へい獣センターやってない
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赤子を抱いて歩いている女性。その後ろ。
残暑がなかなかに暑い中。死んだ猫を拾った。拾った横の会社、その営業車に乗るおばちゃんに手を上げる。車で公道に出ようとしている。近寄り手振りを示す。車の窓ガラスを下ろしてもらい僕は言った。へい獣センターへ連絡してくれませんか。おばちゃんはガラケーしか持っていなかった。番号は分かるか聞かれる。分からない。連絡失敗。死骸と仲良く散歩が決まった。一時間としょうしょうの予定。
歩く。暑い。ぶらぶらする猫。指定のごみ袋に収まりおとなしい。
羽虫が集っていた猫。湿って重く痩せた猫。黒い猫。
大分歩いた。暑い。交番だ。ガラス扉を開けて声を掛ける。すいませんのら猫の死骸をあずかっているんです。へい獣センターに連絡してくれませんか。申し訳なさそうに、太めの警察官は言った。環境所の方へ連絡すると引き取りに来てくれます。
まだまだ歩く。暑い。重い。ぶらぶらしももにこつりとあたる。じゃれつくしんだ猫。まだ若い。仔猫ではないが成猫とも言いがたい。これからのはずだった猫。うちにいた猫とにた猫。
女性は赤子を抱き留め、僕は死骸をぶら下げ、同じ道を歩く。一方は一方を知らずに。楽しげに歩く。悲しげに歩く。話ながら。黙って。これから。これまで。
どちらも水分はたっぷりだ。
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へい獣センターやってない。
とぼとぼうちの店舗に到着。店舗の隅に猫を置いてバイトのおばちゃんに声を掛けようとすると、おばちゃんよってきて、休みが欲しいといいだす。娘の結婚披露宴に出席したいからと。僕はいいですよと答える。いいけど、猫の死骸の話をしずらいなこれ。出鼻を挫かれつつ話す。
保健所に連絡するんで、それまで置かしてもらいますよ。
どこでときかれたからちょっと遠くと答える。隣の隣の市で拾ったとは言えず。家に帰る。連絡する。へい獣センターやってないや。
環境所の方へ連絡する。繋がった。話をし、引き取りに来てくれることになった。住所を話し、近隣の地理を話し、連絡先を話し、氏を話し、連絡を終えた。
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なるべく見ない様にしました。取り去ると道路に跡がありました。そこに横たわっていた。左を下にして。
羽虫がわわと飛び去る。 猫だけをしまいました。
羽虫は機敏に離れ、猫だけを残して散り散りにどこかへ行きました。




