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骨董魔族の放浪記  作者: 蟒蛇
第8章
105/189

オークキング捜索作戦

 ミキアの町からラテリア王国内に、オークキング出現の情報がもたらされた翌日。王都から各町、各ギルドに、オークキング捜索の指示が出された。

 オーク達は隠れながら北進しているという情報から、主な捜索場所は、王国の東側に広がる森林や山岳地帯。王国内は基本的に遮るもののない平野であり、所々に点在する森もそれぞれが離れており、隠密行動に適しているとは言えない。しかし周囲の地域には、南北に伸びた長い森や、人が住むには適さない険しい山が広がっている。

 今回オークロードが発見されたミキアの森も、その森林地帯にほど近い場所であった。その為、オークの王国や北へ進む道は、その東側の地域にある。王都から出された捜索指示は、そういった推測の下であった。もちろん闇に紛れて王国中央部を通らないとも限らないので、そちらを捜索する者も用意している。しかしその数は少なく、主にはその近くの町に注意を呼び掛けている程度であった。

 それと同時に、各地でオークの異常出現がなかったかの情報も集められた。ミキアのように通常ではあり得ない数のオークが目撃された場所は、オーク達が移動した跡かも知れない。その跡と時間を照らし合わせれば、正確な道筋を辿ることも可能であると、考えていたのだ。

 また捜索指示と合わせて、オークキング討伐に向けた戦力の確保も進めていた。主にはギルドから腕利きの冒険者への依頼の指名や打診であり、討伐参加者へはラテリアの王都へ集まるようにとの指示があった。オークキングの居所は掴めていないが、相手が相手だけにまとまって戦う必要がある。その為、現在最も戦力が集中しているであろう王都に集まり、そこから討伐に向かうのである。

 ラテリア各地の猛者達が立ち上がった。金の為、名声の為、あるいは故郷を守る為、それぞれの想いを胸に、戦士達は王都を目指したのであった。


 オークキング討伐に向けて話しあった翌朝、王都ギルドからの指示がもちろんミキアのギルドにも、もたらされた。

 オーク達の進路の捜索や異常出現の報告はさておき、ミキアにおいてオークキング討伐に向かうことが出来るのはアルクラド達だけ。早速王都へ向かってもらおうと、ギルドの職員がアルクラド達の泊まる宿を尋ねる。

 居ない。

 日が昇ったばかりの時刻だというのに、2人が泊まった部屋は空だった。ウッカーを尋ねているのだろうか、とギルドの職員はウッカーの家へと向かった。

 居ない。

 アルクラド達だけでなく、ウッカーまでもが家にいなかった。

 どうしたことだ、と彼は町の中を探し回った。しかし朝鐘が鳴ったばかりの時刻に出入りできる場所など、宿かギルドくらいしかない。入れ違いになったのだろうか、と彼は急いでギルドに戻った。

 居ない。

 一体どこへ消えてしまったのか、と頭を抱えている時に、ウッカーがシャプロワ採りの名人であることを思い出した。まさかと思い森へ続く門へ行くと、案の定、3人が籠を背負って森に入ったと、見張りが教えてくれた。

 彼はすぐさまギルドへ戻り、そして知り合いの冒険者達が寝泊まりする宿へ向かい、彼らをたたき起こした。アルクラド達を森から連れ戻してもらう為に。

 冒険者達は眠たい目をこすりながら、ミキアの森へと入っていく。先日オークロード率いるオークの軍団が倒されたばかりであるが、後続がいないとも限らない。彼らは眠気を払い、周囲を警戒しながら森を進んでいく。

 そうして2刻ほど森の中を探し回り、ようやくアルクラド達を見つけることができたのであった。彼らの背負い籠は3つともが一杯になっており、町に戻る途中であった。もしまだシャプロワを採る気でいたなら、発見はもっと遅れていたかもしれなかった。


 町へ戻ったアルクラドとシャリーは、ウッカーと別れギルドへと向かった。

「王都へ?」

 ギルドに着き、アルクラド達を探し回っていたギルド職員から話を聞いたアルクラドの第一声である。

「はい、すぐに向かってください。状況はその時々で変わるでしょうけれど、オークキング討伐の戦力はまとまっていた方がいいことに変わりはないはずです」

「オークキング等、我1人で充分である」

 戦力をまとめることの必要性が分からないアルクラド。自分が討伐に参加する以上、他にどれだけ戦力があろうと結果は変わらない。討伐隊がアルクラドより先にオークキングを見つければ、先に倒す可能性はあるが、誰が倒すかの違いでしかない。むしろ他と分かれて動いた方が、捜索の範囲も広がり効率的である、とアルクラドは思った。

「戦力だけでなく、情報も全て王都に集まります。お1人で倒すにしても、相手がどこにいるかの情報を得るには、王都に居るのが一番です。向こうへはアルクラドさんが行くことを伝えていますので、後は王都ギルドで指示を仰いでください」

 アルクラドの言葉を信じていない彼は、用件だけを伝え、返事も聞かずにギルドの奥へと消えてしまった。昨晩から王都とのやりとりを含めた仕事続きで一睡もしておらず、まだ終わっていない仕事もある為、一刻も早く終わらせて眠りたかったのだ。

「行っちゃいましたね……どうしますか、アルクラド様?」

 2人が王都へ行くことに変わりはない。オークキングの件があろうとなかろうと、そもそも王都ラテリアは目的地の1つであるからだ。しかし問題は、いつ行くかである。ここがただ休息に立ち寄っただけの町であれば、今すぐ発っても何の問題もない。しかしアルクラド達は、ミキアの町でやり残したことがあるのだ。

「無論、往く。だが食事が先だ」

 ウッカーの料理上手な知人の、シャプロワ料理をまだ食べていないのである。それはウッカーの護衛および彼が友人にシャプロワを分けることに対する報酬である。しかしそうでないにしても美味しい料理を後回しにするなど、アルクラドには考えられなかった。

「そうですよね……けど早くオークキングを倒さないと襲われる人も出てくるかも知れませんし、ミキアの森にやってくるかも知れませんので、今日は少しだけにしておきませんか?」

 最初はウッカーが1人の料理上手を紹介してくれるだけであったが、今では何人もの人がアルクラドへ料理を作ることになっている。その全員の料理を食べていたら、どれだけ時間がかかるか分かったものではない。そうしているうちにオークキングが暴れて人々が傷つき、挙句の果てにミキアの森が荒らされてしまっては元も子もない。

「確かに其方の言う通りであるな。だが直に昼。昼餉を食してから往くとしよう」

 アルクラドも早くオークキングを倒した方がいいとは考えているようであるが、一刻も早く、とはならなかった。すぐに昼になるというアルクラドであるが、昼鐘が鳴るまでに後2刻ほど時間がある。ギルドとしては今すぐ王都へ向かってほしいところだが、シャプロワ料理を昼食とするアルクラドの決意は固かった。

 アルクラドはすぐにウッカーの家へと向かい、彼の料理上手の知人の料理を食べさせるように言った。アルクラドに出された指示など知らないウッカーは、知人に分けるシャプロワを持って、2人をその家へと案内した。

 結局2人が王都へ向けてミキアの町を発ったのは、ウッカーの知人宅で美味しいシャプロワ料理を堪能した後であった。


 王都のギルドでは、次々とやってくるオークの情報の処理に、ギルド職員達が追い回されていた。オークに関することはどんな些細なことでも報告させている為、王都に集められた情報の数はとんでもないことになっていた。その1つ1つを今回の件と関係があるかを精査していくのだから、人の手がいくらあっても足りなかった。

 情報は書簡という形で連絡用の鳥によって各地から集められ、それらを地域ごとに分け、オークキングに関連するものかどうかを調べていく。そして関係があると思われた情報は、それがもたらされた町や村を地図上に記していく。

 ミキアの様に通常では考えられない数のオークが現れた町や村は、他になかった。しかし例年に比べ、オーク討伐依頼を多く出した、またオーク被害の多かった町や村がいくつかあった。そしてその大部分が、森林地帯から離れている町や村が多いが、国内の東側であった。

 またそれらの起こった時間を見ると、南に行けば行くほど日にちが古くなっていき、一番古いものが王都から南東へ7日ほど下った町イーサであった。

 まだ確実とは言えないが、王都ギルドではイーサの町以南にオークの王国があり、そこからオーク達が北へ進んでいると想定。それらの町に、更に詳しいオークの情報が無いかの確認をさせた。同時に捜索の範囲を、ミキア以南イーサ以北の間へと集中させたのであった。

「ふぅ……ようやく一段落か?」

 そう呟いたのは、集められた情報を地域ごとに振り分けている男であった。朝からずっと書簡を睨み痛くなった目をこすり、ずっと座りっぱなしで固まった身体をほぐしながら言う。オーク王国の場所やオーク達の足跡に目途がついた為、作業場は一休みできそうな雰囲気になっていた。

 もちろんこれからオークキング捜索の情報が集められる。それらを統合、分析しオークキングの居所や移動の道筋を割り出さなければならない。ただそれは休憩後の自分がやることであり、とにかくひと眠りだ、と彼は大きく伸びをした。

「さてと……ん?」

 大きく息を吐き立ち上がろうとした彼の眼に、見慣れぬ印の押された書簡が目についた。通常、書簡の封蝋に押された印でそれがどこからのものか判断する訳だが、国内のギルドの印を全て把握しているはずの彼が、その書簡の印がどこのものか分からなかった。しかしすぐにそれは国内のものではなく、国外のギルド印であると気が付いた。

「せっかく休めると思ったのに……まぁ俺達じゃ見れないし、上に持っていくだけか」

 その書簡は、封印が見慣れぬものであるだけでなく、他のものよりも上質で豪華な紙が使われていた。どうみても下っ端が開けて見ていいものではなかった。その為、上役に渡し後は任せることにしたのであった。


 アルクラドがミキアの町を出発してから2日後、ラテリア東部で雪が降った。ここしばらく晴れが続いていたが、1日降り続いた雪のせいで、地面が白く塗りつぶされてしまった。

 大地が雪で覆われたことで、オークの痕跡を見つけることが困難になる。誰もがそう考えた。

 しかしそれが僥倖をもたらした。

 雪はオークの足跡を消したのではなく、逆に残したのであった。

 雪のあった翌日、ラテリア東部の森林地帯で数多くの何かが雪の上を歩いた跡が発見された。雪はメチャクチャに踏み荒らされており、足跡を残した何かが一体どれだけいるのかは分からなかった。しかしその中に1つだけ判別できるものがあった。

 踏み荒らされた雪が解けぬかるんだ土の上についた、一際大きな足跡。それはオークのものと類似しており、巨大なオークがこの場所を通った証であった。

 それは王都より2日ほど離れた場所であり、ついにオークキングの足取りが掴めたのであった。

お読みいただきありがとうございます。

ようやくオークキングが出てきます。

次回もよろしくお願いします。

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