あ
○○
あ。
分かっている。後は呑み込むのみ。さあ、というところでどうにもまごつく。霊媒の言葉が引っ掛かる。じわじわと堆積している。霊媒の言葉が当たることなんてほとんどありはしないのに。
僕の記憶では一回だってない。
しかし、僕が記憶していないものも当然あるだろう。何故だかすっかり忘れていて、なかったかのように勘違いしているかも。もしかするとそこに在るかも。
内容はこうだ。
二十三番影を出したあかつきには、自我は肉体から抜け出し闊歩する。
肉体からの逃避。不可能に思える逃避行。独立物外の体現。
くすぐる内容だ。腹立たしい程な。懐かしい。
手を伸ばせば消え失せる幻。
それでもつい伸ばしたくなる。
○
階段。
参拝に来た。石段を上る。おや、石段に何やら黒いものが。毛虫だ。まだ生きている。石段の上で伸びたり曲がったりしている。蟻に集られながら。僕はそれを避けて上がる。憂鬱な気持ちで。生きたまま蟻に集られている虫を初めて見た。
参拝を終え、また石段へ戻って来た。まだ生きている。毛虫だ。あ。階段を一段落下した。視界から消える。石段を降りて覗きこむ。蟻は多く、素早く、大半は走り回っている。毛虫に取り付いているものはさほど多くはないか。僕は息を吸い込み。そして、勢い吹き掛けた。蟻は吹き散らされた。更に二度三度と吹き掛けた。五度を数えるとき、回りに蟻はほとんどいなくなったが、毛虫に取り付いた幾匹かは離れなかった。離れそうもない。徒労を感じた。離れよう。僕は見捨てた。毛虫だ。それにして動きが鈍い。これでは長くはないだろう。散った蟻たちも直ぐに帰ってくる。
○
腕。
小鼻と眉。上がり。二度。とんと。
額と唇。下がり。二度。とんと。
額と唇。下がりの上がり。二度。たったあん。
腕は反発し逆流し動く。手首にて二度打つ。激しく震える腕。手指は柔らかに、腕は張られ震える。
○
かえる。
めでたいものですね。蛙という言葉は。
縁起物ですね。蛙という形は。
有難いですね。蛙という影は。
よかったですね。順調に進む事は。
その言葉を発した同じ口から、父の癌の再発が告げられていなければ、もう少し気持ちよく聞いていられただろうか。
ステージは4。胃にあり、中に進んでいるかもしれない。リンパへの転移の有無は検査結果待ち。
定期検診をすり抜けていた。
○
辛い事が新しい事へ追いやった。
腕の痙攣というのは胴体の痙攣感覚を上回るのか。震動はより大きい。胴体の感覚が曖昧に感じられる。
頭部と胴体でうっすらとお膳立てをしておいて、腕だ。
手首や肘の間接がやや不安。肩も注意。
両方だとやりづらいので片方にて行う。右主体なら右。




