あ
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有意に痙攣する僕は虫の様だ。
痙攣し肩が滑り落ちる。乳首の上に。形を解き、肩を触り胸を触る。当然、肩は変わらずに在る。胸に新しいものはない。
形を作り、張り、痙攣する。すると、また肩は滑り落ち乳首の上に引っ掛かる。錯覚だ。たわいない感覚。肩が乳首の上から生えた様を想像してみる。まるで虫だ。痺れた腕と痺れた胸と痙攣の振動が引き起こす虫だ。新しい錯覚に少しだけ喜んだ。新しい発見。役立たずな発見。むなしい錯覚。
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御辞儀を。
御辞儀をする。腕の張りを回して。息を吸って。頭を前へ。腹を伸ばし、背を縮める。止まる。腕を二度張る。内へ張る。痙攣する。腕を張る。外へ張る。頭が上がる痙攣を連れて。上がったそこで一度張る。強く堅く張る。直立し頭は掲げられた。痙攣は堅く重く成った。
吸う吐く。
痙攣を連れて掲げられた頭をそのままに息を吸う。
声帯、軟口蓋、前頭部と引き締まる。前頭部が引き締まったなら息を吐く。狭めた声帯を開き、肩を左右後方に開く。また声帯を狭める。腰の反りをできるだけ崩さず前へ押す。指は浮く。浮いたら締める。
痙攣のために。
後頭に随意。下腹に痙攣。御辞儀をして腹を伸ばす。背の側は縮み、頭は掲げられる。声帯を広げては狭める。通っては軟口蓋へ響かせ、吸っては前頭へ締まる。吐いては後頭から肩へ腰へ、広げて狭めて背に通る振と張り。浮いたら締める。内、外、内。吸う様に吐けても吐く様には吸えず。吸って掲げて、吐いて掲げて。
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今度出る影ではない、本当の自分に会いたくないか。
言われて勿論、断った。断りの言葉はこうだ。そうやってほのめかしで人を動かそうとするのはやめなよ。だ。
言った僕も耳が痛い。ほのめかし、離間の術、痙攣者の面目そのもの。
精神の色形を眺めるなんてのは、やりたい人がやればいいのでは、と。
自分を直視とかろくなことがなさそうだ。それもたった一回こっきり。鏡なら現実ので間に合ってる。鼻毛とか確認している。
一回こっきりじゃあ気になるだけ。やっぱり毎日逐一確認できないと、みだしなみは。それが心身のどちらにせよ。経過観察大事。
一回だけなんてのはモノを知らんと思って下に見てる証だ。
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格子の角に黒い。
影と思ったらもぞりと動きがあった。蜘蛛か、ややでかいな。親指の第一関節位か。さらにもぞもぞと動く。いや亀虫か。黒い。黄色い斑点が横にある。賽銭箱の手前の格子穴へ腕を突っ込んで気付く。腕の一つ上の格子の虫。賽銭を手首の振りで投げ、腕を引き抜く。今堂々と現れた亀虫がのそりと格子の横に移り背を見せていた。気にしつつも二拝二拍一拝する。離れる。境内の小さい石碑前と英霊社前の賽銭箱にも回り繰り返す。帰る。
帰る際に亀虫はもういなかった。
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