おや
○○
流れ出た言葉を、
知らなかった。
形を作る。
雨上がりの曇り空。
寒さを感じている赤くなった手足の指。
警察官の到着まであと幾ばくか。
寒い。
再度110。
位置情報を特定に成功。
着信拒否設定は無効。
交換手のお兄さんにまだまだ掛かるか聞いた時、
とうとう警察官はやって来た。
27分に通報し51分に到着。
時計の長針真上に来ている、
かと思ったが履歴を確認したら速かった。
思ったより。
○
それもこれも これだ。
犯罪を感じさせる側溝に落ちている財布。
周囲を彩る、散らばるカード群。
そして折り畳まれた給与明細が、
側溝の蓋を置く為の段差に、
鎮座している。
手に取りやすい。
つい手が伸びて、拾おうとして思い止まった。
単なる落とし物ならまだヨイ。
犯罪の痕跡なら不味い。
触っちゃならない。
交番も遠い。
思い直した。
先に用を済ましとくか。
神社に行き、二拝する二拍手一拝する。
神々よ照覧あれ。
とって返して倉庫へ。
電話機を持ち現場へ。
110番へ通報だ。
○
そして
寒い。
待たされて素足にサンダルで、
寒い。
○
こういう場合。
犯罪じゃなかった場合には警察が拾った扱いなんだそうな。
つまり
僕には関係無いって事だ。
僕は拾ってないからね。
さよなら遺失物取得。
落とし主が現れ、
財布に100万ドル入っていた、としても一ドルも貰えない。
ああ、
善い事をした後は、善い事を為損なった事を思い出して、
気分が悪いなあ。
早く忘れないかなあ。
失敗の経験。
その日の夢も思い出せない。
実に徒労。
走って行ったせいか翌日つまり今日は筋肉痛に為った。
今日は珍しく参拝の帰りに、ごみを拾わなかった。
当然財布も見付けなかった。




