灯籠の脱け殻
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蝉の脱け殻はもう無い。風の強い日が。逆さの殻は落ちてもいない。
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腕を振る。右で振る。振られる右腕は遠ざかり近付く。減速もせず。戻ってきて左腕にぶつかる。左腕にのし掛かる。左腕は反転し擦過し受け止める。横から振る。上から振る。どんどん小さく。おにぎりを握る様に。反転擦過は消えた。おにぎりを握る。振って握る。平面へ撫で付ける。磨り潰す。打ち込みつつ受け流す。
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心理誘導は許されるのか。
透明ないかさま。場に御座す。何やら手練手管を用いれば誘導は成るという。記憶は終わりへ跳び。過程はない。本当かは知らない。が、本当ならそれはどこまで許されるのか。雰囲気はどこまで人を動かしたらその尊厳を損なうのか。またはけっして奪えず損なえないものなのか。 その尊厳は雰囲気か動かされた人か。
誘導の成果がうろうろと作業を為す。それを自らの働きと言っていいものか。
困惑もなくそれを為そうとするのは共感できない。仕方なきことといえど。
実験するのも厄介な。
霊媒に押し付けて見なかった事にした。
占い師になれると笑われた。酷いいかさまだ。当たる占い。客が自分から当たりに行く占い。茶番もいいとこだ。
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添えるだけ。
諸手に使う添えるだけ。鍔元近くに添えるだけ。柄にそっと添えるだけ。字面の皮の柔らかさ。柄尻のこぶしがみちりと緊縮する。腕一本の重みがのし掛かる。いっそ柄がへし折れて、壊れてしまえば楽になる。浮かぶ像。股肉に握りの間広く取り上から柄をあてがい柄と股肉で十字を成し体重を掛け柄をへし折る像。諸手の辛さ。片腕を乗せた辛さ。それが背筋を保つ。それが頭を前出させず。痙攣し耐える。左右の不均等は大。主と従より宿と寄が浮かぶ。宿主と寄生。
憎らしい腕を視界の隅に感じる。自身の片腕。のし掛かる腕。痺れた腕。他者の腕の様。下段は辛い。遠くで腕が柄にぶら下がって感じる。上段は苦しい。頭上から腕がぶら下がって感じる。中段はもどかしい。遠くぶら下がった腕が肩へ添えられて感じる。
支えさせられる腕も痺れている。加重に耐えて。主従の頃を懐かしみつつ。痙攣が無ければと思い。
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満月がまた訪れる。延期は取り止めになり、慌ただしく決行へ進む。取り出したる某かは海へ。




