2話 家出美女とスキル
コツン、コツン
石階段を歩く音が鳴り響く
「なあ、まだ降りるのか?」
「うるさい、黙ってついてこい」
さっきから話してもノリが悪いこいつはマルスというやつだ
俺がここに来てから2時間ほどが経つ
1時間ほど前にガイウスからこの世界のことを少しだが聞いた
聞いたときは全く信用ができなかったが、ガイウスの話を聞いてから部屋に向かうまでにいろいろ見えた
訓練場、書庫、厨房、よくわからない実験所
訓練所には焦げた木の人形や凍っているものもあった
書庫にはなんと書いてあるのかわからない本ばかりあった
厨房にはなんとコンロが無かった、マルスにどんな調理をしているのかと聞いたら
「焼く、煮るだ。それ以外の調理法などない」
煮る、焼く以外の調理はこの世界には無いようだ
飲み物も聞いてみたら、水、エールしかないらしい
エールは薄いビールみたいなものだった、しかもとてもぬるい
水もぬるかった
実験所にはおびただしいほどの血が壁についていた、血と嗅いだことのない薬品の匂いがした
ここまで見たらもう、異世界というものを信じるしかなかった
「着いたぞ」
階段を下りた先に木製のドアがあった
ドアには鍵がかけてありマルスが鍵を開けた
この先にあの人が居るのだろうか
ドアを開けた先には、これまでの人生で初めての景色があった
牢屋だ
テレビドラマで見たことがあるような牢屋が広がっていた
奇妙なことに、結構な量の牢屋なのにそのほとんどが空いていた
空いている割には使ったあとがみえる、最近まで使った跡もみえるから最近空いたってとこか
「いたぞ、あそこだ」
奥の方に結構な数の人を入れられるほどの広さの牢屋があり、その中に一人だけ女の人が居た
「わりいけど、俺とこの人の2人にしてもらえるか?」
「・・・いいだろう、俺はドア近くの椅子で待っていよう」
最初の間が気になるが、まあ大方怪しんでたんだろう
承認してくれてよかった
マルスが行ったのを確認し、格子越しに目の前の女の人に話しかける
「こんちは、いや、時間的にはこんばんわかな?俺の言葉が分かるなら返事してくれ」
「・・・」
女の人は俺の言葉に反応をしてこちらを見ている
「俺の名前は恭一って言うんだ。山本恭一だ、君の名前は?」
「・・・シャルロッテ」
おっ、話してくれた
とりあえずここから会話をつなげていこう
「シャルロッテねいい名前じゃん、愛称とかって何かあるの?」
「とくには」
「じゃあシャルって呼んでいいか?」
そう言うとシャルロッテは驚いた顔をした
「あれ?何かまずかった?」
「いえ、その、そのように言われたことがなかったので。そのように呼んで頂いて結構です」
よし、ここから重要だぞこの女の人シャルの心の傷を開かないようにしながら会話をしていこう
「さっきは悪かったな、汚いもの見せちまって」
「汚いもの?」
少し考えてシャルは顔を赤くしていた
シャルのことをよく観察して見たら結構な美人だと言うことに気づいた
髪は金髪で肩くらいまでの長さだ、顔は少し痩せていて疲れきっている、目は透き通るような水色だ
うーん、心の傷を開いてしまうが聞きたい
「あ~、いろいろ聞きたいんだがいいか?シャルの心の傷を開くことにもなるかもしれんが」
「いえ、だいじょうぶです」
よし、とりあえず許可はもらったぞ
そういえば少し話しやすくなってきたな、こんな時に担当直入に聞くのは気が引けるが聞きたい
「それじゃあ、早速聞きたいんだが、なんでここにいるの?」
「それは・・・」
あ、やっぱりキツイ質問だったか
「言いたくなかったら言わなくていいからな」
「いえ、だいじょうぶです」
そう言うとシャルは少し深呼吸をし落ち着いた様子になった
「実は私は、分け合って今家を飛び出しているんです」
いきなりの爆弾発言でびっくりした
「家を飛び出したのは今回が初めてではなく、何回か出ていました」
それからシャルはこれまでの経緯を話してくれた
聞いているうちにムカついてきた
シャルの経緯はこうだ
家を飛び出す
↓
調子に乗って遠くに来た
↓
初めての場所で緊張していた
↓
そこに怪しいセールスマンが登場
↓
シャルは信用してしまいホイホイ付いて行ってしまった
↓
騙されて生贄になりかけていた
↓
俺が登場して死なずにすんでここに放り込まれた←今ここ
ってところか
なるほど、キツスギィ!
俺なら発狂しているところだ
てかやっぱりここヤバイところじゃん
やべぇよ、やべぇよ
ここから逃げ出したい気がする
「お父様、お母様・・・」
やべ、泣き出しちゃった
「ここから出たい?」
「え?」
「俺もなんとなくここがきな臭く感じてたとこだからさ、一緒に出ようぜって誘い」
「いいんですか!?」
「おう、けど色々と問題があるから少しかかるがな」
「出られるならなんでもします!」
ん?今なんでもするって言ったよね?
「頼みごとは後で考えておくよ」
「ありがとうございます、ありがとうございます」
あらら、また泣いちゃった
「キョーイチ様は何か脱出に使えるスキルをお持ちなのですか?」
泣きながらシャルが聞いてきた
スキル?
なんだろうそれは
「スキル?」
「お持ちではないのですか?」
「さあ、どうだろう」
「スキルの確認は念じれは自然と出てきます」
そんなん初めて聞いたんだが
とりあえずシャルは嘘をついているような様子は無いので信じてみる
スキルと念じてみればいいんだったな
スキル:コピー、観察眼、消音、吸収
おお!何か出てきたぞ!
目の前に出て来るのではなく頭の中に出てくるような感覚だ
効果は見れるのかな?
スキル:コピー 複製、複写
観察眼 相手のスキル確認
消音 行動の音を消す
吸収 能力吸収
見えた!見えたというよりわかった感じだ
「スキルあったわ、使うにはどうすりゃいいんだ?」
「スキル名を思い浮かべれば使えるはずです」
なるほど、早速使ってみるか
シャルのスキルを確認してみるか
”観察眼”
スキル:魔法、治癒、占い
スキルをつかって相手を見ても思い浮かべるってかんじか
効果は見えるかな?
スキル:魔法 中級攻撃魔法
治癒 中級回復魔法
占い 少しの未来予知
おお、見えるじゃん
スケスケだぜ!
シャルは魔法使いってかんじか
ってか未来予知ってやべぇな
ん?これ使ってればこんなことにならなかったんじゃね?
「キョーイチ様はいくつのスキルをお持ちなのですか?」
「ん?4つあるな」
「そうなんですか!?スキルを4つ以上もって生まれる方はこの世界ではとても重宝されるのです。
私は2つしか持っていないので努力が必要です」
「努力で増えるの?」
「ええ、私のスキルは魔法と治癒です。持って生まれたスキルは魔法で、物心がついた時に治癒の勉強をして
治癒のスキルを身につけました」
おや?占いのスキルは?分かってないのか?
「俺のスキルに観察眼があるんだが」
「観察眼をお持ちなのですか!?観察眼は10万人に1人の確率で持てるスキルです!」
「そうなの?まあその観察眼でシャルのスキルを確認したら占いのスキルがあったんだが」
「え?」
シャルはきょとんとした顔になった
「え?知らなかった?」
「え?占い?まさか、そんな」
おや?様子がおかしいぞ?
「占いのスキルは観察眼以上に低い確率でもって生まれるものです・・・」
あれ?もって生まれるスキルなら元々2つあったってことだよな
なのに占いはスキル確認で見えない、なんでだろう?
何かの条件解放ってことなのかな?
「今確認してみましたが、占いスキルは持っていません」
条件解放か、占いって事は何かの占い事をすれば解放するのかな?
「じゃあ、ここから出たら色々と試してみるか」
「はい、よろしくお願いします」
「とりあえず今日はこれでもどるよ、とりあえず計画ができたら報告しに来る、でいいかな?」
「分かりました、お気お付けてください」
「了解、それじゃおやすみ、また来るよ」
「おやすみなさい」
さて、これから忙しいぞ
とりあえず、ここからの脱出を目標として色々と準備をするか
「おまたせ!」
「ZZzz・・・」
座って寝てやがる
まあ結構話込んでたからな
そうだ、こいつのスキルを確認してみるか
”観察眼”
スキル:魔法 初級攻撃魔法
しょぼ・・・
なにこいつ、これしかないの?辞めたらこの仕事?
そういやこいつここの鍵持ってたっけな、スキルのコピーっての使ってみるか
こいつ確か右のポケットにいれてたっけかな、起こさないように慎重にと
あったあった、それじゃあ早速使ってみるか
”コピー”
スキルを使ってみた
右手でもっていた鍵はなんにも変化はなかったが、左手に違和感があり手を開いてみた
開いた手の平に右手にあった鍵と同じものがあった
こんな感じで複製できるのか
スキルの確認が出来たので右手のオリジナルの鍵をマルスの右ポケットに入れて起こすか
その後マルスを起こし、遅いだのなんだの愚痴を言われながら部屋に戻ってきた
とりあえず脱出は早いほうがいいかな
遅く決行したらシャルの身に危険があるかもしれない、早くても明後日か明々後日あたりか
今少し考えて明日に備えるか、ここの連中のスキルが全くわからないから明日うろつきながら観察眼で見て回るか
そういえば俺のスキルに吸収ってのがあったが観察眼で見て吸収で能力吸収ってできるのかな?
例えば本を観察眼で確認して理解して吸収、出来るかもしれん
明日やってみるか、男は度胸、なんでもやってみるもんさ
そうと決まれば、寝るか
「おやすみ」
明日はいそがしいぞ