただ退け踏みつぶせばいいだけなのである。

 故に。

「往くぞ」

「はい」

 何の躊躇も無く、閉ざされた扉を押し開けるのであった。


 自分の背丈の何倍もある扉を軽々と押すアルクラド。大きく分厚い扉は、その重厚さとは裏腹に音も無く開き、アルクラド達をその先へと招き入れた。

 扉を通り、扉がひとりでに閉まった瞬間、アルクラドとシャリーは同種の違和感を覚えた。それはシャリーが開かずの扉に触れた時と同じものであり、魔力が吸い取られる感覚であった。

 シャリーが扉に触れた時のそれは一瞬のことだった。しかし今ここにおいては、一瞬などではない。絶えず2人の身体から魔力が出ていき、床や壁へと流れている。

「魔力、吸われてますね」

「うむ」

 扉を抜けた瞬間、特にシャリーは強く違和感を覚えたが、それにもすぐ慣れ、アルクラドと言葉を交わし、また周囲に目を配る余裕が出来ていた。

 扉を抜けた先はやはり広間で、しかしここはそれ自体が青白く光っており、広間の端から端を見渡すのには充分な明るさをしていた。

 広間の床や壁、そして天井は扉と同じ材質のもので、その表面には文字の様な、文様の様なものが刻まれている。これがただの模様なのか、それとも呪文を刻んだものなのかは分からなかったが、それよりも2人の目を引くものがあった。

 蓋のない巨大な棺。

 そしてそこから這い出る、決して棺には収まりきらない、巨人の上半身。

 物言わぬ骸の様に、地べたに身体を横たえる巨人。しかしそこに肉はない。あるのは独特の光沢を持つ、青みを帯びた金属の身体。

 大地に根ざす大樹の様に、巨人の身体は棺と一体化している。太く寸胴な身体からは、やや華奢に思える4本の腕が生えている。だが華奢と言っても太い胴体と比べればであって、腕自体は丸太を何本も束ねたほどの太さがあった。

 そんな鋼の巨人の後ろには、広間の入り口と同じ様な大きな扉があった。鋼の巨人はこの扉の守護者の役割を担っていたのだろうが、今の状態ではその役目を果たせそうにもなかった。

 しかしアルクラド達は気付いている。鋼の巨人がその役割を放棄していないことに、未だ扉の守護者であり続けていることに。

 遺跡から流れる魔力、そしてアルクラドとシャリーから流れる魔力。そのどれもが鋼の巨人に集まっているのだ。

「シャリーよ、問題は無いか?」

「はい、大丈夫です」

 戦いの気配が近くに迫ってきていた。静かな湖面が波打つ様に、巨人に集まっていた魔力が動き出したのだ。

 この広間は魔力が吸い取られる場所。魔力を用いて戦う者にとって、非常に危険な場所であった。吸い取られる魔力は、アルクラドはもちろんシャリーにとっても、大した量ではなかったが、念の為、尋ねる。

 自身の意図せぬ魔力の動きに違和感を覚えつつも、抜け出る魔力は微々たるものだと、シャリーは感じていた。たとえ数日の間この広間にいたとしても、魔力が枯渇することはなく、戦いにも支障はないと思える程度。

「直に目覚める」

 アルクラドのその言葉の通り、広間全体が僅かに揺れ、鋼の巨人が動き始めた。

 4本の腕を床に突き、ゆっくりと身体を持ち上げていく。

 長短2対の腕を大きく広げる鋼の巨人。長い腕は伸ばせば天井に届くほどで、短い腕は身体を支える様に床を押さえている。

 長い腕を覆い被せる様にして構え、扉の前に立ちはだかる鋼の巨人。その瞳の無い頭が、アルクラド達を確と捉えるのであった。

お読みいただきありがとうございます。

よくいるモンスターとは違いますが、罠の次は敵の妨害です。

が、それはあっさり退けて、次話でガーディアンとの戦いです。

次回もよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やはり過去の挑戦者の中で唯一の到達者になったのでしょうか
[一言] 吸収した魔力で動いているのかな?? 省エネ(笑)
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