親愛なる悪鬼
○○
幸福とは切り取られた空間。
狭窄の中。
それを広げていけばある段階で明暗は分かれる。
幸福の周辺視を知ったならまた意味を感じる。
幸福が何に立脚しているかを。
不安に為るだろう。
何故ここは保たれているのか。
この瞬間にも崩壊してしまうのでは。
続きすぎた幸運に要らぬ心配をする。
揺り戻しが来るのでは。
○
善良な行いと誠実な性根が眩しく輝く軽やかな 。
悪意無く他意無く無知。
気付いてすらいないだろう。
押しやってしまった諸々の出来事を。
あまりに遠ざかっては知るすべも少ない。
幸福で居続けるには知らない方が良い事が多すぎる。
善良かつ幸福で居続けるには。
○
幸福の境目を知って善良で有ろうとするなら、
それまでの全てをそのまま続ける訳には行かないかも知れない。
それまで甘受してきた幸福。出来すぎた不安な光。
その維持の為に外へ何をすべきだろう。
あるいは、広げるのか範囲を。幸福の。
薄まるのを承知で、それともより濃密に為ると信じて。
幸福の範疇を拡大せしめる。
幸福とはという問いに今はこう在る事がそうだと限定する。
親子夫婦一家地域社会部署店舗企業。
利害が絡み喰い合う。人は減る。人が増える。
聞き慣れない言語が話される。見慣れない肌。嗅いだことの無い体臭。
○
憎たらしい。
きっかり善良でさらさらしている。
皺寄せがわざわざこっちでくちゃきちゃしている遠因。
誰も意図しないのに悪意を感じさせる振る舞いをする出来事。
悪意を錯覚している。無意にこうなると知った。
不在がありあり。
善良の善良な行いが何処かで時も超えて誰でも苦しめると知った。
偶然。
○
貴方は善良だった。
引き起こした事は酷い損だったけど。
比類なき善良さと誠実な態度だった。
残ったのは後悔だけだったけど。
貴方は僕には悪鬼でしかなかった。
失敗と挫折の象徴。決して折れず曲がらない。
それでも善良だった。
今でも善良だ。
これからも。
無意味に。
そう 。




