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 きていた。

生きていた。今日も何事もなく。死んでいないだけだとしても。右の目蓋の内側に吹き出物ができている。


 夢を見る。

十キロはある鉄の棒を小枝の如くもてあそぶ。そんなこと出来はしないのに。


見慣れた倉庫の触り慣れた鉄の棒。脇に抱えて歩く。諸手に持つ。先端を前後に。そうして感付く。あまりに軽い。その感触と重量の解離にこれは夢と気付く。


夢というものが足しになったことがない。情報を整理するために見るという説は本当なのだろうか。いったいぜんたい何をどう整理すればこんな夢を見るのだろう。


むなしく軽い鉄の棒を構えて静かにしていた。夢が終わるのを待ちながら。


 ○


 夕暮れの青空。

南天の白い月。見上げれば右の半月が浮かんでいる。

今日も何の成果もない。とぼとぼと右足裏にマメをつくって歩く。

松葉に耳を澄ます。葉擦れの音が聴こえないものか。試しては甲斐もなく揺れる松葉を眺めている。

置かれた柿がすっかり熟しぐずぐずとして持ち上げるに戸惑う。軟らかな柿。食べるべきか。

猫の動画を見せられる。まだ若い小さな猫の元気な様。うちの猫はずいぶん前に死んだ。死んだ猫を思いながら猫の動画を見た。


 ○


 待ち人。

風邪をひいたそうな。お大事に。電話通話を終える。

何かを待つ。待って待って待っててね。一体全体何を待っているのやら。待てど暮らせど何もない。行き止まり。どんづまり。眺めのよいよい崖の上。もはやこれまでどうしたものかとお鉢は広がり皮延びる。どうしたものか。なにもなく。


 がさりごそり。

がさりごそり音が立つ。虫の気配。涼しくなって蚊が飛んだ。

耳を済ませば耳鳴りが。無音の倉庫。冷え冷えと影が落ちる。

一度あって二度なく。空あり。白い板が眩しい。あるのかないのか。しばし待つ、音もなく。ありそうもない。いつまでも。

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