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骨董魔族の放浪記  作者: 蟒蛇
第8章
106/189

オークキング討伐作戦

 オークキング。

 オークの中でも力ある者が、永き時と戦いを経て至る高み。

 人間(ヒューマス)と比べ大柄なオークの、更に倍以上の体躯を持ち、ただのオークと違い脂肪は薄く、その下にはとてつもない膂力と魔力が秘められている。

 岩よりも頑丈なその身体に魔力を纏わせば、鉄を砕き魔法を弾き返す。決して止まることなく、生半可な魔法よりも大規模な破壊をもたらす、最強のオーク。

 かつての人魔大戦では、オークの軍勢を率い、とある国の王都に正面から突撃した。王都を守る兵士達をなぎ倒し、壁に大穴を開け、王都内に侵入。都の中を存分に蹂躙しながら、王城へと向かった。

 王城をも破壊し尽くすのかと思われたが、王都最強の守護者がオークキングの前に立ちはだかった。

 国内外にその名を轟かす戦士と魔法使いの率いる王都守護隊は、オークの軍勢と正面からぶつかった。互いが死力を尽くして戦い、次々とオークが人間(ヒューマス)が、力尽き地に伏していった。

 その剛腕で容易く人間(ヒューマス)を屠るオークキングは守護隊を苛烈に攻め立てたが、オークキングへの攻撃もまた苛烈であった。

 守護隊長を含む精鋭がオークキングを取り囲み、攻撃を捌き動きを制限する。そして隙が出来れば、鋭い槍の穂先が、身を焦がす炎の魔法が、オークキングに襲いかかった。

 オークキングは、防御も回避もしなかった。己の魔力強化を恃み、ひたすらに攻め続けた。オークキングの身体には少しずつ傷が刻まれ、浅からぬ傷からは止めどなく血が流れていた。

 しかし守護隊も無事ではなかった。オークキングの攻撃は凄まじく、防御を誤った者は叩き潰され、ある者は小石のごとく蹴り飛ばされた。攻撃を食らった者のほとんどは一撃で絶命、辛うじて息がある者も、四肢が砕け戦闘不能に陥っていた。

 長い戦いの末、オークキングはその命を散らした。守護隊長の剣がオークキングの胸に深々と突き刺さり、魔法士長の生み出した業火が全身を焼き焦がしたのだった。

 オークキング率いるオークの軍勢は、守護隊によって打ち倒された。しかし王国側の受けた被害は甚大。美しい都は破壊し尽くされ見る影も無く、おびただしい数の亡骸が死と血の臭いを撒き散らしていた。

 詩人の歌う人魔大戦の一説。

 歌に聞くオークキングの厄災が、再び人間(ヒューマス)に降りかかろうとしていた。


 オークキングの足跡が発見されたという情報は、すぐに王都へ伝えられた。

 オーク達の足取りが掴めたことは喜ばしいことだが、同時に焦りと不安をもたらした。その一番の要因は、未だ王都に戦力が集まりきっていないことであった。

 各町からどのような人物が討伐に参加したかが知らされており、まだ王都にやってきていない者が数名いた。国内に名を轟かせた剣士や異名持ちの冒険者、そしてオークロードを倒した者などである。彼らの存在はこの討伐作戦において重要な戦力となる。可能であれば彼らの到着を待ち、討伐へと向かいたかった。

 しかしそんな悠長なことは言っていられなかった。

 オーク達の足跡があった場所は、王都から南東に2日ほどの距離であった。オーク達の進む速度にもよるが、すぐにでも出立しなければ追いつけるかどうかも分からない距離である。オーク達を取り逃がし、その行く先で暴れられては目も当てられない。

 討伐隊はすぐさま出立することを決めた。

 戦力が集まりきっていないからと言って、決して不十分なわけではない。王国を守る騎士団と魔法士団の団長は、国内最強とも言われる剣士と魔法使いである。加えて異名を持つほどに腕の立つ冒険者のパーティーもいる。また騎士団より騎士100名、魔法士団より魔法使い50名、警備隊より兵士300名がオーク討伐へと赴く。数では僅かに劣るが、皆が日々鍛錬に勤しみ、オークキングはともかくオークには負けない戦士達である。

 苦戦は強いられるかもしれないが、負けはしない戦力であり、オークキングを必ずや打ち倒す。その想いを胸に、討伐隊は王都を出立した。

 それと同時に、オーク達が近くを通るであろう町や村に、避難の警告を出していった。討伐隊はオーク達を取り逃がすつもりはない。しかし万が一、オーク達の足が速く追いつけなかった場合に備えて、避難を呼びかけたのだ。

 加えて各ギルドに、予測されるオーク達との交戦地の場所を、後から来る討伐への参加者に伝えるように指示を出した。確実に伝えられるかは分からないが、ほとんどの冒険者は町に着けばギルドに寄る為、伝わらないことは無いだろうと考えていた。

 決戦の地は、王都北東の森林地帯、その切れ目である平野と定められた。オーク達は森に身を隠しながら進んでいるが、その平野を通らなければ北へ進むことはできない。更に東に行けば山岳地帯となるが、ここはかなり険しい山であり、いくら人目を避けているとはいえ、オーク達がここを通るとは考えられなかった。故にこの平野で、オーク達を討ち取るつもりなのであった。

 平野での戦いは数が物を言うが、大規模な魔法による戦いが効果を発揮することも事実である。先に到着し兵を展開できれば、かなり有利に戦いを進めることができる。その為にも早く戦場に着かなければならない。

 はやる気持ちを抑え、討伐隊は決戦の地への道を急ぐのであった。


 オークキングの足跡が発見された日、アルクラド達はミキアと王都のほぼ中間地点にいた。王都までおよそ3日の距離であり、討伐隊が決戦の地に定めた場所へも同じくらいの距離のところである。そのまま王都を目指せば討伐隊に加わることはできず戦いに随分遅れてしまうが、直接決戦の地を目指せば何とか間に合うかも知れない場所であった。

 2人は昨日に降った真新しい雪の上を歩き、王都を目指していた。出来るだけ早く王都に着こうと、2人は日が昇ると同時に町を出たが、その後にオーク達の足跡が発見された。その為、2人はまだその情報を得ることができなかった。

「やっぱり見つかりませんねぇ……」

 アルクラド達は、王都を目指しながらオークの軍勢を探していた。アルクラドは驚異的な視覚や聴覚、嗅覚を以て、シャリーは精霊の助けを借りて。しかしアルクラドの知覚の及ぶ範囲にオークキングはおらず、その姿を捉えることはできなかった。また精霊達もシャリーの願い通りに動いてくれるわけではなく、見当違いなものを知らせてきたり、オーク達を探しにいったままどこかへ消えてしまい、オーク達の居所を知ることはできなかった。

「やはり平野には居らぬか」

 オークロードの言葉を信じれば、オークの軍勢は人目を避けて進んでいる。となれば遮る物のない平野は人目に付く為、通ることはない。アルクラド達は街道を進んでいる為、オーク達と遭遇する可能性は限りなく皆無であった。

「やっぱり森の中を通ってるんでしょうか」

 ラテリア王国の東側で南北に伸びる山々が、アルクラド達のいる所からも見ることができた。そのほとんどが雪に覆われているが、山肌がむき出しになっているところもあり、その麓に木々が帯の様に立ち並んでいるのが見て取れた。

「恐らくそうであろう。それ以外にオーク共が身を隠す術はあるまい」

 例えば吸血鬼ヴァンパイア魔人イビルスの様に人間ヒューマスに近い魔族であれば、人に紛れながら進むこともできるかも知れない。しかしオークは何をどうしても人に紛れることなどできない。

「王都やギルドで情報を聞くのが一番早いですかね」

 オークキングを探し出す為、王都や各町から捜索隊が出されている。アルクラド達の捜索範囲はかなりのものだが、それでも限りがある。もう少し範囲が限定されていれば2人の方が早く見つけるかも知れないが、今回の場合はさすがに範囲が広すぎた。

 また現在位置から森へ行くのも、王都へ行くのもあまり時間は変わらない。であれば森へ行き自ら探すよりも、ギルドで情報を得る方が確実だと思われた。

「うむ。近くの町に寄りギルドで話を聞くとしよう」

 アルクラド達は町を出る前にギルドで話を聞いたが、オークキングに関する情報は前日と変わりはなかった。が、今この瞬間にも何か発展があるかも知れない。次の町で新たな情報が得られることを期待して、2人は先を急いだ。

 そうして宵鐘が鳴る頃に、次の町に到着した。早速ギルドへ向かったアルクラド達は、オークキングの足跡が見つかったという情報を得た。討伐隊が既に出立し、オークの軍勢との戦地を定めた場所へ行くように指示が出ていることも。

「見つかったみたいですね。すぐに向かいますか?」

「我は構わぬが、其方は休まずとも良いか?」

 疲れを知らぬアルクラドは、休息場所が外であろうが宿であろうが関係ない。しかしシャリーは屋内で眠る方が、当然疲れが取れる。

「大丈夫です。少しでしたら野営が続いても問題ありません」

 確かにベッドで眠る方が疲れが取れるシャリーであるが、もともとは山の庵で暮らしていた彼女である。外であっても十分に眠ることはでき、多少野営が続こうとも特に問題はない。

「では、このまま向かうとしよう」

「はい」

 夕刻を過ぎ、そろそろ夜になろうとする時刻であるが、アルクラド達は構わず町を出た。多くの者は危険を顧みて夜に町の外を出歩くことは滅多にしないが、2人には関係がなかった。そもそもアルクラドが居る時点で、危険などありはしない。

「オーク達の目的は何なんでしょうか? 北へ向かってもドール山脈があるだけですが……」

「判らぬ」

 戦地へ向かう道の上、シャリーはオーク達が北へ向かう理由を考えていた。ミキアの森から北へ向かっても、最終的にドール山脈に行く手を阻まれる。黒き古代龍エンシェントドラゴンの居たドラフ山や、猛毒を持つグーフが獲れる村が山のラテリア側にはあるが、ここがオーク達の目的地とも思えない。ドラフ山に龍が棲まうことも、グーフが美味であることも、伝承や人の噂でしかなく、それをオークが知りえるとも思えないからだ。

「武勲の為に龍退治、なんてしないでしょうし……」

 北の山へ向かう軍勢が、とある国の王が率いるものであれば、物語にある様な龍退治と言っても良かったかも知れない。事実、その様な筋の物語やおとぎ話は存在する。しかしオークの龍退治などついぞ聞いたことがない。

「もしかして、山を越えてドール王国へ入るつもりなんでしょうか」

 そこでふと、シャリーはセーラノや王都での魔族襲撃のことを思い出した。ドール王国へ現れた魔族は魔王の命令で動いていた。魔人イビルスのアイレンは魔物を率いてセーラノを襲い、同じく魔人イビルスのアヴェッソは策を弄し王都を掌握しようとしていた。

 今回、オーク達も魔王の命令で北の地を目指していると言う。だとすれば魔人イビルス達と同じようにドール王国が目的である可能性は十分に考えられた。

 ドール山脈のドール側は、ラテリア側より険しく切り立っており、越えることは困難を極める。しかし全ての場所がその限りではなく、王都を山側から攻めることができれば、十分すぎるほどの奇襲になる。正に背後からの不意打ちである。

「判らぬ。が、オークの王とやらも口を利くであろう。其奴とうた時に聞けば良かろう」

 シャリーの言葉を聞き、アルクラドもドール王国で起こった事件を思い出す。だが魔人イビルス達が、そしてオーク達がどんな目的で動いているかなど、どうでも良かった。今はただ、シャプロワの採れる森が荒らされないことが重要であった。

「素直に教えてくれるでしょうか?」

 オークロードは決して口を割らなかった。オークキングの居所も北進の目的も。見上げた忠誠心だと感じたが、オークキングが魔王に忠誠を誓っていれば、オークロードの様に決して喋らないのではないのか、とも思われた。

「会えば分かる」

「そうですね」

 今ここでいくら考えようとも、答えは出ない。すべてが推測でしかない以上、オークキングに会わなければその目的は分からないのだ。

 2人の会話はここで途切れ、黙々と戦地へと向かって歩き続ける。そして日が沈み夜になると、野営地を決め、残り少なくなってきた干しグーフを食べ、夜を明かした。アルクラドが火の番をし、シャリーは眠る。

 そして翌朝。

「シャリーよ、起きよ」

 まだ日が山の向こうに隠れ、薄ら青い空を僅かに赤く染める時、アルクラドの低く落ち着いた声がシャリーの耳に滑り込んできた。夢の浅瀬にいたシャリーは、すぐに目覚めた。

「おはようございます。どうしたんですか?」

「強い魔力を感じる。此方へ向かって来ておる様だ」

 アルクラドはそう言って、東を指さす。しかしその指は、オーク達との戦地よりも僅かに南に寄っている。

「強い魔力……?」

 アルクラドの指し示す方に意識を集中させるシャリーであるが、彼女には分からないほど離れているのか、魔力を感じることはできなかった。しかし精霊達がざわめくのは分かった。視線の先に、何かがいることは確かであった。

「オークキングでしょうか?」

「判らぬ。が、オークロードよりも大きな魔力だ」

 ほぼ間違いなくオークキングであった。オークロードであっても人間ヒューマスにとって十分脅威となる魔物であり、それを上回る魔物などそうはいない。現状を鑑みるにその正体はオークキング以外になく、別の魔物であればラテリア王国は更なる危機にさらされることになる。

「このまま往けば近いうちに相見えるであろう。往くぞ」

「はい」

 オークキングである確証はない。しかしその可能性は濃厚。今まで探していた相手が、自らこちらへ向かってくれているのである。これをわざわざ逃す手はない。

 アルクラド達は干しグーフを焼き、朝の食事をしっかりととった後、強い魔力を持つ何者かを目指して歩き始めた。

 そして日が昇り1刻ほどが過ぎた頃、圧倒的な覇気を放つ巨大なオーク、オークキングと相対したのであった。

お読みいただきありがとうございます。

キング登場と言いましたが、本当にちょっとでした、すみません……

次こそアルクラドとやりあいます。

次回もよろしくお願いします。

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