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骨董魔族の放浪記  作者: 蟒蛇
第10章
128/189

王都ラテリアにて

皆さま、お待たせしました。

打鍵の指がなかなか動かず、前章からかなり時間が空いてしまいました。

間隔が空いただけの内容になっているかは分かりませんが、楽しんでいただけるように頑張っていきます。

今章もよろしくお願いします。

 天高く、どこまでも続く、澄んだ深い青。対を成す、広く続く、煌めく白銀。

 雪深く厳しい冬の、束の間の切れ間。

 一片の曇もない冬空の下を往く、2つの影。

 空から降り大地が照り返すその光の全てを吸い込んでしまう様な黒の衣装。吸い込んだ光を僅かばかり吐き出した様に、艶めく黒に身を包んだ1人の麗人。頭から手足の先に至るまで全てが艶やかな漆黒。しかし背に垂れる豊かな銀糸は眩しいほど陽光に煌めき、また衣服の隙間から僅かに覗く白磁の肌は自ずと光を放っているようであった。その眩しく輝く白銀の中で、血の溶けた深紅の瞳と唇が鮮やかな色彩を放っていた。

 男と揃いの黒の衣服を纏うは1人の少女。冬の寒さを遮る為に、瞳と髪を残し全てが黒に覆われている。穏やかな風になびく豊かな金髪は、陽光こごりて金糸を成したが如く煌めき、その中に走る1条の黒がその輝きを際立たせている。顔を覆う黒布の間からは、冬を越えた春の色と、深くも澄んだ夜の色を溶かした2つの瞳が、果てなく思える青と白銀の景色を見つめていた。

 吸血鬼ヴァンパイアの始祖アルクラドと、魔人イビルスとエルフの子シャリーである。

 ラテリア王国の王都を発ち、王国を更に南下する2人。ラテリア王国の南に位置する広大な森、そこにある獣人ビースツ達の国を目指しているのであった。


 ドール王国で魔物の侵攻を退けた後、アルクラドとシャリーはラテリア王国のミキアへと飛んで帰った。冬の薫り高いキノコであるシャプロワを使った料理を振舞ってもらうはずだったが、アルクラドはそれを食す前にドールに駆けつけた。その為まだほとんど食べておらず、少しでも早くそれらを食べたかったからである。

 言葉通り飛んで帰ったアルクラドは、その余りの帰還の速さと酷く憔悴したシャリーの様子でウッカーを驚かせつつも、彼にシャプロワ料理を要求。ウッカーは戸惑いつつも、もちろん恩人であるアルクラドに報いる為、シャプロワを分けた知人達に料理を振舞うようにお願いをした。そうしてアルクラドは5日ほど滞在し、種々のシャプロワ料理を堪能した。

 振る舞われた幾つもの料理は、香りを食べると称される冬のキノコの特徴を最大限生かす為、香りを閉じ込めるようにして調理されたものが多くあった。しかし中には細く切ったシャプロワをふんだんに振りかけるという、産地ならではの贅沢な食べ方をする料理もあり、アルクラドとシャリーは大いに腹と心を満たしたのだった。

 そうしてシャプロワ料理を堪能したアルクラド達は再びラテリアの王都へと向かった。ここでもオークキング討伐の依頼を終えた後の報酬を得ていない為である。ちなみに、移動手段として空を飛ぶことを覚えたアルクラドは空を往こうと提案したが、人に見られたらどうするのだ、とシャリーに断固拒否された。その実、空を飛ぶという恐怖の体験をもう2度としたくない、というシャリーの想いが主な理由であることは言うまでもない。

 シャリーの懇願通り地に足をつけラテリアの王都へ向かった2人は、6日後に王都へ着き、冒険者ギルドへと足を運んだ。しかしその途中、思わぬ歓待を受けることとなった。

「よう……やっと戻ってきたな、アルクラド」

 ギルドの扉の前で腕を組み足を広げて立ちはだかる1人の男。赤みがかった茶色の髪を短く刈り込み、よく鍛えこまれた肉体を持つ壮年の男性。オークキング討伐隊の隊長であり、ラテリア王国騎士団長のクライスであった。

 彼はオークの軍団を討伐し王都に帰還した後、事の顛末を国王に報告していた。その時、国王がアルクラドに興味を持ち、またその栄誉を称える為にアルクラドを王宮に招くこととなった。しかしアルクラドは既に王都に居らず、国王への謁見は中止となってしまった。

 まさかギルドの受付に言伝をし、自分に何も言わずにラテリアから出て行ってしまうとは思ってもみなかったクライス。アルクラドを探し回り、国王へ陳謝をして、と彼はてんやわんやの大忙しだった。

 その様な状況を作ったアルクラドに怒りを覚えもしたが、ドールからの呼び出しの内容を知りひとまず納得。しかしそんなことが2度と起きないよう、王都を含め各町のギルドへも、アルクラドを見つけたら報せるようにと、通達をしていたのである。

 ちなみにミキアの町においてギルド員から王都へ向かうように促されたアルクラドであるが、当然シャプロワ料理を堪能することを選択。ミキアを出発した日にちと併せて、その旨もしっかりと王都へと報告されていた。

 そうしてミキアの町からの報せからアルクラドが王都に着く日にちを計算し、クライスはその到着を待っていたのである。今度こそは逃がしてなるものか、と。

「其方、クライスと言ったな。何の用であるか?」

「何の用であるか? じゃねぇ! 俺に何も言わず王都からいなくなりやがって……」

 まるでとぼけるかの様に首を傾げるアルクラドに、クライスは声を荒げる。アルクラドを探し回り、また挙句の果てに見つからず国王に陳謝することがどれほど大変だったか分かるのか、と。

「言伝をしておいたのだ、問題あるまい」

「陛下との謁見を予定してたんだ、そういう問題じゃねぇ! まぁいい、とにかく今から王宮へ行くぞ。お前への報酬は陛下が直接、感謝のお言葉と共に賜られる」

 クライスはアルクラドの到着に合わせて、再び国王との謁見の準備を整えていた。ラテリア国王もそれを快く承諾した。本来謁見をすっぽかされるなどあってはいけないが、隣国の窮状を思えばとアルクラドを咎めはせず、再びその機会を与えたのである。

「礼は不要だ。依頼の報酬だけで良い」

「いいわけあるかっ! 陛下自らお前を招いてくださるのだ、こんな名誉なことはないぞ!」

 しかしアルクラドはいつもの様に、王宮への召集に難色を示す。それを聞き、クライスは無礼にも程があるとアルクラドを叱責する。

「……何処で報酬を得ようとも変わりはせぬか。其方と共に往くとしよう」

 が未だ報酬を受け取っていないアルクラド。ギルドで渡すように言ってもよかったが、王宮へ行くのも大した手間ではないと、クライスに付いていくことに決めた。ミキアでシャプロワ料理を堪能し、食欲がある程度満たされていなければ、断っていたかも知れないが。

「よし、行くぞ。くれぐれも失礼の無いようにな」

 アルクラドの言葉に一抹の不安を覚えつつ、ひとまず連れていくことができた、と安堵の息を漏らすクライス。彼の用意していた馬車に乗り、3人は王宮へと向かうのであった。また一波乱ありそうだ、というシャリーの不安と共に。


 王都ラテリアの王宮にて、ラテリア国王と謁見をするアルクラドとシャリー。シャリーの予想した通り、謁見は波乱と共に始まった。

 案内を務めた王国騎士団長クライスから、礼を失することがないように、と散々注意を受けたアルクラド。その言葉に大きく頷いたアルクラドだったが、国王陛下の御成りとなった際、当然の様に跪きもせず、脱帽もせず、深紅の双眸で国王を見据えていた。

 何やら感心した様な表情の国王に対し、まずアルクラドへの憤慨を見せたのはクライスであった。あれほど無礼のないようにと言っただろう、と。しかしそれ以上に憤慨して見せたのは、同席していた国の重鎮たる貴族達だった。国王が止めるのも聞かず、口々にアルクラドの無礼を罵っていた。

 その様子を見て、またかと辟易とした様子で息を吐くアルクラドとシャリー。片方は面倒臭そうに、もう片方は諦めた様に。

 しかしその中で1人、顔を青くする人物がいた。美しい黒髪を長く伸ばした、線の細い男性。王国魔法士団長のマージュ=アンジュである。この場にいるラテリア王国の者達の中で、唯一アルクラドの底知れない力を感じ取ることができる彼は、いつアルクラドが怒り出すか不安で仕方がなかった。

 その力の僅か一端を解放しただけで多くの者が泡を吹いて気絶し、またその恐怖に粗相を余儀なくされたのだ。もし怒りのままにその全てが解放されれば、国が消し飛ぶ。それを想像しただけで冷や汗がと震えが止まらず、視界が歪み明滅を繰り返していた。

「良いと言っておる」

「しかし陛下っ! たとえオークキング討伐の栄誉があろうと、この様な無礼を許してはいけませんぞ!」

 加えてアルクラドの力を理解できないお歴々が、好き放題に暴言を重ねていく。それらがマージュの不安と恐怖をどんどん大きく膨れさせていく。そして遂に限界が訪れた。

「貴様っ! 今すぐ跪き陛下にお詫っ……!!」

 突如として謁見の間を満たした濃密な魔力。アルクラドの無礼を殊更に騒ぎ立てる貴族達に向けられた魔力は、彼らの口を見事に閉じさせた。

「陛下が良いと仰せなのです。いい加減にお黙りなさい……」

 風のない部屋で、豪華な衣装と艶やかな髪をなびかせる王国魔法士団長。絶句する貴族達を見るその目は完全に据わっていた。

「マ、マージュ殿っ……こ、この様な場で、礼儀にもとりますぞ……」

「いかにも……魔力を抑えられよ……」

 突如として怒りを露わにした彼に、貴族達は諫める様に言う。マージュよりも彼らの方が位はずいぶんの上だが、戦いとなれば手も足もでない。怒りのままに魔法を放たれれば、それに対抗する術を彼らは持たない。

「お黙りなさい、と言ったのです。私が無理にでも閉じて差し上げましょうか?」

 しかしマージュは聞く耳を持たない。ひと睨みと共に、更に昂らせた魔力を貴族達にぶつける。

「っ……!!」

 貴族達は息を飲み、口をつぐんだ。それを見て息を吐くマージュは、魔力を収め国王へと向き直った。

「陛下、よろしいでしょうか?」

「……うむ」

 国王に発言の許可を求めるマージュ。貴族達と同様、彼の魔力に圧倒されていた国王は、間を置き息を整えた後、鷹揚に頷いた。

「アルクラド殿、我らの無礼をお許しください。なれど彼らも陛下の威光を減じまいとした故、どうか寛大な御心遣いを賜りたく……」

 まるで一国の主に対する様に、マージュはアルクラドに頭を垂れる。その様子に驚きつつも、ラテリア王国の者達は言葉を発することができなかった。

「其方らが我に刃を向けた訳では無い故、いかってはおらぬ。謝罪も不要である」

「感謝の念に絶えません」

 もとより貴族達の言葉を気にもしていないアルクラドの言葉に、マージュは更に深く頭を下げる。

「陛下……」

「よい、お主の言いたい事は分かっておる。アルクラドよ、ドール国王シャルル殿に聞いた通りの男であるな」

 アルクラドに頭を下げた後、国王へ向くマージュ。進言をしようとした彼を制し、国王はアルクラドに語り掛ける。ラテリア王国でのオークキングの出現。そしてドール王国での魔物軍の侵攻。それらの騒ぎを無事乗り越えた後、2国の王達は書簡によるやり取りをしていた。互いの無事を祝う形式的なやり取りではあったが、その中でアルクラドのことが話題に上がっていた。そこでドール国王は、その人となりをラテリア国王に伝えていたのである。

「まずはオークキング討伐、大儀であった。お主のおかげで国内の被害は最小限に抑えられた。礼を言う」

「礼は不要だ。受けた依頼をこなしたに過ぎぬ」

 礼を言うと僅かに頭を下げた国王に対し、礼は不要だと言い放つアルクラド。それを見て再び怒りが爆発しそうになった貴族達であるが、自分達を凝視するマージュの手前、口を開くことはなかった。

「はっはっはっ! 国王である儂にその様な口の利き方。本来は笑って済ませるものではないが、シャルル殿と、かの国の英雄が認めた男だ。加えて護国の英雄ともなれば、咎めはすまい」

 しかし国王はアルクラドの不遜な態度に苛立つこともなく、そう言って大きく笑って見せた。その様子に呆気に取られる貴族達と、国王がひとかどの人物であることに安堵するシャリー。

 こうして波乱は去り、ラテリア王国での謁見が始まったのであった。

ラテリア王国に戻ってきました。

オークキング討伐の後にチラっと登場した騎士団長と魔法士団長。

今章は獣人の国がメインになるので、冒頭だけでチラっと再登場でした。

次話ももう少しだけラテリア王国でのお話です。

次回もよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] (´・ω・`)シャリーちゃんの胃が危険
[良い点] 王様は分かってらっしゃる。 さぁ宴の用意
[一言] なんだか現実離れして王が鷹揚すぎる気がする…無礼な人物も笑って許す教育は受けていないはずだし…。王権神授説のなくなった現代でも一応総理大臣の安倍首相でも許せなさそう。
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