は
早く。
早く帰って眠れとのお達し。日付の変わる前には眠れとの事だ。来月の満月まで。夜更かしは大敵という事だろう。何に対してかは分からないが。帰れというなら帰ろう。家の寝台の上に。座を組むのは夜の方が捗るのだが仕方ない。今度から少し早めに組むとしよう。
○
前屈。
開脚し前屈する。痙攣者必須の柔軟体操。股関節はすぐに錆び付く。腿の裏もだ。ぎこぎこと可動域を復元する。痛みと共に。昔はそのうち痛みが無くなるだろうと思っていたが。十代二十代ときて三十代でも痛みとぎこちなさと共に始めている。一生こうなんだろう。そうしてぎこぎことした動きは徐々に滑らかになり床に接吻して終了。痛みに堪えた報酬が床への唇の接触。ちっとも嬉しくない。
○
月を見たかったら。
電話が鳴る。取るか。霊媒だ。そして霊媒は月を見ろと言う。僕は倉庫を出て真上のこれから満月になる殆んど満月の月を見上げた。
霊媒は言った。:見えたか。
僕は言った。:見ているよ。ぼんやりとした月だ。
月の光が滲んでいるかのようだった。電話を切った。
後日、霊媒は虹を見たと言った。満月の回りに環の虹を。
霊媒は言った。:見えたか。
僕は言った。:言った通りです。ぼんやりとした月でした。虹は見ていません。
霊媒が言うにはその虹が証なのだという。何やら僕に助勢してくれているのだそうな。その証に月に虹を掛けたのだという。
僕は言った。:月に虹が掛かるのと僕には何の関係もないですよね。
霊媒は言った。:そう言われるとそうなんだが。




