か
から。
すかすかになった倉庫の二階。窓を全開。風がきままに吹き抜ける。かつて店舗だった名残の看板も撤去された。看板があった所の方が汚れていた。ああ終わったんだな。そう思う。少しだけの動揺。一呼吸二呼吸。涙にならなかった湿りもすぐにもとどおり。
けつ。
道を歩く。するとお尻に軽い衝撃。ばすん。そして謝罪の言葉。サッカーの球を壁に蹴って弾んで見事に尻へという訳か。当たった瞬間にいらっとしたが、尻から頭へ上ったモノはそのまま、頭頂から抜け出てしまった。つまり何もなかった。止まりそうで止まらず歩いていた。律儀にあるいは球を拾うついでにやって来たのだろう人と目があった。ただの目だ。何か言おうとしたが声にならなかった。謝罪の言葉。向こうもそれ以上何も言わなかった。
尻を打たれた拍子に何やら発見したならよかったのにな。自分か、でなければ誰かが。
○
夢。
夢だ。また夢だ。師がいた。絵に描いたような。昔の自分なら喜んだろう師が。師は僕の肩と腕のつけねその境にそっと手で触れると言った。:力を抜け。
僕は痙攣した。故意に。
師は再度言った。:力を抜け。
僕は痙攣していた。変わらず。
師はもう何も言わなかった。
一。二。三。四。時間が過ぎる。
師は僕に触れたまま動かなかった。
僕は師を気にせずに痙攣していた。
僕は失望した。僕に触れる師の感触は平凡だった。眼前の師の雰囲気はありふれていた。何もわからないということもわからないか。とるにたらない存在だった。僕は失望した。自分の認識の拙さか自分の理想のちっぽけさに。
僕は師の手をそっと自分の手で除けた。
僕はその場でさっと横たわった。
横たわり言った。:力を抜いては立てない。腹なくては立てない。
僕は立ち上がった。
そして即座に師の回りにいた人々に言った。:立てると言うのは出てこい。
一人の男が前に出てきた。
僕は黙って動いた。自分の右胸を男の右胸に接触させ自分の右足を男の右足後ろに置いた。僕の右腕は男の左肩上から背へ。男の右腕も僕の左肩上から背へ。五分と五分。掛け値なし。そこからお辞儀をした。多分お互いに。男は簡単に仰け反って床へ倒れた。それでも師は何も言わなかった。僕は何も掴めなかった。ただ場を乱しただけだった。
現実でも夢でも痙攣は小さく囲われた。
まばたきのように。生まれつきのように。ごく当然のように。平凡のように。そしてその先へ進めずに。
昨日分からない事が今日分かり、今日分からない事が明日分かる。そう信じていられた時間は終わったのだ。




