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 足だ。

二本の足が見える。膝を立てている。近寄ると老人が横たわっていた。路上すぐ横、マンション出入り口。事件か、事故か。しかし僕は困惑した。その老人の顔だ。幸せそうに目蓋を閉じ、時おり顎をもごもごさせている。呼吸も穏やかだ。寝ているのか。苦しそうではない。若者の様な服装だ。だぼっと、した短パン、袖の短いTシャツ。周りを見回す。だれもいない。僕は今、携帯電話も持っていない。どうする。声を掛けるのか。どうする。揺さぶるのか。まじまじと見る。老人の顔だ。幸せそうに寝ている。僕は見捨てた。


 境内を進む。

老人が頭にこびりついている。僕は見捨てた。声を掛けるべきだったのか。寝ているように見えて深刻だったらどうする。いびきはなかった。静かに寝ているだけだった。酔っ払いさ。起こして絡まれたら面倒じゃないか。他の人が直ぐに見付けるさ。おざなりに参拝を終える。帰り道をどうする。数分だ。あの老人はまだ横たわっているんじゃないのか。遠回りをするのか。いらいらしてきた。救急車の音が聞こえる。じわじわと早歩きになる。すぐに小走りになった。もと来た道を進んだ。老人を起こすのだ。もやもやとした感情を終わらせる。速く速く。そしてその現場につく。もう老人はいなかった。周囲を見回すとゴミだしの女性や、マンションの階段を昇る若者がいた。それぞれ何事もなく日常を過ごしていた。もう何もなかった。


 ○


 

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