あ
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背骨の直上。
人体は、そうは動かない。その軸が背骨の直上ではないからだ。
背骨の直上よりずいぶんと前、顎の上、額の上。そんな所に軸を想定し旋回させれば、当然少し回した時点で引っ掛かる。それでも旋回させれば爪先側へ体を持っていかれる。
背骨の直上よりずいぶんと後ろ、うなじの上、後頭の出っ張り。そんな所に軸を想定し旋回させれば、当然少し回した時点で引っ掛かる。それでも旋回させれば踵側へ体を持っていかれる。
背骨の直上から軸を想定し頭骨を旋回するのは正しい。構造に適している。
それゆえ、背骨や重心に対する作用が小さい。張りが欠乏しやすい。
対立する二つの旋回。混ざり合う二つの旋回。存在しない軸を想定し混ざり合う動作を作り上げる、痙攣の内で。
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人と話す機会がない。たまにする会話が難しい。
ああ、これこれ、これね。ふと気づいた、話振りにおっさん感がにじむ。自分の口振りから加齢を感じる。知らず知らずに若さは失われて。黙っている事にあまりにも馴染み、老け込んでしまったのか。
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女王。
霊媒が口を滑らした。あれは女王だから。あれこれと欲しがる。
満月まで五日。毎度の事ながら、僕に関係ない話だ。我が身に勝手に出来て、我が身で勝手に育ち、我が身から寝てる間に出荷される。恩恵も損害もない。
他愛ない満月の日のおとぎばなし。
しかし、女王か。生まれる前から命令する機能が、既に働いていたそうだ。
そろそろ眠っている女王を起こすだろうが、僕は恨まれて死ぬような目にあうのだろうか。
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鏡の中。
どうですか。行きませんか。ときた。憲法も警察もないところへは行きませんと断った。行きたい所へ行けるそうだが、僕は自分の部屋に行きたい。自分の部屋に。つまり、自分の部屋に置かれた鏡の中へ行くと自分の部屋に出るわけだ。堂々巡り。それが鏡にはお似合いだ。
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