あ
○○
しかし不思議だ。わざとやっているのかも知れないな。判で押したように、規格品のように、同じ反応、同じ経過、同じ結末を辿る。月の満ち欠けのように決まりきった事柄。衝も最小満月も月蝕も日蝕もあり得ざる事もとんと出てこない。
青くも赤くもなく平常運転極まりない。
成功しか見えず、失敗を想像せず、自信に溢れ、善良であることを疑ったりしない。多分したこともないのだろう。一度も。
それでは失敗をしないでいられる訳もない。今までの方々と同じだ。全く同じ。誰がやったかが遷移するのみ。誰もが同じに振る舞う。自分は違うと信じて。その通りだ。自分は違う、その前の方々も全員そう言われた。自分は違うと。十年何度も聞いた決まりきった発言。皆さんそうおっしゃる。自分は違う。その通りだ。ただ、違う所はどうでもいい。違わない所がいつでも問題になる。そして、違わない所は皆さん認識せず、そのような部位があるとも考えず探そうともしない。違うとかどうでもいいのにね。
○
何も違わないか、聞かれて応える。:知らない。
何かないのか。:知らない。
本当に。:知らない。
小さいのも大きいのも知らない。透明な丸いモノを知らない。渡されているのか知らない。それが何かしら働いているのか知らない。検証不可能なモノを得ているのか知らない。それがよい事柄か知らない。
今まで通りだ。それだけが確かだ。歩いて、走って、階段を昇り降りて、立って座って、痙攣して、変わりはない。
食べて飲んで排泄して横たわって思い出して忘れて。痙攣した。代わり映えしない。何も違わない。
○
僕は腰抜けなのか。
暗く細い通路。自転車置き場だ。空がみえる。外にある。もうない場所。集合住宅のだった。取り壊され、また集合住宅になったが通り抜ける通路はない。
公園へ行くのによく通り抜けた。公園から家に行くのにも。細い、外の、東と西をつなぐ裏路地めいた通路を走った。
よりにもよって満月の晩に夢に見た。朝と言った方が正確だろうか。太陽が東に昇り始める前後、朝刊を配る原動機の音。群青の色。薄明かり。眠れぬ晩だった。目蓋を閉じ僅かに痙攣して過ごした夜。その後に見て触れられた暗い夢。
既に日は落ちて群青は黒く、僕は通路を通り抜けようとした。引っ越しのためか大型車両が通路の前にあった。通路をやや隠すように車両の前部が、通路を半分ほど隠すようにはみ出して。
人が通り抜けるのには問題ないだろう。自転車も気を付けて通れば擦らないだろう。車両を横目に通る。車両横を抜けると、ふいに自身の両腿が浮いた様に感じた。僕は立ち止まった。よく見た。進む方向を。西を。暗がりを。自分の家がある方を。
やっぱやめた。僕は引き返した。引き返そうとした。そして目が覚めた。
力を貰いそこなったのかどうか。




