あ
○○
9番は目覚めた。
九番は目覚めた。自由を得た。うろうろしてよい時間を好きにして。三階の屋根裏に陣取り、何をするのだろう。
○
蠅の羽音。
一つ目の鳥居を潜ると、羽音が頭上を通り過ぎた。蠅か甲虫か。この寒いのに元気な事だ。あやかりたいものだ。
○
ぬるぬる。
火の夢を見る。感触もない。見るだけの平凡な夢。
白く吹き上がる火の丁寧な事。煙もなく、燃焼材も見あたらない。木々がかさかさに乾いて細く黒く立ち枯れている。
ぼんやりと火を見る。火の前に立つも熱くもない。白い気体と火の流れを眺めた。誰かが話す。ぬるぬる。厳めしく、もっともらしく。ぬるぬる。夢に意味を求める。
○
進展はなし。
また今日も進展はなし。
室温は寒く、床は冷たい。
逆上がりの練習を思い出す。
夜明けの暗がりに練習をした。
できた頃には授業ではもうない。
概念を教えればずっと早く終った。
握り過ぎるな、両腕を同じに使うな。
たったこれだけでも随分と違ったろう。
始まりの概念で躓けば長く手間が掛かる。
跳び箱でもそうだ、胴体を締めねば跳べぬ。
踏切板からの反作用も胴体を締めねば弱まる。
より簡易な練習を与え放置する事が促すとして。
始まりの概念を教えてはいけない訳などあるのか。
鈍くとも一言二言で済む話なのだから教えればいい。
知らないだけかもしれないのだから、始まりの概念を。




