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 蚊。

今年はじめて蚊。右耳の鼓膜を羽音が振るわせる。右腕をのたりと振るい蚊への返礼とした。視界に滑り出る蚊。なかなかの大きさ。うん。放置した。関わることなく。羽音はそれっきり。蚊もどこかへいった。しばらくして、霊媒の前に蚊がふわふわと飛んでいた。霊媒は蚊を潰さんと柏手を一つ打った。蚊は死ななかった。


 ○

 倉庫。

倉庫の二階で本の整理をする。換気扇のあたりから時折ぱかりと音がする。ぎいぎい。風が強いのだろう。本の整理というやってもやらなくてもいい仕事を仰せつかった僕はせっせとそれをこなす。今となっては古い漫画達を並べた。袋にいれられて乱雑に保管された漫画達を並べ、箱に入れた。


 ○


 今日も新型肺炎の流行は続いている。

救い主が現れることもなく。夕暮れには何人が罹患した。何人が死んだ。突然悪化し死んだ。情報は流れる。息苦しいかぎり。暇だな。告白でもするか。

 そりゃね。思いましたよ。痙攣を洗練しぬいたあかつきには精神の大門を抜け独立独歩、八面玲瓏、物外独立の手掛かりが得られるのではと。自由の境涯を。あと二年程で十年ですがね。見つけてから。そもそも痙攣にこれ以上がないのか、ただ自身に才覚なきゆえにわからないだけなのか。さっぱりですがね。停滞していますね。ほぼ停止といっていい。

進展がゆるゆると遅くなって行く。歳をとる。発見の喜びが遠くなって行く。歳をとる。ただ歳をとる。新しいことが、なにもなく。八面玲瓏、物外独立の境涯はどうした。何故なにもない。この程度なのか。人生を掛けて。これっぽっちの応報なのか。これではただ歳をとっただけじゃないのか。死ぬことを考える時間が増える。考えるだけだ。少しだけ。


 ○


 倉庫。

懐かしい臭いがする。何の臭いなのか。昔は、ここはこういう臭いがしていた。嫌いではないが、いい香りでもない。すこし涼しげな臭い。薬のような臭い。どんどん荷がなくなり、棚がなくなり、椅子やら化粧台やらがなくなり、ビデオも本もとっくになくなり、隙間だらけだ。しかし昨日はこんな臭いはなかった。今日の片付けは終わったのだろう誰もいない。倉庫でこそこそと一人でひっそりとして何の臭いか考えている。

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