表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

呼び声

2作品目です。よろしくお願いします!

 「千尋―! 今日からアンタも私たちと同じ高校生だね!」


 4月。新たな出会いのこの季節。桜の花びらが舞う中で俺は、、、


 「ぷはぁ! 姉さん! 学校では極力会わないで欲しいってお願い早速破らないでよ!」


 姉さんに思いっきり抱きつかれていた。


 「えー。だってぇ、せっかく同じ高校に入ってきたのに姉弟のスキンシップがないと、ねぇ? だって高校生だよ? 青春だよ? 新たな恋があるのかもよ?」


 俺を解放したがすごく不満そうに文句を言う。


 「いや待て。その理屈だと弟を抱く理由がわからない」


 「じゃあ、お姉ちゃんを抱く理由ならあるのね✩ キャー」


 「はい?」


 質問の答えどころか明後日の方向に思考が飛んでいく。意味がわからない。


 「あ、ところで真希ちゃんには会えた?」


 「いや。てか、姉さんが校門で邪魔してるからまだ教室にすらいけないんだけど」


 飯島真希は俺と姉さんと妹の昔から付き合いのある幼馴染のことだ。

 ところでさっきから周囲の視線が妙に痛い。頼むから高校デビュー初日に『1年高砂千尋、姉の高砂愛紗とまさかの恋仲!?』 みたいな噂を立てられても困る。

 贔屓目に見ても姉さんは容姿だけで言えばモテるかもしれないが、正直中身がやばい。

 よく『中の人なんていない』 と聞くが、姉さんの場合『中身なんてない』 状態だよ。全部胸に行ってんじゃないの? いや、それだと『胸以外ない』 になりそう。


 「千尋ぉ―? さっきから何ブツブツ言ってんの? また例の症状発症しちゃった?」


 「ばっ!!? し、してないし! ちょっと中身が胸なななな、何でもない! それじゃ!」


 脱兎のごとく俺は逃げ出した。

 アイツ上目使いで覗き込んだついでに胸元少し開けやがって! からかわれっぱなしじゃん俺! チクショー!


 「あーあ、行っちゃった。ま、家でも会えるし、その時また遊んであげよーっと」




 教室は俺と同じ新入生が何人もいた。基本知らない他校から来た人が多いけどその中でも数名は同じ中学のヤツもいた。その中にアイツもいた。


 「あ、ヒロ君! おはよ♪」


 声をかけてきたのは幼馴染の飯島真希だ。おさげの髪が特徴のちょっとだけ大人しい子だ。


 「真希も同じクラスだったのか」


 「んもー、クラス表届いたときちゃんと見てなかったの?」


 「いやもちろん見たし知っていたよ。ただ言ってみただけ。もう一生機会無さそうだし」


 「アニメの影響? あんまりやりすぎると前みたいになっちゃうよ?」


 「心配ありがと。高校では目立たないよう大人しくするよ」


 「ダメだよー。人生一度きりの高校生活なんだから、青春を謳歌しないと、って愛紗は言いそうだね」


 クスッと微笑んだその笑顔。天使か。


 「あー、それもう校門前で言われたわ……」


 「はや!」


 我が姉、恐るべし。真希の言動の先読みをするとは。いや偶然なんだけど。


 「あ、ねえヒロ君、この格好どお? この姿の私初めて見るよね」


 真希はその場でくるっとまわってみせる。

 スカートがふわっと浮き上がり、見え……ないが結構際どかった。

 まわったあとは後ろに手を組み前かがみでフィニッシュ!

 シンプルだが、実に可憐さを全て詰め込んだ完璧な動き。

 

 「似合ってんじゃないの?」


 だめだ、これ以上直視していたら脳が焼ききれる。悔しいがむさ苦しい男どものいる方へ視線を向けクールダウンせねば。


 「もー、目をそらして言わないでよー」


 でもありがと、と小さく付け加えたがバッチリ聞こえた。




 入学式も滞りなく進み、担任のホームルームを終え帰宅の準備をする。


 「よお千尋! 帰る前にさ、ちょっと付き合えよ!」


 もうひとりの中学校からの知り合い林健太が俺の肩に腕を回し女子

を誘ってご飯行こうと誘ってきたのである。


 「ならオマエだけでも行けばいいじゃん。なんで俺まで」


 「いいじゃんかよー。中学からの仲じゃねぇか」


 「むしろ中学からだけの仲だけどね」


 「んだよー連れねーなー。いいんだぜ? お前の中学時代の武勇伝を今この場で語っても」


 「!? いや、頼む、マジでそれやめて!」


 「んじゃ、参加ってことで」


 「わかったよ……」


 俺は力なく椅子にもたれかかる。正直今日は朝一で体力と気力を使い切っているため早く帰って休みたい。


 「ヒロ君大丈夫? なんかすごい疲れてる?」


 真希が俺のとなりに来て心配そうに聞く。


 「いや、健太にクラスの女子交えてメシ食べに行くぞって強制参加させられた。」


 「あちゃー。健太君あの話持ってきちゃったか」


 あの話。それは俺の中学時代の黒歴史だ。正直触れたくない。


 「でもクラスの子と仲良くなるきっかけだから、これはチャンスなんじゃない?」


 「チャンスなの?」


 「だってヒロ君、ほっといたら全部愛紗に持っていかれるし、自分から行動は控える宣言しちゃったし。こういうイベントはしっかり回収できるときに回収しなきゃ」


 回収したら後でちゃんと一枚絵を見れるならいいけど……


 「お、真希ちゃんも来るか?」


 健太が戻ってきた。


 「ふーん」


 女子を一人連れてきて。


 「このメンツだと北山さんだけが中学違うけど、ま、そんなの気にしないで仲良くしよーぜ」


 北山と呼ばれたその女子は今の健太の言葉に反応したが、特に気にするふうでもなかった。

 3-1状態か。北山さんと仲良くなろう会みたいだな。もちろん口には出さない。




 学校を出た俺たち四人はバスで10分走ったところにあるファミレスに来ていた。入学式は午前中で終わったため丁度昼だ。


 席に付き注文が届くまでの間自己紹介使用と健太が切り出したので、自己紹介が始まった。


 「俺は林健太だ。スポーツ全般が好きで特に走ることは得意だ。高校生活の第一目標は彼女を作ることだ。よろしく!」


 最後の一言で北山さん絶対引いた。


 「えっと、私は飯島真希です。体はあまり丈夫じゃないけど高校生活はいろんなことに挑戦してみようと思います。三年間の付き合いだけど、よろしくね」


 うんよろしく、と北山さんはなかなかの好感を示していた。

 そりゃー贔屓目に見て真希はかわいいさ。わかるわかる。


 「ヒロ君だよ次」


 真希に催促される。おっといけない。


 「あー、えーと。高砂です。動物が好きです。趣味は……読書です。よろしく」


 よし、無難に終えたぞ。安心するも水をさすやつはいるもんだ。


 「ぶっ、はははははは!! 動物が好きで読書かよ! あー、たしかにある意味ではそうなのかもな(笑)」


 こいつ……!


 「高砂? 君? 下の名前は?」


 健太を無視して北山さんは俺の下の名前を気にしていらっしゃる。正直あまり答えたくはないけど、聞かれたら答えない方がおかしい。まさかここであの名前を使うわけにもいかないし。


 「ええと、ち、千尋……です。正直、女っぽい名前であんまり好きじゃないんだよね」


 健太のように笑われるかな。笑われるだろうな。俺はそう思った。


 「千尋か。いいじゃん。いい名前じゃん」


 だけど北山さんは笑うことはせず、いい名前と肯定してくれた。

 この人いい人だ!


 「んじゃ、次はアタシね。アタシは北山深雪。アタシこんなんだから友達できるか不安だったけど、アンタたちに誘ってもらえて助かってる。これからよろしく」


 そうして全員の自己紹介が終わった。

 一言で北山深雪を表すならギャルだ。

 ――――て――――

 緩やかなウェーブの掛かった髪を左サイドでまとめたサイドテール。初日だからなのか服装こそ普通だが、要所要所でアクセサリーがちらほら。そして、多少他人がとっつきにくそうなオーラー。見た目は友達作るうえで問題なさそうだけど、まとっているオーラーが人を寄せ付けない。

 さっきの発言からして、自覚はしているみたい。

 ――た……て……――


 「? なあ、真希。なんか聞こえない?」


 「え? 周りうるさいからそれじゃない?」


 「いや、それらをかいくぐって直接心に聞こえるというか脳に聞こえるというか……」


 「ヒロ君、再発してない?」


 「なに? 千尋がまた例の症状発症させてんの? いくらなんでもここではやめとけって! ははは……あ」


 健太が俺の背中をバンバン叩くから飲もうとしていた水が口に入らずズボンを濡らす。


 「あー、ちょっとトイレ行ってドライヤーで何とかしてくる」


 俺は席を立ち、トイレへ向かった。




 ゴーーーー

 かなり無理な体勢だができなことはなかった。にしてもこのまま誰かが入ってきたら恥ずかしいな。


 ――た……けて……――


 「やっぱり何か聞こえるんだよな。それもさっきよりはっきりと。幻聴か?」


 ――死にたくない――


 「!!」


 その声はより明確に聞こえた。

 でもその聞こえた方角はトイレの個室。

 それも、ひとつだけ扉が閉まっている。


 「これ、もしかしてやばい……やつ?」


 一応すぐ警察呼べるよう構えておく。

 ゆっくりとトイレの個室を開ける。

 開けた瞬間襲われるってことはないよな?

 そこで視界に飛び込んできた光景は――


 「…………」


 一歩、また一歩と踏み出してしまう。

 それは現実離れしすぎて、しかし何故か引き寄せられる。

 バタン


 「!!」


 千尋はその世界に足を踏み込んでしまった。

 来た道を戻ろうと扉を開けるも見たことのない廊下が続いているだけ。


 「ここどこだよ……しかも夜って」


 おかしい、さっきは昼だったのに今は夜だ。

 頭が混乱して冷静になれない。

 するとどこからか笑い声が聞こえた。


 (人の声だ! よかった、ちょっと道をきこう)


 部屋を移動し笑い声のする方へ足を運ぶ。

 暗い家の中で暖炉の灯りが照り返す。千尋は笑い声の主に声を掛けようとして踏みとどまる。


 (え……なんだよこれ……)


 絨毯の上を赤く染め上げ、一人の女性が横たわっている。その胴は二つに分かれていた。

 また、暖炉の中では人の形とおぼしき物体が焼かれていた。

 咄嗟に入口の角に身を隠す。

 やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい

 脳が危険だと信号をあげる。

 千尋はその場を去ることにした。

 バキ


 (しまっ!)


 血の気が引く勢いで青ざめたが、男たちはまだ笑っているのか、こちらには気づいていない。


 (よかった……)


 九死に一生を得た気分だ。寿命結構縮んだかも……


 ――誰か助けて――


 (またあの声?)


 千尋はどうするか迷った。

 声を追ってきたらこんな訳のわからないところに飛び込んで、移動した先には死体が転がっていた。


 (また声のする方に行って同じことが繰り返されても)


 ――死にたくないよ――


 (いいや、結局は逃げてもどうなるかわからないなら、道しるべがある方に行ったほうがいいか……)




 たどり着いた先は誰かの部屋だ。家具が荒らされており、シーツはぐちゃぐちゃだ。


 ――助けて――


 声はクローゼットやベッドの隙間からではなく、床下から聞こえた気がした。

 カーペットをずらし手探りで確認すると、一箇所だけ妙な窪みを見つけた。


 (これか……?)


 窪みを押すと取っ手が浮き上がってきた。

 その取っ手を掴み、持ち上げる。


 「助けを求めていたのはキミだったのか」


 床下に隠されたのは、一人の少女だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ