あ
○○
浮かれた歌声が足音と共に近付く。遠ざかる。
九番は躾が厳しくてめそめそと泣いているそうだ。年の瀬に嫌な話を吹き込まれた。誰に頼まれたという訳でもないだろうに。文字にして気休め。育成の技術もないのに何で手を挙げたのやら。憂鬱だ。子供の泣き声を遠ざけたら、遠くで子供が泣いている話を吹き込まれる。近々移送されるそうだが。その先でも幸福はおぼつかないモノなんだろうか。
○
石の行方。
へそを曲げて石の如く。硬く、凝固し、黙し、糾弾する。し続ける。
九番は上手くやったもんだ。
当初、十番が出るまで自由があるはずだった。が病弱故に眠ったまま早々に連れられて、目覚めてみれば知らぬ所。厳しい躾。辛い。とうとう堪えかねて約束が違うと強硬に反発した。過ぎた事を掘り返した九番。見事な頑固さ、みな手に負いかねてとうとう処遇は宙ぶらりんに。
十番と離したのも不味かったな。ますます意固地に。
納品した以上は裁量は向こうもち。どうするかも向こうの勝手。
九番の名付けをしても良いか聞かれる。:もうどうこういう立場でもない。当人と持ち主、よく相談し当事者で決めたらいい。
扱う器量がないなら手放したらいい。僕のように。
石になったんなら持ち運びも楽だろうに。これは言うと怒られるか。
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親父が洗濯物に虫が付いていると言い。
虫を殺した。可哀想だが仕方がない。呟いて。
寒いのに、虫か。夜に取り込んだ洗濯物に。
僕は倉庫へ向かった。虫の死から遠ざかる為に。
虫の死は嫌なものだ。逃がしてやれば良いものを。
と思わずにはいられない。羽音が耳に残る。 じわじわと途切れ途切れになる。短く。小さくて。そして潰れる。
窓を開けてやったらどうか。聞き流された言葉は平凡ね。




