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骨董魔族の放浪記  作者: 蟒蛇
第2章
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護衛依頼

 中級冒険者となり7級から6級へ昇級した3人は、ギルドで依頼板を睨みながら依頼を物色していた。

 どの依頼を受けるかを決めるのはライカとロザリーだ。

 アルクラドの実力であればどの依頼も軽くこなせるが、それを基準にしてしまうとライカ達2人は足手まといにしかならない。そんなおんぶに抱っこ状態で依頼を達成しても実力は着かない。そのため自分たち2人でも何とか達成出来る依頼を選んで受けているのだ。

 そんな2人の目に留まったのは、護衛依頼だった。

 護衛依頼とはその名の通りある人物を護衛する依頼であり、町と町を行き来する商人の護衛が主な仕事である。稀に貴族などの用心の護衛依頼もあるが、それはかなり珍しい依頼である。


 依頼:商人の護衛

 詳細:フィサンの町とソミュールの町を往復する商人の護衛。片道2日。ソミュールの町で1日滞在。道中の食事は商人から提供。ソミュールの町での提供はなし。商人との面接あり。

 報酬:1人当たり銀貨15枚。


 依頼内容は以上の通りであった。

 今のところライカ達が受けている依頼の報酬は銀貨3~5枚ほど。それを3人で分けている。5日間拘束されるため1日当たり銀貨3枚の報酬となるが、道中の食事は依頼者が用意するということで充分な条件だった。

 ソミュールの町はフィサンの南西にある町で、ちなみにフィサンが現在ライカ達がいる町の名前である。自分の住む町の名に興味のなかったアルクラドは、この時初めて知ったのである。

「この依頼、受けてみようぜ」

 ライカの言葉にロザリーが頷く。アルクラドも、もとより依頼の内容に興味はないため、頷き、3人は受付へと向かう。

「この依頼、受けるよ」

 依頼票を受付に出し、同時にギルドカードも提示する。

「護衛依頼ですね、承知しました。

 皆さんは護衛依頼は初めてですね? いくつか注意点がありますのでご説明します。

 まず護衛依頼では、依頼主との面接があります。

 その面接で依頼主が貴方達を雇うと決めれば、依頼を受けたことになります。もし依頼主が貴方達を雇わないと言えばこの依頼は受けられません。もちろん依頼失敗にはなりません。

 次に護衛依頼は殆どの場合、他の冒険者と合同で受けることになります。

 依頼主が希望する人数になるよう冒険者を集めますので、必然的に他の冒険者と一緒に行動することになります。冒険者同士の不和は依頼主への不利益に繋がります。協調性に欠く行動は慎むよう努めてください。

 最後に護衛依頼では人を殺す必要性が出てきます。

 護衛依頼では魔物や盗賊から商人を守ります。魔物の討伐は殆どの冒険者が経験していますが、盗賊の討伐、つまり人殺しを経験している冒険者はあまりいません。特に中級冒険者では、中級になって初めて、という人が殆どです。人を殺す覚悟。それが必要だということを覚えておいてください。

 注意事項は以上です。

 依頼主との面接は、本日の夜、ギルドの酒場で行われます。陽が沈んだ頃に依頼主が来られますので、遅れないようにお願いします」

 説明を聞き終え受付から離れると、ロザリーが不安そうに呟く。

「人殺しだって……私達に出来るかな?」

「大丈夫だろ。相手は人に悪さしてる盗賊だ。そんなの魔物と一緒だよ」

 不安げなロザリーに対してライカは楽観的だ。彼も人殺しの経験はないが、悪党相手であれば魔物と同じ様に殺せると考えていた。

 アルクラドはつい最近、蘇った時に、2人の命を奪っており忌避感はないが、人殺しが人族の法においてどのように扱われるか、そこに不安を覚えていた。その後、盗賊は殺しても大丈夫だと聞き安心した。

「依頼を受けられるかは依頼主と話してみないと分からないんだよな? 夜までどうする? 簡単な依頼でも受けるか?」

 現在は昼前。面接がある夜までまだまだ時間はある。

「一応依頼の準備をした方がいいんじゃないかな? ご飯とか用意してくれてるみたいだけど何が起こるかは分からないし」

 食事の提供ありと依頼票には書かれていたが、どんな食事がどれだけなのかは書かれていなかった。また寝床についても書かれておらず、依頼主がテントなどを用意するのかは分からなかった。

 そうロザリーから聞かされると、特に準備の必要はないと思っていたライカは不安になってくる。アルクラドも依頼票の内容を信じていたため、ロザリーの言葉には少なからず驚いていた。

「依頼票に食事は提供するとあるのだ。依頼主が食事を用意せぬ事があるのか?」

「用意はしていると思います。けど、パン1個でも干し肉1つでも食事を用意したことになります。ケチな商人にはそういう人もいるって聞いたことがあります」

 道中の護衛への支払いは商人の儲けに関わってくる。護衛は商品や命を守る必要経費だが、そこを削り少しでも儲けを増やそうとする商人は確かにいる。

 嘘はつかない。けれど本当のことも言わない。

 そうやって自分に有利な条件で護衛を雇う者もいるのである。

「何とも面倒な事だ……」

 言葉の裏に隠された真意を読まなければならない。そんなことをしなければならないのか、とアルクラドは辟易とする。

 魔族はそんな回りくどいことはしない。自分の意志は素直にぶつける。それが通らなければ、最終的には暴力で押し通す。野蛮であるが単純明快。そのため人間ヒューマスのやり方は余計に面倒に感じてしまう。

「とにかく依頼の準備をしましょう。自分たちだけで5日間の依頼をやるつもりで」

 ロザリーの言葉に従い、道中、特に野宿で必要とされるであろう物の調達を始める3人であった。


 護衛依頼で必要と思われるものの調達を終えたライカ達3人は、面接の時間となったためギルド併設の酒場へとやってきていた。

 依頼の準備は、町でしか手に入らない調味料の類いを除いて、町の外で自分達で調達することにした。いくら野宿とはいえ味気ない干し肉だけなどいやだったため、せめて美味しい肉で干し肉を作ろうということになった。

 狙うはホウロ鳥。アルクラドもその味の虜であり、必ず狩ってくると息巻いていた。

 ホウロ鳥の狩場に行くまでの間、ライカは魔力操作、ロザリーは無詠唱魔法の訓練をしている。

 ライカも随分上達し、歩きながらであれば手や足に集めることが出来るようになっていた。全身を覆うことはまで出来ていないが、手足に魔力を集中させることで部分的な魔力強化にはなるため、現在戦闘中に使えるように訓練中である。

 ロザリーも戦闘で使える威力の高い魔法を、すぐに使えるように訓練中である。しかしまだ上手くはいかず、発動までに時間がかかったり、すぐに発動しても生活魔法程度の威力しか出せずにいた。

 そうやって訓練をしつつ食料の調達を行い、夜までの時間を過ごしていた。

 酒場は大勢の冒険者で賑わっていた。

 駆け出しから経験豊富な中級冒険者までおり、パーティーや友人達と酒を酌み交わし騒いでいる。その片隅で一際身なりの良い人物とその傍らに立つ戦士の姿が目に入った。この酒場に似つかわしくない2人であり、護衛の依頼主だろうとライカ達はあたりを付け、彼らの歩み寄った。

「あんたがソミュールまでの護衛を依頼した商人か?」

 2人の視線が自分に向いたと同時にライカは気さくに話しかける。商人はともかく戦士の目はなかなかの目つきだったが、ライカは一切の物怖じをしていなかった。

「ああ、そうだ。君達は依頼を受ける冒険者か?」

 商人も穏やかな笑顔で気さくに声を返す。30を超えたくらいの年齢に見え、活動的な印象を受ける。

「ああ、そうだ。俺は6級冒険者のライカ。後ろの2人はロザリーとアルクラド。同じ6級だ。よろしくな」

「ロザリーです」

「アルクラドだ」

 ライカの挨拶に続き、ロザリーとアルクラドも名乗り、会釈をする。

「私はセイル。こっちは相棒のグレイ。まだ雇うと決めたわけではないけど、よろしく頼むよ」

 そう言ってセイルは自分の後ろに立つグレイを指差す。セイルと同じくらいの歳の、茶色の髪を短く刈り込んだ大柄な男で、身体はよく鍛えられており太く逞しい。彼は無言で頷き、鋭い目つきでライカ達を見ている。しかし敵意は感じず、人物を見極めようと観察しているのだろう。

「さて、早速本題に入ろう。

 依頼内容は、ギルドに伝えた通りだが、この町とソミュールの町を往復する間の護衛。期間はソミュールでの滞在1日を含めた5日間。食事は町での滞在を除いた4日間の分を提供する。

 以上だが、何か質問はあるかな?」

 まずは依頼内容の確認である。これを怠れば後に諍いとなることもあるため、しっかりと行わなければならない。

「少し質問があります。

 私達は護衛依頼を受けるのは初めてなのですが、食事はどれくらいの量を用意してもらっているのでしょうか? それと、町に着くまでは野宿をすることになると思いますが、その時の寝床などは用意してもらってるのでしょうか? それとも自分達で用意しなければならないのでしょうか?」

 ロザリーが、依頼を受けることにした時に感じた疑問をぶつける。セイルとグレイは少し驚いた様子を見せる。

「初めての依頼なのに、よくそこに気付いたな。

 食事の量だが最低限の量だと考えてくれ。冒険者の腹を充分に満たすほど積荷に余裕がない。

 寝床に関しても同様の理由で、私の方では用意していない。それに、野宿が珍しくない君達にとってその道具は必需品だろう。この時期であれば用意がなくとも過ごせるはずだしな。

 申し訳ないがこの条件は変えられない。もし不満があるのならば、依頼を断ってくれても構わない」

 セイルはロザリーの疑問にごまかすことなく素直に答えた。食事が少なく寝床の用意がないというのは残念ではあるが、準備はしてきている。依頼主の人柄が知れて良かった、と考えていた。

「不満はありません。食事や野宿の準備はしてきていますので」

「ほう。不測の事態に備えていたのか。まだ若く見えるが、3人はなかなか優秀なようだ」

 ロザリーの用意の良さにセイルは感心した。護衛依頼を初めて受ける冒険者の中には、依頼が始まってから待遇などで文句を言う者がいる。もちろん待遇などについて事細かに全て説明はしていないが、それを確認せず、不測の事態に備えない方が悪い、とセイルは考えている。

 そんな中でまだ若い冒険者であるロザリー達が、先を見据えて行動していることは、大変良いことだと感じていた。

「さて、グレイ。君からは何かあるかな?」

 依頼主と冒険者の間で、一通り依頼内容の確認は行われた。セイルはライカ達の人柄や能力は問題ない、と判断した。しかし彼は戦いに関してはそれほど知識を持っているわけではない。なので相棒兼護衛であるグレイに助言を求める。

「ああ、能力的に問題ないだろう。雇っていいと思うが、その前にいくつか質問がある」

 戦いで身を立てるグレイからしても3人の実力は充分だと映ったのだろう。

「まず3人のリーダーは誰だ?」

 グレイの質問にライカ達は言いよどみ、首を傾げる。今まで誰がリーダーなどと考えたことがなかったのだ。グレイもその様子で3人の考えていることが分かったようだ。

「……言い方を変える。3人の中で一番強いのは誰だ?」

 その言葉にはすぐ反応した。ライカとロザリーが同時にアルクラドを指差す。

「アルクラドだったな。護衛全体のリーダーは俺だ。俺からの指示は確実に2人に伝えてくれ。また依頼の最中、何か気付いたことがあれば小さなことでも俺に伝えてくれ」

「承知した」

 護衛依頼では複数の冒険者が合同で受けることになるが、基本的にお互いに面識はない。指揮系統をはっきりさせておくことは、とても大切なことだった。

「次に魔法を使える奴はいるか?」

 この質問はロザリーを見ながらであった。

 ロザリーの恰好からして彼女が魔法使いであることは想像に難くない。グレイは念のため彼女が魔法使いである確証を得たかったのだろう。しかし彼の予想に反して、ロザリーだけでなくアルクラドも魔法が使えると言ってきた。グレイには嬉しい誤算であった。

「剣士であるお前は、1人でどんな魔物を倒せる?」

 ロザリーとアルクラドが魔法使いであることが分かった。となれば恰好からしてライカは剣士である。そのライカの実力を確認する。

「オーク1体なら1人で倒せるぜ。あと7級の討伐依頼に出てくる魔物ならだいたい1人で行けると思う」

 ライカのその答えもまた嬉しい誤算であった。

 オークを1人で倒せる戦士は、充分一人前の実力を持っている。街道にオーク並の魔物は滅多に現れないし、オークを1人で倒せるような盗賊も滅多にいない。護衛としては充分な実力である。

「では最後に、人を殺したことはあるか?」

 ギルドでも言われた言葉。ライカ達は言いよどむ。しかしすぐに答える。

「ない」

「ありません」

「ある」

 グレイはその答えに残念さと納得の混じった表情で頷いている。またアルクラドが人殺しの経験があることに、ライカとロザリーは少なからず驚いている。

「まぁ、人を殺したことがなくても、実力としては充分だろう。護衛を頼みたいと思う。受けてくれるか?」

 人殺しの経験がないことで護衛を断られるかと思ったライカとロザリーだが、予想は外れ雇ってもらえることになった。2人は嬉しそうに頷く。

「ところで魔法使いの2人に聞くが、魔法で水を出すことは出来るか?」

 お互いの質問が終わり正式に依頼の契約を結ぶというところで、グレイが尋ねる。

「1日に1回、あの樽を満たすだけの水は出せるか?」

 そう言ってグレイが指差すのは大人1人が楽々入れる大きな樽。それを見てロザリーは考える。アルクラドとの特訓のおかげで魔力の保有量も増えてきている。しかしあの大きな樽を満たせる、と自身を持っては言えなかった。

「1日に水の魔法以外を使わなければ、ギリギリ満たせるかも知れません」

「我は可能だ」

 対してアルクラドは、全くもって余裕であった。彼の途方もない魔力があれば、樽どころか町1つを水に沈めることも出来るのだから。

「そりゃ凄い! 良かったら道中の水を2人で用意してくれねぇか? 水は重い上に嵩張るから、積荷が増えて大変なんだ」

 水は生き物が生きていく上で必要不可欠なものだ。商人、護衛の人間はもちろん、積荷を牽く馬も水が必要だ。街道の休憩場所には水場がある所もあり、また川の近くを歩き都度水を補給する手もあるが、余計に時間がかかってしまう。それが、魔法使いがいれば水の心配なく最短距離で目的地へ向かうことが出来る。魔法使いは、旅人や商人にとっては非常に有難い存在なのだ。

「私1人だと無理かも知れませんが、アルクラドさんとなら出来ると思います。大丈夫ですよね?」

「無論だ」

 魔力量さえ考えなければ、水を出すなど大した手間ではない。それにアルクラドならば魔力切れの心配もないのだから、配水係などお安いご用であった。

「分かった。それじゃあセイル、彼らを雇うということでいいか?」

「ああ、問題ない。それでは最後にもう一度依頼の確認だ。依頼内容は、道中の護衛と水の準備。食事は町の滞在を除いた4日分を提供する。報酬は1人当たり銀貨15枚だ。問題なければ、よろしく頼む」

 セイルは依頼内容をもう一度述べ、椅子から立ち上がりライカに手を差しのばす。ライカはロザリーとアルクラドに視線を向ける。2人とも頷きを返す。

「あぁ。こちらこそ、よろしく頼む」

 そう言ってセイルの手を握り返した。護衛依頼が今正式に成立した。

 ライカ達は無事依頼を受けられて安堵の表情を浮かべていた。セイルとグレイはとてもいい笑顔だった。

 

お読みいただきありがとうございます。

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次回もよろしくお願いします。

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[気になる点] 魔力が枯渇するほどの水を用意するのに 報酬の上乗せをしてもらえないし要求さえしないのですか? 魔力が無尽蔵にある? 依頼者は知らないですし本人も宣告してませんよね むしろ、やったら枯…
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