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 ん期。

天候不順。風強く。雨多く。順当な延期と相成った。満月を拝めずも已む無しか。雲厚く、晴れ間など在りそうもない。

急ぎという事もない。来月を待つ。

それらしき石の縁に柄杓もない。風の強い日の境内。

前日の一つはあった柄杓もない。雨の太い日の高台。

松の葉も揺れに揺れて。蝉の叫びも忘れた。


 ○


 寝惚け。

目が覚めて。何も分からない。ここが何処で。目覚めた自分が誰なのか。不安が包み蝕む。分からない。怖い。それでも何故かそのままでいればよい気がする。堪えていれば何とかなるように感じる。じわじわと苛まれながら静かにじっと寝具に横たわって待つのだ。それが本当になるまで。訳も分からずに。


幸いな事に今までそれはいつも本当になった。

自分が誰で、何処で目覚めたのか思い出してきた。

あの不安が終わらない時が来たら


 ○


 切っ先。

視界を通り過ぎる切っ先。刀身の輝き。流れる軌跡。どうしてそれに目を奪われずにいられようか。刃の本懐を果たそうという働きの最中にこそ実が在るというのに。手中に在り働いてこそ輝くというのに。たとえそれが只々空を切り裂くだけだとしても。吸い寄せられずにいられようか。その凝縮された重みを意識しないでいられようか。金属のみっしりとした手応えを忘れるなど、どうしてできようか。ああ、まったく刀とは働いてこそ輝く。


 てんで駄目。

刀が好き過ぎる。刀を追いかけて定まるという事がない。まるで刀に夢中。只々刀の働きだけが在る。あとは強いて言えばその手応え。抜き付けは左に寄り、切り下ろせば右に縒れ、血振りをすれば右に揺れる。目差しにいたっては縦横無尽。刀身が行くところ行くところ追いかけぬところがない。とにかく刀身しか見ない。刀身と踊り、愛で、味わう。

刀の働きとはいったい何なのか。甚だ疑問だ。


 ○

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