あ
○○
二人は唇をそっと添わせて幸福を誓い合う。そしてその通り幸福になりました。めでたしめでたし。
○
物語ならそれでもいいだろう。まあまあだ。聖なる結婚に高らかな祝福あれ。恩賜に疑いなし。栄化された。白く丸く。結構な事だ。精神の内海から非体の乙女を見出だし、引き揚げる。手に手を取って。仲良しこよし。
それの何が引っ掛かるのか。
何が引っ掛かっていたにせよ、もう手放した。
○
抑圧だ。
自慰さえ禁じ。射精は夢精。そこまでして抑圧に抑圧を重ねて。失敗しては恥じ、恥じてはまた始めから抑圧してきた。歳をとり三十を越えてずいぶん楽になった。衝動に炙られて煮え立つ様に苛まれる事も往時ほどではない。そこへ女だ。
非体とはいえ、女だ。積み上げた失敗と恥は忘れるのか。諸々を脇にやって諸手を上げて歓迎するのか。それじゃあ今までのは何だったんだ。僕は僕を抑圧してきたんだ。何故。何故女なんだ。衝動より素晴らしいものを欲してきたから失敗も恥も呑んでやってきたんだ。今の今まで。それをよりにもよって女の為に捨てるのか。納得出来ない。じゃあ男なら良いのかと考えてみたが何ともはっきりしない。両性なら無性なら無機物なら良いのか。
結局何が出ても何かしら引っ掛かるのではとも考えている。それがなんであれ自我を脅かさずにはいられないだろうから。




