272/493
眠りながら産まれた。
○○
眠っている。隔絶されている。千年でも万年でも、そのままそうして眠っていれば幸福なのではないだろうか。五年がまばたきならば幾億年でも。
眠る影は幸せだ。老いず、損なわず、増えず、在る。
役に立つといっても働きに出ることはない。空腹もないだろうから。
社会国家に奉仕する事もない。属していないのだから。
人から離れ、俗も聖もなく只眠る影は幸せだ。
いつまでも寝ていたほうがきっと幸せだ。
冗談かと聞かれたから本当だと答えた。
本当にそう考えている。眠っていれば知らずにすむ。眠ったまま産まれて、目覚めずにいる。費用も手間もない。寝ていればいいではないか、幸福の象徴として。眠る。美しい影。無縁無役。在るだけのまぼろし、もの。いつまでも起きず、いつか目覚める。明日か明後日か何万年か何億年か後に。いや、しかしもしかするとそれはすぐかもしれない。今まさに瞼を上げようとしているかもしれない。
○
いつ瞼を上げ始めるかさっぱり分からない。なにもかも終わるまで一度も開けることなく過ごすのかもしれない。
おわる泡沫かかわらない黄金の眠り。
○
○




