ね
○
捩れ。
霊媒は懲りもせず話す。異界に入る際に生じる捩れの諸注意を。常人ならば上体と下体をちぎられる程の捩れを腹筋と背筋で良く耐えるようにと。人体がねじ切れる程の捻りが発生するという異界への移行。お前なら何とかなるだろうという素晴らしき教え。
僕は言った。:常人が死ぬなら僕も死ぬ。
霊媒は答えなかった。
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工作機械に飛び込む様なもの。
筋肉があるなしではどうすることも出来ない。
仮にその通りなら、上体と下体が捩りに捩れて激痛を伴いちぎれる。泣き別れだ。苦痛の内に死なねばならない。
夢の楽園にご招待というわけだ。しがらみを切り離して。まさに身も心も軽くなる。酷い話だ。ああしまった。連れて行くのは上か下かどっちなのか聞き忘れた。向こうの迂闊さを思えば足と腰を引き摺って行って連れてきたよと自慢気にしていても何ら不思議ではないのだから。
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実感。一人。
冷々として濡れたかのような感触に思わず頭へ手を伸ばした。乾いた短い毛髪が生え揃っている手触り。頭が冷えている。室温は14.4℃ さほどでもない。
実感というのは全く無ければ虚しい。欲しくなる。しかし有れば満ち足りるかと思いきやそれが次に繋がっていなければ反って虚しい。
希望があるのはどちらだったか。
冬に頭が冷えたから何になる。当たり前ではないか。頬が温かいのは羞恥ではあるまい。
行き詰まりか。しかし戻ることも出来ない。
偽りの寒さは思考の空転を弛める。冷たさに浸けられた脳は休まっているのだろうか。逃避に過ぎないのか。ただ歳をとったというだけなのか。冷たい脳脊髄液はある。皮膚が冷している。きっと。




